177話 森の死族達
「はぁあ!」
俺の抜き放った刀は綺麗にゾンビ犬の首元を抉り取る。
お前らの攻撃範囲じゃ、俺達の間合いにも入れねぇよ!
「気爆破」
そして、添島は正面にいるゾンビ犬達をオーラブラストで強烈な斬撃を放って一閃し、ぞ犬は骨を砕きながら身体のパーツをばら撒く。
俺達の攻撃によりゾンビ犬達はどんどん
数を減らして、残りはボス犬含めて僅かとなった。
もうお前達に勝ち目は無いぞ?
「グルルル!」
そこで俺が斬り伏せた筈のゾンビ犬が立ち上がって後ろから噛み付いて来るが、俺は刀の柄の部分で首元を引っ掛て回しながらエンチャントを発動させて、別のゾンビ犬の死体?にぶち当てる。
危ねえ……しっかりと死体は燃やさないとこいつら復活するんだった……まさか、こんなにも復活の速度が速いとは思わなかったがな。
もしも、俺達が火属性を使えなかったら再びゾンビエンドレスになってたかも知れない。
それだけは避けたかった。
俺は他のゾンビ犬の死体を全て燃やし尽くしてボス犬の方を向く。
ボス犬は大きな牙を剥いて、いや、元々牙が歯茎から露出してるから剥くとは言わないのかも知れないが、俺達に威嚇の姿勢を見せる。
いつ、飛びかかって来ても対処出来る自信があるが隠し玉の可能性も考えて俺は周囲にも注意を傾け刀を引き抜く準備を整える。
空気がシンと静まり返りその場に緊張間が漂うが俺達はジリジリとボス犬の周囲を囲むように近づいており時間が経てば不利になるのはボス犬の方だ。
(ドドドン ドドン ドドン!)
さっきからずっと鳴ってる太鼓の音が次第に大きく鳴って来ているな。
こっちに向かって来てる……早い内にこいつを片付けるか。
そう思い、先に動いたのは俺達だった。
「喰らえ!」
「グルルル!」
「影武者」
「泥沼形成」
「気貯蔵」
「……っ!!!」
それぞれが同時にボス犬に向かって集中砲火を浴びせる。
アクアは臨時で空中待機だ。
俺が抜き放った刀に反応したボス犬はそれを潜り抜けて俺に噛み付こうとするが反対方向から飛んで来た亜蓮のナイフに注意を引かれ、足元に形成された泥沼に嵌ってしまう。
そして、添島の容赦無い上段斬りがボス犬の肉体に叩き込まれる。
添島の攻撃をまともに食らったボス犬の肉体はへの字に曲がり、骨などが空中に飛翔する。
「もう一回だ」
更に添島はそのまま動けないボス犬目掛けてその傷口を抉る様に大剣を振り下ろしてボス犬が動かなくなった所で攻撃を止めて、俺が死体を焼却する。
全く。手間をかけさせてくれる物だ。この階層は奇襲にも注意だが、モンスターを倒してもメリットが少ない。
案外、隠れながら戦闘は避けた方が無難かも知れない。
「っ!?近い!すぐそこの茂みに隠れるぞ!」
ボス犬を倒してホッとしたのも束の間、太鼓の音がすぐ間近に迫っている事に気が付き、一旦隠れる事にする。
もし、良さそうな雰囲気だったら茂みから出ようと思うが何もかも分からない今では隠れるのが適切だと思った。
何だ!?あのアンデッドは!
太鼓を鳴り響きながら近づいて来る大きな影が木々を薙ぎ倒しながら隠れている俺達の目の前に現れ、ゾンビ犬の死体を眺めている。
太鼓を鳴り響かせているのは身長百センチ程の小さな人型のモンスターで、そのモンスターは腰布を纏っており頭には仮面を被っている。
身体は痩せ細っておりほぼ骨のようだ。
そして、腰布や頭の仮面には大量の屍のようなものがくっついており不気味だ。
俺が驚いたのはそのモンスターに対してではない。
真ん中にいる大きなモンスターだった。
あの小さな人形のモンスターは知っている。
恐らくブードゥーと言われるモンスターで部族を作って常に行動し、召喚術などの怪しい術を使うモンスターだと言われているが習性などの殆どが謎に包まれている。
身体から魔石が採取できる事からモンスターなのは間違い無いみたいだがな。
真ん中にいるモンスターは高さ五メートル程の背に鹿の骨の様な大きな頭に曲がった背骨を持っており、手は長く関節が三つ程あるように見える。
分かりやすく言えば古代の生き物であるメガテリウムやカリコテリウムなどの生物をかなり不気味にした感じだ。
うん、分かりにくいな。
その背に太鼓を叩くブードゥーが乗っており、足元で複数のブードゥーがゾンビ犬の焼け跡を調べている。
「※※※!」
そして、ブードゥー達が騒ぎ始めて自身の周りに黒い球を浮き上がらせて、辺りを舞わせ始めた。
不味い!ここから逃げないと!
黒い玉は自分で意思を持った様に暴れ回り触れた木々などを粒子状に分解していく。
あの玉はエネルギーや正気を吸い取る性質を持つ。
吸い取る量は多くは無いが、レジストする事が出来ない木々などはあっという間に正気を吸い取られて霧散していく。
このままでは俺達の場所がバレるのも時間の問題だ。
そう思い俺達はオートマップに従って真っ直ぐと森を走り抜けた。