175話 弱心
「おい、山西!目を覚ませ!」
完全に取り憑かれてる!?山西が翳した炎を回避し、山西に声をかけるが山西の反応は無い。
しかし、山西の動きは若干ラグがあり、技を出す瞬間に一瞬固まってるのが見えた事から完全に取り憑かれてる訳では無いのか?とも見て取れる。
だが、最初に俺が完全に取り憑かれてる?とと思った様に俺達の声に対して一切反応がないのだ。
確か、ファイアレイスは水属性を嫌う筈だ。
山西の身体を傷つけ無い様に浸水させる事も考えたが、レイスにとって酸素は必要ない。物理的に水属性の攻撃を与える必要があるか……。
すまない、ちょっと荒療治になるがこれしか思い付かなかった。
「属性付与 水!」
俺は拳に水属性を纏って山西の腹部を殴ろうとした。
「っ!?」
だが、俺は熱気を感じて後ろに下がる。
そして、俺の顔面すれすれを青白い炎が通り過ぎる。
元々山西がカウンター主体の戦闘スタイルだけあって、守りの方が得意か……?
しかも、レイスが取り憑いている影響か、魔法を使いこなしている辺り若干厄介だ。
やろうと思えば直ぐにでも攻撃を当てられるのだが、仲間なだけあって中々俺には踏ん切りが付かなかった。
「おい、安元。俺に属性付与をバイパス繋いでかけろ」
俺が苦戦していると横で考えていた添島が口を開いた。
「大怪我させるなよ」
「それは保障出来んが、加減はする」
添島の言葉に俺の顔が若干引き攣るが添島の言っている事も分かる。
それなりの威力で攻撃を叩き込まないとレイスが山西の身体から出て行く事は難しいのだ。
それはみんなが分かっているからこそ誰も添島に口出しをしなかった。
そして、俺はエンチャントを添島にバイパスを繋ぎ、添島が走り出した。
山西が青白い炎を放出させるが、添島はそれを拳で打ち消して行く。
おい、俺のマナめっちゃ食ってんだけど……ただでさえ燃費悪いんだから無駄遣いは控えて欲しい物だが、今はそんな事は言っている場合じゃない。
「っ!?」
そして、添島の拳が山西の腹部にめり込んで、水が放出された。
その瞬間、一瞬レイスの姿が山西の上空に浮き上がった。
「重光!今だ!」
「分かってる!水槍!」
そして、添島が合図を出し重光がそのレイスを狙い撃つかの様にウォーターランスを放ってレイスを分離させた。
するとレイスは分が悪くなったのか再びケラケラと笑い始め、膨張し始めた。
あれは!?
俺は危険を感じて急いでシェルターを取り出して吹き飛んでぐったりとしている山西の方へと走る。
そして、仲間全員がシェルターに潜り入った瞬間外で大きな爆音が聞こえシェルターは再び液体となって瓶の中に戻った。
あの野郎……自爆しやがった……!?
だが、俺達は山西をレイスから取り戻す事に成功した。
「ん、私……何を……痛っ!?」
「覚えていないのか?」
携帯シェルター内で山西が目を覚まし、俺達が声をかける。
「添島お前ちょっと強くやり過ぎたんじゃないか?」
「これくらいやらないとレイスを追い出す事は難しいと俺は踏んだんだが……少しやり過ぎた。すまん」
添島が謝るが、正直しょうがなかったと俺は思ってる実際山西も重傷って訳でも無いんだし、結果オーライだ。
山西にレイスに取り憑かれている間の記憶を辿るが、あまり良く覚えていない様だ。
だが、
「マナの力は感じたの。そして、少し安元君達に敵意を持った気がしたの」
山西は自身の手を顔に当てて身体を震わせる。
どうも山西の調子が最近おかしい。
いつもなら突っかかってくるのだが、今はそんな元気は無い。
まぁ、こんな事があった直後だからってのはあるだろうが、口調も弱々しい。
そして、敵意を俺達に少し持ったと言うのも気になる。
レイスの能力に洗脳系の物はあり操られているってのはあるだろうが、山西の中に記憶が多少残っている事からレジストに少し成功していたと思われる。
恐らく、俺達に対する攻撃が少しラグがあったのもそのせいだろう。
俺はそこの点をレイスの洗脳の所為だと考えて山西に励ましの言葉をかけて、体力回復の為にも少し休息を取ることにした。
山西はそれに対して頷いていたものの依然表情は暗いままで元気が無く、何か考えている様子だった。
「私だって戦える……」
山西はそっと拳を握ってマナを込めるが何も起こる事は無く、その声も誰にも聞こえる事は無かった。