164話 カオストロの薬品
水飛沫と同時に周りの兵士達は色を変色させて吹き飛ばされ砕け散り、それと同時に俺の体内のマナが一気に無くなる。
身体もボロボロで、マナも無い。
こんな状況で何が出来ようか……。添島も攻撃が通らず若干押され気味だ。
山西も立っているのが精一杯で、海の様に湧き出てくる砂塵兵達に狙われており絶体絶命だ。
もちろん、上位砂塵鎧兵を食い止めるので精一杯の添島は山西の方に注意を裂く余裕など存在しなかった。
そこで俺は何が出来るかと考える。
そこで思い出した。
カオストロに貰った大量のアイテムだ。防護シェルターでも山西に向かって被せれば……いや、それは長期戦になるだけだ。
グレネードで砂の壁を破壊する事や上位砂塵鎧兵を吹き飛ばす事も考えたが、向こう側に重光や亜蓮がいてその様子が分からないと言う事と添島を巻き込む可能性を考えたら容易にはその選択は出来なかった。
(ドンッ!)
そう考えていた直後だった。
先程俺を貫いた大弓兵の巨大な弓矢が砂の壁の端を抉りながら宮殿の壁に突き刺さった。
その瞬間一瞬だけ、向こうの様子が見えた。
重光は壁の端の方へと砂塵魔導騎士に追い詰められており、アクアは既に身体に複数の傷跡が見える。
アクアは虹色のドームを展開して殺意剥き出しで口元には水玉を蓄えた状態で素早く動く魔導騎士の攻撃を食い止めていた。
もはやシューティングゲームだが、砂塵魔導騎士は魔法で相殺しつつ立ち回りアクアと重光の攻撃を避けて行く。
外したアクアランスなどが壁に突き刺さる度に砂塵魔導騎士はチラチラと王に何かを確認しているが何かあるのだろうか?
割と良い戦いをしているのだが、このままだと確実にアクアと重光が力尽きてしまうだろうな。
そして、亜蓮は超越していた。山西のバフの恩恵を最大限に発揮してどんどん砂塵兵達を葬るペースは上昇している。
だが、そろそろエンチャントが切れる頃だ。
エンチャントが切れてしまったら亜蓮も不利になる事は間違いない。
先程砂塵大弓兵が矢を外したのは亜蓮がシャドウウォーリアでも当ててくれたのだろうな。
助かる。
その光景が見えたのも束の間、砂塵王はすぐに砂の壁を修理し、亜蓮達の様子はすぐ見えなくなる。
アクアを通せば様子は分かるのだがアクアに俺と会話する余裕は今は無い。
だが、向こうの状況が分かった所で全体的に不利なのは変わらない。
やりたくは無かったがこれをするしか無い。
俺はマジックバックから飲用と思われる数本の瓶を取り出して一本ずつ飲んでいく。
賭けだった。カオストロが使っている薬品を俺は摂取したのだ。
マナを回復する物や傷を治療するポーションの様な物があれば良いと思ったのだ。
一応草原階層で手に入れた素材で作った自作ポーションはあるが性能が低く、重光の治療魔法で治療した方が良いレベルだ。
当然今の俺の怪我を治すことは出来ない。
最初に金属的な輝きを持つ赤橙色の不思議な液体を飲んだ。
テカテカと光るオレンジジュースの様な見た目だ。
匂いは無臭で、味は鉄錆の様な感じであまり好んで飲もうと言う味では無かった。
しかし、飲んでも変化は無かった様に感じた。
薬品にもやっぱり消費期限の様な物が存在するのだろうか?
そして、次に飲んだ薬品は真っ赤でドス黒さが見える劇薬の様な薬品だった。
え、これハバネロソースとかじゃないよな?
そう思いながらも時間が無いので急いで一気飲みする。
「がっ!?」
飲んだ瞬間身体に異変が起こり俺は飲みかけていた瓶を離して手から落とす。
味なんて問題じゃない!?全身の血液が沸騰するように熱くなり、内臓は破裂する様に痛い。
身体もキシキシと一層痛みが強まる。
何だこれ!?マジで劇薬じゃねえか!?
その後、緑色の液体と青色の液体を飲むと傷がみるみる回復し、マナも全回復した。
というよりいつも以上にマナ総量も増えた気がした。
だが、身体の調子がおかしい。カオストロのポーションの効果は格別に高くかなり上級のポーションだと思った。
それは良いのだ。傷が回復した筈なのに身体中が痛いのだ。
まだキシキシと身体が痛み内臓も破裂しそうな痛みだ。
あの劇薬マジで飲んじゃヤバい奴だったか?
そう思いながらも復帰する事に成功した俺は十手で弾かれて砂塵鎧兵に吹き飛ばされて、追い詰められている添島の援護に向かおうとする。
そこで俺は変化に気が付いた。
一歩足を踏み込んだ瞬間全身の血液が沸騰するかの如く熱くなり、俺は急加速した。
速い。今までに無い速度だ。もしかしたら亜蓮よりも速い、いや、確実に亜蓮よりも速いな。
「内部圧縮属性付与 水!」
俺は距離を詰めてくる上位砂塵鎧兵に向かってインプレスエンチャントを撃ち出した。
間違いなく今までよりも詠唱から発動までの時間が短かく、ほぼ無動作で俺はインプレスエンチャントを発動させる。
「!?」
そして、俺が発動させたインプレスエンチャントは上位砂塵鎧兵を王の間の砂の壁を突き破って端の壁まで吹き飛ばした。
何だこの威力は!?
撃った俺自身が驚いた。今までの威力だと上位砂塵鎧兵はインプレスエンチャントは数発は耐える筈だ。
だが、今回の一撃で上位砂塵鎧兵は全身浸水しており、王の間の壁で横たわったまま動かない。
いける!恐らくこれがカオストロの薬の効果なのだろう。
だが、強力な効果には代償が必ずある。
「ぐはっ!」
俺は内臓の痛みに地面に倒れこむ。
地面には血が付いており、俺は吐血したらしい。
身体能力の絶大な強化の代わりに自らの身を削るって事か!?
俺はあの薬を半分も飲んでいない。なのにこの効果だ。
もしも全部飲んでいたら俺は死んでいたかも知れない。
「添島は山西の護衛を……俺は奴を殺る」
「分かった」
添島は何も言わなかった。
もう、何かを言っても無駄だと思ったのだろうな。
薬の効果時間も分からないし、効果時間が長いと俺は自傷で死んでしまう。
やはり、短期決戦のみか……。
俺はキシキシと痛む身体と内臓に鞭を撃って砂塵王達がいる方向へと走り出した。
身体能力が上がった筈なのに身体が重くなった気がするのは多分自傷効果のせいだろうな。
俺は自身の身体の変化に困惑しながらもボスを倒す算段を立てた。