153話 携帯シェルター
「マジかよ……カオストロの奴マジで俺達に何も言わずに去りやがったぜ……」
添島が思わず声を漏らす。マジだ。昨日一日ではカオストロが渡したアイテムは数が多過ぎてチェック出来なかった事もあり、全てを把握しているわけでは無い。
と言うか見ても何に使うのか分からないので一切把握出来ていないと言った方が正しい。
問題は赤月の時間だが、カオストロの備品の中に赤月の光線を防げそうな物をピックアップしておくか。
使えなかったら普通に手間かけるのみだ。
その後、いきなり実戦で使うのもアレだという訳でカオストロが渡したアイテムの中に入っていた手榴弾のような物を手に取る。
これは確実に爆弾だろうな。威力も分からないが遠くに投げれば問題ないだろう。
別に敵にケンカを売っているわけでは無いし、鉱石が取りたい訳では無いが俺達の進行方向にいる石ゴーレムみたいな奴にカオストロ特製グレネードの栓を抜いて投げつけた。
手榴弾タイプだから爆発には時間がかかるのかカオストロ特製グレネードは爆発の気配は無い。
そして、石ゴーレムにあたり地面に落下して二十秒程経ち俺達も緊張が解けて来た時だった。
(ドオオオォン!!!)
「はひぃいゃ!?」
辺りに爆音が響きかなり離れていた俺達をも暴風が襲う。
そして、いきなりの爆音と暴風に驚き、変な声を上げてしまった。
そして、爆発が収まり黒い煙が消え全貌が明らかになる。
そこには先程までいた石ゴーレムの姿は跡形も無く、そこにあるのは黒く焼き焦げた石の破片と地面だけだった。
ちょっと待て……威力高すぎないか?この手榴弾の威力俺のアイスバーンを遥かに上回る威力してるんだが……。
しかし、栓を抜いてから爆発するまで二十秒近くかかるので、使い勝手はあまり良く無い。
しかも、爆発地点に自分達が居ればダメージを食らうのは間違いなく自分達の方である。
この爆弾は一旦封印しよう。
次はこの薬品だ。
便の後ろには読めない文字。恐らくロークィンドの文字だろうが、その文字で何か説明書きの様な物が書いてある。
うん、今はやめておこう。後で解読出来る人に読み取ってもらうのが正しいだろう。
あいつら何故か喋る時は日本語喋れるんだよなぁ。
やっぱりアンデッドになってから数百年とかあると暇なのかな?
それならこの瓶の文字くらい書き換えろとか思わなくも無いが、カオストロの性格を考えるとそんな手間をかけるのも面倒だと思ってそうだな。
あいつにとっては自分が分かれば後はどうでも良いんだろうし。
そして、俺は気になっていた銀色の液体が入った瓶を取り出す。
「それは?」
亜蓮が俺の手元を覗き込む。爆発したらどうすんだ?危ないぞ?
爆発はしないと思うが……。
「いや、後ろのラベル見ると口の様なマークがあってその上からバツ印が書いてある事から飲用では無さそうだが……」
「それ、本当に大丈夫なの?カオストロを疑う訳じゃないけど毒薬って可能性もあるわよ」
う、その可能性は考えてなかった。山西にしては珍しい有用な意見だ。
「一応私はいつでも治療する準備はしておくから安元君開けてね?だけど、カオストロさんが作る毒だったら私の魔法じゃ治せない可能性もあるわよ」
重光が少し声を低くして言う。あの……重光さん……それ遠回しに今それ開ける必要ある?後で良いよね?今は開けるなよ。って暗示してますよね?
まぁ、開けるけど。
「っ!?」
「「あれだけ危険性主張しておいてそれ開ける!?」」
うん、俺はそう言うやつだ。
銀色の液体が入った瓶を開けた瞬間中の液体が一斉に飛び出し、俺達全員が入れるくらいの銀色のドームが形成された。
え?何これ……予想外過ぎる。しかし、その銀色のドームには入り口は無く、どこから入れば良いのか分からない。
だが、この液体が入っていた瓶でその銀色のドームを軽く叩くと再び瓶の中に液体になって吸収される。
何これ面白い。
俺達が全員中に入った状態でなら使えそうだな。
という訳でもう一度銀色のドームを全員が中に入った状態で展開する。
「お?凄えなこれ」
中に入ると添島を筆頭にみんなは感心の声をあげる。
俺はただの銀色のドームかと思っていたが中は涼しく、空気も圧迫感は無い。
どうやって換気してるのかは分からないが空気の循環が感じられた。
そして、一番危惧していたのは入った瞬間真っ暗って事だったが、中は外同様に明るかった。
恐らく仕組みとしては直射日光は銀色のシールドで弾いて光の明るさだけは通す感じで、涼しいのは放射熱を遮断し、熱エネルギーを低下させる断熱材や、変換魔法が内側にかけられていると俺は予想した。
空気の循環に関しては二重ゴアテックス構造の様な物だろうな。
ゴアテックスとは説明すると長くなるが要するに特殊な素材の組み合わせで内側から汗などは逃すが外側からの雨などは防いでくれる優れものの構造であり、地球では登山用レインコートなどに使われている。
それを利用する事で、空気の流れを作っているのかも知れない。
厳密には違うと思うが。
だが、思わぬ備品が手に入ったな。これを携帯しておけば仮拠点を作る必要がないな。
携帯シェルターって感じか?これなら放射能もブロック出来る気がする。
しかし、問題は強度だ強度が無ければ敵の攻撃は凌げない。
「添島。これちょっと殴ってみてくれ」
本気でやるなよ?ぶっ壊れるから。
すると添島はオーラタンクを発動させた。
え?ちょっと待て。本気では無いにしろかなり手加減しろって事で言ったんだが……。
(ゴン!)
「痛ぁっ!?ギリギリ手が折れない位の威力で殴ってみたんだがこれクソ固えな……」
馬鹿野郎……。だが、添島の攻撃に耐えるなら大丈夫だろう多分。
正直武器無しの攻撃なんてあてにもならないけどな。
その後シェルターの外から属性攻撃も試してみたが大丈夫そうだった。電気の通電もしないみたいだ。
金属っぽいけど金属では無いのか?しかし、問題はある。中にいる時外の音や様子が一切分からないのだ。
これ、出たら囲まれてました。とかだったらヤバイな。
でもこのシェルター展開速度はめちゃくちゃ早いので、緊急時は盾にも使える。
そして、これは分からないがあのカオストロ特製グレネードを投げてシェルターに篭れば割と強そうだ。
このシェルターが耐えればだけど……。
こうして、俺達はかなり便利な品物をカオストロから手に入れた事に気が付き、他のアイテムもゆっくりとチェックしながら俺達は砂漠を進んで行くのだった。