160話 王の間
俺達は上位砂塵鎧兵の通って来た隠し道を進む。隠し道は地下に向かって伸びており、色んな場所から道が伸びている。
だが、地下に通じる道は一つだけだった。
流石にここが迷宮のボス戦である以上は宝物庫みたいな所は無いと思うのだが、どう見てもその地下への道がボスへの道だと思った。
亜蓮に罠をチェックしてもらいながら進んでいるが、今のところ罠は無く、敵も出て来ていない。
そして、壁に砂が付着しており上位砂塵鎧兵が通った道まで丸分かりである。
奴は戦闘面では頭は回るが、普段は抜けている性格なのかもしれないな。
しばらく地下への道を進むと、大きな扉がある場所に辿り着いた。
「気配を感じるか?」
俺達には離れた場所から相手の強さを測れるほど実力が無い。
だが、一応聞いてみたのだ。
「重光でもいれば多少は変わるんだろうが、俺には判断しかねるぜ……」
添島が少し悲しそうに頭をぽりぽりとかいて答える。
気の扱いに長けた添島でも気配で敵を遠距離から感じる事が難しいのか……ド◯ゴンボ◯ルみたいな事は無いんだな……。
それに敵も強くなって来てるから気を隠せる敵も増える筈だ。
そして、俺達は覚悟を決めた。
残りマナ的に長期戦になるのは俺達の負けを意味する。
短期決戦で決めるしか無い!俺はそう思って巨大な扉に手をかけて開けた。
「キタ……ワタシ……オウ……スナ……スベル……」
その瞬間片言の声が右側の方から聞こえて振り向く。
するとそこには衝撃の光景が広がっていた。
真ん中にある大きな椅子に座る王冠を被り豪華な鎧を着ている様に見える巨大な砂塵兵……砂塵王だ。
砂塵王は四十階層のボスでもあり、先程声を発した本人でもある。
上位砂塵鎧兵はどこの言語か分からない言葉で話しているが、砂塵王は片言ながらも確かに日本語を話したのだ。
どつやって勉強したのかは分からないが、ボスである以上は一定周期で倒される事になる。
そうなれば、こいつも長くは生きてない筈だ。
しかもボス部屋にしかいないから日本語が話せる奴らが来る事は滅多にないし、日本語が例え話せる奴らが来たとしてもすぐにこいつを討伐するだろう。
もしかしたらボスは倒されても記憶を持った状態とかあるかもしれない。
しかし、それだと強過ぎないか?後から来た人が不利になりそうだ。
そして、俺が驚いたのは砂塵王にでは無い。
ボスが砂塵王なのは何となく勘付いていた。
しかし、今俺が驚いているのは王の周りのオーバースペックな戦力である。
まず先程俺達が逃した上位砂塵鎧兵だ。
奴は今王の隣で砂を纏って傷ついた身体を癒している。
本来ならば今すぐにでも攻撃をしたいのだが、出来ないのには理由がある。
まず砂塵王が隣にいる時点で俺達の攻撃は防がれてしまうだろう。
そして、王の少し後ろには巨大な弓を持った砂塵兵が、俺達を迎え撃つかの様に大弓を構えている。
勿論そいつも弓兵でありながら高さ五メートルくらいはある。
そして、王の前には魔術師っぽい形を砂塵兵がいるが、そいつも大きく、威圧感も半端では無い。
しかも、その魔法使いの身体の形は魔法使いとは思えない程がっちりとしており、その形も重装備の形に近い。
恐らく強さは上位砂塵鎧兵クラスが三体いると思って良いだろうな。
敵強すぎじゃないか?
水分を含ませた攻撃で浸水させれば複数体ても何とかなるが、上位砂塵鎧兵クラスの敵三体に加えて砂塵王までいるこの状況はかなり厳しい。
しかも、相手も弓兵、魔導騎士、上位鎧兵とバランスか良い。
確か砂塵王は戦闘能力は高いのは高いが、周りの三体に比べたら少し劣るとジジイの図鑑には書いてあった。
だが、大量の兵士達を統べているだけあり兵士の製造や治療などは大の得意分野で無限とも言える軍団も作り出す事が可能かと思われる。
さて、これはどうしたものか。
「コナイカ……ナラバワタシタチカライクゾ」
砂塵王は扉の前で冷や汗を垂らしながら突っ立っている俺達を見て落ち着いた口調で告げた。
その言葉を皮切りに三体はそれぞれ別の方向に動き出した。
先程治療中だった上位砂塵鎧兵は王の近くから砂が遠隔で飛ばされており回復しながらこちらに向かって来ている。
そして、王の周りに砂が集まり大量の砂塵兵や砂塵鎧兵などが生成されていく。
その中にはまだ俺達が見た事が無かった足の長い姿をしたエンダーマンの様な砂塵兵や、フードを被った様な形をした暗殺者風の砂塵兵まで存在していた。
俺達こんなのに勝てるのか?
いや、やるしか無い!
そう思って両手に力を込めた時だった。
(ドンッ!)
「……!?」
上の方で扉が吹き飛び砂塵魔導騎士が即座に反応して砂を固めた巨大な岩石砲を放ち空中で大きな音を立てて砕け散った。
砂塵大弓兵が元々いた所には泥沼が形成されており、砂塵大弓兵は大弓を担いで後ろに下がって回避する。
何が起こった!?
「遅くなったわ。今から私も加勢します!」
王の間の吹き抜け部分の上部の扉のあたりから重光の声が聞こえそこにはアクアランスを展開した重光の姿があったのだった。