158話 玄関突入
「連鎖属性付与水!」
俺はニヤリと笑って導線のように張り巡らせた周囲をかつてスパイル戦で行った爆発の様に、水で覆い尽くして破裂させる。
仲間達は咄嗟に重光が発動させたエリアバリアに守られており水圧で吹き飛ばされたりはしなかった様だが、どうも不服そうだ。
そして、破裂した水は空気中の粒子から粒子を伝うように水を広げて行き、ボス部屋全体がミストの様な物で覆われ、湿気を帯びる。
チェインエンチャントは空気中にバイパスを繋ぎ、最初から広範囲を攻撃しつつ近くの物質などに連鎖し、エンチャント効果を付与していく。
そして、付与し続けて遠くの対象
に技を届けるという何とも遠回りな技だ。
当然連鎖すればする程攻撃範囲は絶大に伸びるが威力や効果は下がる。
結局は猫騙しに過ぎない技なのだが、雑魚が複数体いる時や今回のような弱点が露骨な相手には効果的面だ。
マナ消費量は多いが、元々どの技を使っても燃費の悪い事には変わりは無いし、俺の元々の課題だった遠距離攻撃手段や範囲攻撃はこれで解消されそうだ。
それと同時に威力が抜けたがな。
俺の攻撃で全身に水分を帯びた砂塵兵はバラバラになって合体する事が出来なくなり一斉に個人に分かれてドサッと言う重そうな音を立てて地面に着地する。
「……」
チッ……!?砂塵鎧兵は流石に無理か……至近距離で俺の水飛沫を食らったと思っていたが、仲間の砂塵兵でガードしたようだ。
砂塵鎧兵は巨大な薙刀の様な武器を正面に構えて空中に飛散する水飛沫を切り裂きながら俺に対して鋭い突きを放つ。
「気爆破」
だが、それと同時に横から添島が大剣で叩き斬る様に砂塵鎧兵を吹き飛ばした。
「そう言う技使う時は事前に言えよ。お前が無鉄砲な奴なのは知ってるけどな……俺達も魔法がどうのこうの言ってる場合じゃねえからな!」
添島はそう言いながら背後から上段に構えた薙刀を振り下ろそうとする砂塵鎧兵を振り返りざまに一計し、薙刀を身体をずらして避けて返しの大剣で吹き飛ばす。
砂だから脆いのかと思ってたけど割と硬いのな……添島の攻撃を食らっても砂塵鎧兵は再び立ち上がる。
添島の攻撃が当たった部分が黒く変色している事から砂塵鎧兵も水が浸透して動きが鈍くなる事も分かっている。
だが、俺達は気が付いていた。
四十階層のボス戦がこの程度な訳が無いと。
確かに砂塵兵達は弱点をつけなければ面倒だが、それを踏まえても何か物足りない気がする。
未だ本命のボスモンスターが顔を出さないのも気になる。
そして、宮殿内の兵士達は倒しても倒しても一向に減る気配が無く、まるで俺達を揶揄っている様にも感じた。
これ、ある程度倒したらボスが自ら出てくるパターンじゃなくて嵐の様な攻撃をかいくぐりながらボスを探せって奴か?
因みにだが、砂塵鎧兵の戦闘能力は添島が軽々吹き飛ばしているから弱く見えているものの結構耐久力が高い。
水に濡れて動きが遅くなって分離も出来なくなっている状態でも添島のオーラブラストを耐えるタフネスは馬鹿にはできない。
その姿は四十階層直前に戦ったオーアゴーレムを彷彿とさせる。
しかも面倒なのが、最初は中ボス格かと思っていた砂塵鎧兵が次々と湧いてくると言う点だ。
吹き飛ばしても完全に死ぬ前にもう一匹、これを繰り返してどんどん数を増やしている。
このままでは押されてしまうな。先程重光が防護壁を使った事により、山西と重光も攻防に参加している。
あと少しだな。
山西はマナの消費量が増えるブレイクは置いといて取り敢えず敵が多くコンボ倍率が多く乗りそうなエイドダブルアップを俺達にかける。
そして、重光はアクアランスの準備だ。
取り敢えず目の前の兵士達を退けない限りは俺達は先に進めない。
水属性の攻撃が得意なアクアを重光の護衛につけ、俺達は突破のタイミングを見極める。
遠距離から魔法を察知した兵士達が弓を引いているが、それは全て亜蓮が一撃で息の根を刈り取る。
魔法使いの様な砂塵兵が砂を掻き集めて何かを放っているが、水を含んだ砂は重くまともに狙う事さえままならない様だ。
そこで遂に重光がアクアランスを発動し、砂塵鎧兵ごと複数体を巻き込んで正面の玄関への道を作る。
流石の砂塵鎧兵も自身の苦手な水属性の攻撃で全身をドリルの様に抉られるのはひとたまりもなかったらしく無惨にも固まった砂を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
「ちょっと下がってろ!内部圧縮属性付与水!!!」
そして、俺達はその隙を突いて俺が圧縮した水を高圧洗浄機の様にぶち撒けて玄関の扉をぶち破る。
もうここまでは来たら穏便に済ます方法なんて存在しない。
砂塵鎧兵ごと吹き飛ばせば良かったのでは?と思うかもしれないが俺の技は距離による威力減衰が激しく、至近距離で当てないとほぼ意味はない。
(ドン!)
「!?」
玄関を開けると横の壁が砕け散り砂塵鎧兵より一際目立つ派手な鎧を模した様な砂塵兵が出て来て砂嵐を起こして俺達を吹き飛ばす。
砂嵐が舞起こった辺りは砂嵐が水分を吸収しており、再び乾いた空気に戻っていた。
「……※※……※※※※……」
喋った!?目の前の砂塵兵は確かな言葉を聞き取りにくい低音で話し、吹き飛ばされた俺達に追撃を加えようと槍を引いた。
こいつ今までの奴とは違う!?そして、言葉を話すモンスターは初めてだった。
何を喋っているのかは分からなかったが唸り声などでは無いのは確かだった。
だが、イントネーション的に片言で奥には行かさない的な事を言ったんじゃ無いかとは思った。
そして、この強そうな砂塵兵の攻撃は鋭くかなり厳しい戦いになる事が予想された。
恐らくこいつはボスでは無い。ボスはもっと強い!?
俺達はここは暑い筈なのになぜかどこか背筋寒い様な気持ちを身体に覚えるのだった。