172話 憑依
「重光!?」
「ヴァァ!?」
吹き飛んだ重光はそのままの体勢でエンチャントのかかったロッドで肩に噛み付いたままのアンデッドを引き剥がそうと殴りつける。
その予備動作を見たアンデッドはバックステップで重光から離れる。
良かった。アンデッドに噛まれたら重光がゾンビ化してしまうのかと思ってた。
だが、重光の肩口には紫色の液体が付着しており、目の前のアンデッドの口元からも紫色の液体が流れ出ている。
毒か……アンデッドだからそれくらいはあっても不思議では無い。
それにしても……この階層にはアンデッド以外のモンスターは生息していないのか?
俺はそんな疑問を浮かべる。
奴の動きはそれなりに素早いが、俺達が捉えきれないレベルでは無い。
虚を取られなければどうって事は無いだろう。
「ヴァァ!」
目の前のアンデッドは素早くステップを踏んで走ってくるが、次は同じようにはいかない。
「ヴァァァァア!?」
「駆除完了」
横から亜蓮が炎の付いたナイフを投げてアンデッドの額に直撃させたのだ。
そして、アンデッドは炎に包まれて悲鳴をあげて、炭となった。
「重光!お前身体に異変は無いか?」
「ええ、相手の牙がローブの内側を貫通していなかったから無事よ」
重光の身体を心配するが、重光は大丈夫そうだ。
流石はオーアゴーレムの鉱石を編み込んである鎖帷子だ。
状態異常は勿論の事、防御面も問題ない。
これからもアンデッドが襲ってくるかもしれない。
地中だけじゃなくて前方にも注意して行こう。
それにしても、物凄い数の墓だ。俺達は墓と墓の隙間の墓道をゆっくりと歩いて行くが、歩いても歩いても途切れる様子の無い墓に申し訳なさを感じる。
いや、迷宮のオブジェクトと分かっていても気まずいものは気まずいのだ。
まぁ、容赦無くエンチャントとかで地面のアンデッド達は焼き尽くしながら進んでるけど……。
そしてそのまま進んでいると辺り一面には青白い光の玉が浮遊し始めた。
人魂?気味が悪いな……そして、カチカチと骨が鳴る音も聞こえる。
うわ、スケルトンも近くにいるな……。
だが、辺りに浮遊している人魂は俺達には攻撃してこない。
受動的な感じか?
しかし、一つの人魂が真ん中がパックリと割れ不気味な口の様な形を作り出してケラケラと笑い始めた。
何だ?
そして、人魂は俺達の周りを回りながら一斉にケラケラと笑い出す。
そして、徐々にその速度は早まって行き、笑い声は大きくなって行く。
なんか腹立つな……。
「内部圧縮属性付与 火!!!」
俺はケラケラと笑い続ける人魂に腹が立って中心に人魂が一斉に集まった瞬間にインプレスエンチャントを腕から放出した。
「安元お前何してんだ!避けろ!」
「!?」
俺が人魂達に向かって爆炎を放出した瞬間人魂達がその炎を吸収して巨大化したのだ。
それで俺は危機感を感じて、携帯シェルターを即座に展開して全員で中に入った。
(ドガァァアン!)
そして、外で巨大な音がして携帯シェルターが弾み、元の銀色の液体に戻って瓶の中に収容される。
(ケラケラケラケラ……)
ファイアレイスか!?俺達の周りんケラケラと笑いながら回っていた人魂……いや、ファイアレイスは元の大きさに戻ったもののまだケラケラと笑っていた。
青白い色してるから、サンダーレイスとかアイスレイスかと思っていたが違ったようだ。
それにしても、カオストロに貰った携帯シェルター……許容量のダメージを超えたら自然に元の形に戻る様になってるのか。
これなら敵の攻撃で壊れる事は無いな……。
それにしても、何だ?この威力は……。
周りを見ると辺り一面は地面が赤熱しており、周りの墓は殆ど消し飛んでしまっている。
レイスは自分の得意属性の魔法やスキルを威力増幅させて跳ね返すってのは知ってたが……まさかここまでとはな……。
そして、ファイアレイス達はケラケラと笑いながら気絶している山西の方へと近付いて行き、山西の中に入り込んだ。
「!?」
「がっ!」
すると、山西は自分を担いでいた添島を逆に投げ飛ばして俺達から距離を取る。
そして、にやりと不気味な笑みを浮かべて身体の周りに青い炎を浮かべている。
取り憑かれてる!?
「山西!目を覚ませ!」
「異常回復」
重光が、異常回復魔法を山西に飛ばすが山西は青い炎を壁にして立ち上がらせて重光の魔法を回避してこちらに向かってくる。
速い!山西の身体は赤色や青色など色々なエネルギーが纏われている事から走りながら身体強化魔法を詠唱したと思われた。
元の山西よりも明らかに身体能力やマナ量が上昇しているな。
俺達は山西に声をかけるが山西が目を覚ます様子は無い。
そして、相手が山西な事もあって俺達は攻撃するのを控える。
どうしたら良いんだよ!
その時だった。
(ドンッ!)
大地が揺れた。
何だ!
それと同時に山西が纏っている青色の炎が呼応するかの様に燃え盛り、ゆらゆらと揺れる。
「ヴガァァァァァア!」
ガルガンチュア!?地面から大きな鳴き声が聞こえ、巨大な緑色の腐りかけた肉体を持った巨人が現れた。
あれはガルガンチュア……。ゾンビの仲間で巨大な身体は仲間ごと薙ぎ払う無慈悲さを持ち合わせているという、Bランクモンスターである。
こんな時に!?
さっきの大爆発がこいつを起こしてしまったか?
ガルガンチュアはこちらを向いて再び咆哮を上げ、山西はケラケラと笑いながら走り去って行った。
「おい!山西!待て!」
「ヴガァァァァァア!」
俺が山西を追う!と言いたい所だったが、ガルガンチュア相手では流石に分が悪い。
さっさとこいつを倒して山西を追うぞ!
俺達は覚悟を決めた。