157話 砂の宮殿
扉を開けるとそこは巨大な宮殿だった。
目の前には巨大な宮殿が聳え立っており、その宮殿を囲うように巨大な庭がある。
そして、宮殿の扉の前には二体の砂塵兵が槍を持って構えているが俺達にはまだ気が付いていない。
中にはもっと大量に砂塵兵がいるんだろうな……。
うわ、これ斬新だな。今までの階層のボス戦では無かったパターンだ。
宮殿攻略がボス戦……恐らく王を倒せばボス戦クリアになるのだろうが、これ面倒だな。
今までのボス戦は複数体敵が出る事はあったものの割と狭めの場所でで尚且つ視界が良好な雰囲気で扉を潜れば即ボス戦と言う感じだった。
だが、今回はエリアと言う程広くは無いが、視界は良好とは言えずボスのフィールドで戦う事になる。
それを言ったらシンビオシスプラントも同じなのだが、結論面倒だと言う事だ。
これからのボス戦はオブジェクトもどんどん複雑になって行く可能性も高いかもな。
俺はそう思った。
さてと、これ多分宮殿の門の前の砂塵兵に見つかったら集中攻撃を仕掛けられる可能性が高いな。
だが、俺達の仲間には奇襲に向いている人はいない。
え、亜蓮がいるじゃ無いか!って?
確かに亜蓮は小柄で動きも早くヘイトも稼げる。
だが、亜蓮にしてもヘイトを作る事は出来ても自分の存在を薄くしたりする隠密系のスキルは持っていない。
亜蓮のスキルは対象が何から注意を引く系のスキルが多く、それで仕留めたとしても宮殿内が騒がしくなるのは免れないだろう。
もう一つ、宮殿内に砂塵兵に見つからずに中に入る方法はある。
それは気付かれる前に砂塵兵を倒すって事だ。
この方法は割と理想的だ。
まず、俺が仲間達全員に水属性を付与してから亜蓮や重光がヘッドショットなどでちまちま倒すと言う方法が無難だろうな。
俺と添島と山西は近づかないと攻撃出来ない技ばかりで遠距離攻撃手段も派手で大きな音を立ててしまう。
まぁ、門ごと吹き飛ばすって手も無いことは無いんだが、出来るだけ穏便に行きたいだろ?
と言う訳で俺達は狙撃作戦を決行する。
しかし、そこで重光が話す。
「魔法は使わない方が良いかも知れないわ。私達程度の魔法の制御力だったら中にそれなりの腕を持っている魔術師がいたらバレてしまうわ」
成る程……その可能性は考えて無かったな。まぁ、俺は重光ぐらい魔法が制御出来たら問題無いと思うけどな。
俺のエンチャントは厳密には魔法では無い事は草原エリアの検証で分かっているので使わせて貰うがな。
だか、マナの込めすぎでも注意だな。魔法では無く、例えスキルだったとしても腕の良い剣士が居ればその力を遠目から感じ取る事が出来るかも知れない。
「属性付与 水」
俺はマナを込めすぎない様に力を込めて慎重に仲間全員に水属性を付与する。
「この距離だったらバレないとは思うが死体の回収はどうする?死体が見つかったら敵が不審に思うかもしれない」
亜蓮が小声で話す。死体?砂塵兵だから砂になると思うんだが……。
「砂塵兵だから死体は残らないんじゃないか?」
「確かに……言われてみればそうだな。砂塵兵を倒す程度なら全力でマナを込めるまでもなさそうだ」
亜蓮さん……四十階層についてから何体か砂塵兵倒したよな?何か別の事でも考えていたのだろうか?
「いや、ちょっと影武者を改良出来そうなアイデアが浮かんでな」
亜蓮は俺の視線を感じたのかそう答えた。やっぱり俺の表情読み取りやすいんだな……。
そう言いながら亜蓮の視線は宮殿の門の前に立っている砂塵兵の方に向いている。
「門が開いて門が完全に閉じきる瞬間を狙う」
亜蓮はそう言って両手に五本ずつ……合計十本のナイフを持って言った。
そのタイミングの理由は門がまず開いていないと俺達が中に静かに入れない事と閉じかけるタイミングって言うのは敵から察知されにくくするって意味もあるのだろうな。
視界が確保されている状態で門番がいきなり倒れたのが見えたならば俺達がここまでコソコソやっている意味は無いだろうな。
(ギィィイ……)
しばらく待っていると門が開く音がして二人の砂塵兵が門を開けて出てきて今門番をしている砂塵兵に頭を下げて交代する。
砂塵兵に睡眠が必要なのかは分からないが、交代する必要があるみたいだ。
もし、門が開かなかったらどうしようかと思ったがそんな事は無かった。
そして、交代した砂塵兵が門を閉めて人一人がやっと通れる程の隙間が開いた時亜蓮が動いた。
亜蓮は手首のスナップを利かせてナイフを砂塵兵の視覚外から頭に当てる。
亜蓮の指向集中のスキルでナイフが飛んで来た位置は俺達から見て反対側から飛んできて刺さった様な感じになっており、細かい偽装工作も忘れない。
頭にナイフを食らった砂塵兵は水分を帯びて変色し、ただの砂となり砕け散る。
砕け散った変色した砂塵兵の破片が少し目立つが時間が経過すれば乾くだろう。
門番を含む四人の砂塵兵が倒れた事により俺達は開いた門の隙間から宮殿内に侵入する。
そして、俺達が宮殿の門を通る手前に近くで砂にナイフが突き当たる音が響いた。
「門の上にも数体兵士がいたから時間差で処理しておいた」
亜蓮が俺の表情に気がつき捕捉する。
時間差で倒したのは警戒の問題だろうな。門の上にいる兵士のヘイトは門を閉めると言う動作が無いのだから警備に集中している筈だ。
だが、近くの砂塵兵が倒れた瞬間は敵が来たと認識する。
その境目を狙った訳だ。亜蓮も意外に策士だな。
俺達は宮殿の門を潜ったものの宮殿内部まではまだかかりそうだ。
俺達が今いる場所は宮殿の入り口前の中庭部分だ。
やっぱり、中は敵の数が桁違いだな。
中庭にはサボテンが綺麗に手入れされており、その先の宮殿の玄関には巨大な鎧を着た兵士が厳重に守っている。
高さは五メートル近くあり、俺達から見たら見上げる様なサイズだ。
砂塵鎧兵だ。砂塵鎧兵は砂塵兵と違い基礎能力が桁違いだ。
そして、水に対する耐性も多少ある。
勿論水には弱いのだが、砂塵兵程すぐに水が浸透する程柔では無いだろうな。
そして、砂塵鎧兵の片方が動く。
そして、俺と目が合ってしまった。
「あ……」
あ、やべえ……。
(ガチャ!)
ですよねぇ……。目が合った瞬間目の前に砂嵐が舞起こり大量の砂塵兵達が集まって来るのが見えた。
この数はやばいだろ……俺達は周囲を大量の砂塵兵に囲まれてしまった。
もう、コソコソやってるのも俺達の部では無いし、いっちょやってやるか!
「ちょっとお前ら、水被る準備しとけ!」
「え、ちょっと!?」
俺は全身からバイパスを全周囲に繋ぐ様にマナの道を作り導火線の様に張り巡らせて、ニヤリと笑って言った。