163話 短期決戦
王の間の吹き抜け上部の扉が吹き飛んで重光とアクアが加勢する。
重光は既にアクアランスの詠唱は終わっており準備は万全だ。
重光達が加勢した事により砂塵兵達は少し後ずさりをして砂塵王に顔を近づけて何かを話す。
すると王は頷き砂塵兵達は一斉に行動開始する。
魔法を使う重光は厄介だと思ったのか、重光の方へ砂塵魔導騎士を向かわせる。
厄介だな。
砂塵魔導騎士は魔法も使えながらも近接戦闘もこなせる万能タイプの砂塵兵だ。
攻撃力や耐久力は上位砂塵鎧兵程では無いがそれなりの起動力と攻撃、耐久全てを兼ね備えているエリートだ。
距離を詰められたら重光は恐らく砂塵魔導騎士には勝てないだろうな。
そして、俺達の所には上位砂塵鎧兵が向かって来ている。
先程より、傷は癒えてはいるもののまだ一部は濡れたままであり、動きは万全の状態では無さそうだ。
砂塵王は辺り一面の砂を巻き込んだ状態で兵士を作り続けており、本体は一切動かない。
あれも厄介だ。放置していれば、王の間は砂塵兵だらけになってしまって、俺達が不利になるだろう。
だが、俺は気が付いている。砂塵王の砂は無限では無い。
どこかから砂を掻き集めている様にも見える。
だけど、それに気が付いた所でこのボス部屋の砂の量は膨大であり、ほぼ無限に近いから意味は無いんだけどな。
「属性付与 水!」
俺は仲間達に水属性を付与して添島の後ろに回る。
もう俺の残りマナが少ない以上は無駄にマナを使うのは控えた方が良い。
インプレスエンチャントを使うのは大事な時だけだ。
チェインエンチャントはまだ使えるが、あの技は単体に対する威力が低く、決め手に欠けている以上今使うべき技では無いのは確かだ。
動きの鈍っている上位砂塵鎧兵ならば、添島と当てるのがベストだと俺は考えている。
「加算二重強化 破速防!!!」
なっ!?そこで山西は驚くべき行動をする。俺達に対してマナ限界ギリギリのバフをかけたのだ。
馬鹿野郎!?敵が複数体いる状態でそれは愚策だぞ!?マナ切れの状態は動けなくなる。
つまり、敵にとって格好の的だ。山西のマナ総量が多少増えたのかまだ気絶はしておらず気持ち悪そうにしている。
「う……短期決戦の方が良いんでしょ?長引いた試合したら負けるのは私達の方よ」
元々山西の強化でブレイクは俺達のマナ消費量が増える為長期戦には向かない技で、短期決戦に適している。
確かに、俺は心の中で長期戦なると不味いとは思った。
だが!焦って自滅したら元も子も無いじゃないか!?
しかし、普通にやっても突破できる気はしなかった。
やっぱり、俺達には確実性を求める戦いは向いて無いな……!
ギャンブラーでこそ俺達なんだ!
スパイルの戦いは確実性を俺達に教えたんじゃ無い。
戦闘中にどれだけ冷静に沢山の戦略を柔軟に組み立てられるかだったんだろ?
俺達は勘違いをしていた。
本来ならば不利な状況なのに何故か俺の口元は笑っていた。
「それでこそ、俺達だよな」
俺はそう口ずさんで両手に力を込める。
マナの残りが少ない?そんなの知った事かよ。
今撃つが出来なくていつ撃つんだって話だ。
「ぐっ!?」
添島が走って大きな武器を振り下ろしてくる、上位砂塵鎧兵の攻撃をしゃがんで避けて横薙ぎの攻撃を撃ち出すも、左手の十手に再び防がれる。
やっぱり硬ぇな……。
だが、後ろには俺が控えてる!
「内部圧縮……っ!?」
俺が添島の後ろから周り込み上位砂塵鎧兵へとインプレスエンチャントを叩きこもうとした瞬間だった。
唐突に俺の視界が真上に向いて意識が遠のく。
そして、胸部に鈍い痛み……。
「ぐわっ!?」
「安元っ!?」
そして、俺は吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
胸部の防具は粉々に砕かれており、俺の胸からは血が薄く滲んでいる。
「ぐっ!?」
起き上がろうとすると胸部に激しい痛みが走り起き上がれない。
これ肋骨折れたな。
そして、俺の視線の先には弓を引き放った状態の砂塵大弓兵と、大量の砂塵兵、そして、俺に向かって飛びかかろうとする暗殺者風の砂塵兵が見えた。
この状態でも何とかインプレスエンチャントは撃てる筈だ。
だが、敵の数を考えたらチェインエンチャントしかない!
亜蓮が必死に増殖する砂塵兵達を葬っているが砂塵王はそれ以上のペースで砂塵兵を生み出していき、更には砂の壁を形成して俺達を隔離した。
壁の向こう側には亜蓮と重光、そして、砂塵王と大量の兵士、砂塵大弓兵、砂塵魔導騎士がいる。
向こうの様子は見えないが砂塵大弓兵はあの壁を貫通して先程俺に与えた様な攻撃をしてくるだろう。
そして、大量の砂塵兵達も砂の壁は同化するだけで簡単にすり抜けられるのだ。
チェインエンチャント……これを使ってしまえば俺のマナは無くなってしまう。
だが、使わなければ俺は死ぬ。
何がギャンブラーでこそ俺達だ……!ただの馬鹿じゃねえか!
俺は悔しさを噛み締めながらそっと言葉を紡いだ。
「連鎖属性付与 水」
それと同時に起こった水の爆発が起こした青い水飛沫は何か悲しいような虚しいような悲壮感を漂わせていた。