179話 次元の戦争と聖属性
おいおい、これどうするんだよ!
ジャック・オ・ランタンは不気味な笑みを浮かべながらランタンの周りに黒い霧を発して俺達の攻撃を吸収する気満々だ。
とにかく地道に狩るしか無いのだが、先にジャック・オ・ランタンを狩らないと倒した側からモンスターが復活してしまう。
ジャック・オ・ランタンには物理攻撃が多少効く、だが、効果は今ひとつ期待は出来ないレベルだ。
ジャック・オ・ランタンの闇魔法は物理さえも飲み込む闇だ。
それ故に手強い相手と言える。
「ヴォォォォオ!」
そして、ブードゥーが乗っている合成アンデッドモンスターのパワーは類を見ない程に圧倒的で、一薙ぎで周囲のアンデッドを地に伏せさせる。
それにしても、ブードゥー達はアンデッド達と手を組んでいる訳では無いのか?
ブードゥー達は近くにいるモンスター達を片っ端から倒している様にも俺は見えた。
まぁ、それは良いんだ。
(ねぇ?ちょっと良いかい?僕ならあの霧の効果を弱める事が出来るよ)
え?唐突に頭の中にアクアの声が響いて俺は動揺する。
マジで?オリヴィエってそんな事まで出来るのかよ……。
「キュイイ!」
アクアが叫んだ瞬間周囲に虹色のドームが広がり、ジャック・オ・ランタンの霧が薄くなってジャック・オ・ランタンとアンデッド達……そして、ブードゥー達もが苦しそうにもがき始める。
まさか!?
俺は目を擦る。
「聖属性……?」
重光がポツリと呟き俺も確信した。
アクアの属性は今まで水属性かと思っていた。
オリヴィエだけの効果にしてはおかしいと思ってたんだ。
沼地階層で巨大鳥と戦った時、俺は負傷して裂傷を負った。
だが、あの時アクアの水玉を食らって傷が回復した。
確かにオリヴィエの効果もあった筈だ。
だけど……聖属性の回復、防御補正も入っていたんだな……。
聖属性は光とはまた違う属性で一部の適性がある人やモンスターしか使えないと言われている。
まず、俺達の中には適性があるって言う話を初期の頃にした筈だ。
光属性やただの回復魔法でも聖属性と似たような事は出来る。
だが、圧倒的に聖属性は有利属性や回復や防御に関して補正がかかるのだ。
詳しい事は分からないが聖属性は勇者とか、かなり修練を積んだ魔法使い、巫女などの人物が使っている事が多いとエルキンドから聞いた事がある。
何気にエルキンドはカードゲームをしながら、ロークィンドの小話をしてくれる。
中でも気になった話は次元の戦争と言う戦争についての話だ。
俺が見た夢と関係があるのかも知れないと思って聞いて見たが、巨大な大陸の様な飛行船の事は一切知らなかった。
相当な技術者と金持ち、そして、強力な魔法使いがいれば魔導船位は作れそうとの事だ。
だが、大陸の様なサイズの飛行船を作る事は不可能だと言われてしまった。
俺が見た大量の機械の様な兵士達に関しても、古代の遺産だったらあるかも知れないとエルキンドも頭を悩ませていた。
あれだけ博学のエルキンドでも知らないのだからただ俺が寝ぼけていた可能性があるが、どうも俺はそうじゃない気がしていた。
あの夢は生々し過ぎるのだ。
恐らく、あの夢にはまだ続きがあってまた見るのでは無いか?と俺は思っている。
もしかしたらエルキンドが住んでいた時代よりも前のロークィンドを見ていたのかも知れない。
そして、次元の戦争と言うのは世界が争った大戦争で敵対勢力のトップ同士がぶつかり合った時に次元が割れ、この迷宮に隔離されたと言う。
エルキンドは元々戦争に参加する予定だったのだが、ギルドの命令を切ったのだと言う事だった。
本来であればギルドの強制命令を切る事はギルドカードの剥奪や、更なる罰則などがある筈だがエルキンド曰く、死んだら元も子も無い。
まぁ、もう死んじゃったけどな。
との事だった。
エルキンド程の強さの人物が危機を感じて逃げ出す程の戦争……想像もつかない。
本来Aランクの冒険者がいれば兵士数千人分の戦力と言っても過言では無い筈なのだ。
次元が割れるか……そう考えると、俺達も次元を割れる位強くなればここから出られるのかな?
そこまで強くなれる気がしないけどな。
あのジジイでさえ次元を割る事は出来ない。
もしも、ここの迷宮もそれで望まぬ隔離をされたとしたならば……。
管理者と言われる存在も、ここから出る方法を探っているのかも知れないな。
「キュイイイイイ!?」
そこで、アクアの悲鳴で俺はハッとなる。
今はそんな事を考えている場合では無かった。
アクアはブードゥー達が乗っている大きな合成アンデッドモンスターに殴り飛ばされて、壁際で血を流してぐったりとしている。
しかし、アクアは力強い眼差しでそのアンデッドを睨みつけて視線を逸らさずドームも展開したままだ。
そして、アクアの身体の出血は自然に止まるが傷は塞がらない。
流石の再生力だが、急激に再生する訳でもない。
そして、あのアンデッドの拳の威力……聖属性魔法で弱体化して尚強しだな……。
ある程度成長したアクアの鱗を貫通してあそこまでダメージを与えるとは……。
今は森がどーのこーのグダグダ言ってる場合じゃねえな……。
「重光!予備のバリアを張ってみんなをシェルター内に入れろ!」
合成アンデッドもアクアを睨みつけて執拗にアクアを狙おうとする。
行けるか……?あの合成アンデッドを吹き飛ばすだけの威力はいるが、苦しみながらもこっちに近づいて来ている他のアンデッド達もいる……。
「内部圧縮属性付与 火ァァア!なっ!?」
「私もやる!」
「山西さん!?」
俺はシェルターを後ろに放り投げて展開して周囲に導火線の様にマナのバイパスを張り巡らせながら両腕に力を込めて、合成アンデッドを迎え撃とうとして、驚く。
何やってんだアイツ!
俺は合成アンデッドを吹き飛ばしながらチェインエンチャントで周囲のアンデッド達を一層しようと考えていた。
だが、シェルターから山西が出てきた事によって、その作戦は実行出来なくなる。
「私だって……!少しは役に立たせてよ!!」
山西の顔には覚悟の表情が浮き出ており、先程までの青白い表情とは全く異なった。
そして、山西が拳を握った瞬間俺と山西がいる場所を除く周囲の温度が一気に上昇した。