150話 錬金術師
なんだ?後ろから聞き覚えのない声が聞こえ、俺達は固まる。
タイラントデスワームはワイヤーの様な物で頭をヘッドロックされ、口を開く事も出来ない。
「ちょっとここは不味いのだ。君は後ろへ下がるのだよ」
再びタイラントデスワームの後ろから声が聞こえたかと思えばタイラントデスワームはそのままワイヤーで引っ張られてバックドロップの様に背中を仰け反らせながら地面に華麗に頭をぶつけ、口の中に溜めていた毒液を堪らず吐きちらす。
しかし、タイラントデスワームがその程度でやられるとは思っていない。
だが、着目すべきはそこでは無い。タイラントデスワームにバックドロップを決めた人物の腕力である。
未だに姿は先程タイラントデスワームがバックドロップを決められた際に起こった砂埃で見えないが、あの巨体を誇るタイラントデスワームをワイヤーで引っ張って地面に叩きつける程の腕力……。
恐らく並大抵の力では無いだろう。
「ギイイイイ!!!」
先程バックドロップを決められ、頭に来たのかタイラントデスワームは砂埃に隠れている人物の方へと標的を切り替え大きな口を開けて突進する。
スパイルに最初に行った攻撃と一緒か……さて、あの人物はどう対処するか……。
(パクッ)
は?食われた。目の前の人物はタイラントデスワームの攻撃に何の対処もしなかったのだ。
そして、その人物はタイラントデスワームの体内に収まってしまった。
何やってんだよ!?俺はそう思った。だが、どこかでタイラントデスワームを薙ぎ倒す程の力がある人物がそんなに簡単に食われるか?と言う疑問もあり、これも作戦かと思ってしまった。
「ギィ?」
しかし、その直後タイラントデスワームの様子が変わる。
やっぱりな。何かあると思ったよ。
「ギイイイイアアア!!!?」
「もうお目当ての素材は見つかったから、君とはおさらばしたいのだよ」
タイラントデスワームの口からは複数のワイヤーの様な物が伸び、中からは昔のペスト医が被っているカラスの様なマスクに口元はギザギザの金属製の防具からチューブが腕の方に伸びている人物……。
目元はゴーグルをしており、髪の毛は白色でミディアムカット、そしてその上にはフードを被っており、髪の毛以外の顔のパーツは全部隠れていて良く確認出来なかった。
腕に繋がっているチューブの先には何かを填めるスロットの様な物があり、何かの放出口もある様だ。
胸元にも大きなスロットの様な物があり、肋骨の部分は骨の様なアーチが入っており、少し不気味だ。
下半身は腰からマントの様な物で覆っており、全体的に不思議な印象を覚える見た目をしている。
それにしても俺には完全にあの人物がタイラントデスワームに飲み込まれた気がしたんだが……気のせいだろうか?
飲み込まれる直前にワイヤーでも繋いだのか?
すると、目の前の人物はひょいとワイヤーを伝って地面に着地して、再びタイラントデスワームをワイヤーで拘束する。
「無駄なのだ。君は体内と体外両方からワイヤーで固定されているのだよ」
うわっエゲツない事すんなぁ……タイラントデスワームの口からはワイヤーが伸びており、外側の甲殻にもワイヤーが絡まりタイラントデスワームは動けない。
そして、目の前の人物は胸元の骨をあしらったアーチの部分に触れその部分を開けて何かを取り出して胸のチューブが口に繋がっていない方のスロットの方に金属の瓶をはめた。
その瞬間ある人物の鎧の換気口の様な部分から紫色の煙が蒸気の様に立ち上がり、タイラントデスワームに繋がってるワイヤーを紫色に染め、辺り一面を紫色の煙で染める。
その範囲はギリギリ俺達を巻き込まない量に調節してあった。
「サヨナラなのだ」
目の前の人物は左手のワイヤーを離し何かをタイラントデスワームの口目掛けて投げ込み何かを詠唱した。
その瞬間タイラントデスワームを包み込む様に魔方陣が形成され……
(ドンッ!)
「うわぁぁぁあ!」
大爆発が起き、その余波で俺達も吹き飛ばされる。
何て威力だ!あんなの俺のアイスバーンでも全然届かない威力だぞ!?
その大爆発を体内と体外から挟まれて食らったタイラントデスワームが無事な筈は無く、そこには紫色に変色したタイラントデスワームの死体が転がっていた。
そして、辺り一面にはまだ紫色のガスが漂っている。
目の前の人物は俺達には目もくれずゆっくりとその場を去ろうとする。
しかし、俺はここで呼び止めるべき人物だと思い声をかける。
「ちょっと待て!」
俺が目の前の人物に話しかけるが返答は無い。
いや、ただ聞こえていないと言うか何かを考えており、頭に入っていないって言うのが正しいのか?
「そこのカラス頭!」
俺がそう呼びかけるとやっとこちらに気が付いた様でこちらを振り向く。
「君はワタシを呼んでるのかね?」
いや、お前しか居ないだろこの状況だったら。
「ワタシは今忙しいのだよ。興味は無いのだ」
男はそう言いまた立ち去ろうとする。だが、そこで興味が無いと言う言葉で俺は思い出した。
「お前錬金術師じゃないのか?」
「いかにもワタシは錬金術師であるが?」
間違いない、こいつが恐らくエルキンドが言っていた錬金術師だろう。
だが、意外だ。エルキンドの話を聞いていると、もっと家とかに篭って研究ばかりしており二◯トみたいな奴を想像していたんだが、この錬金術師は戦闘もこなす。
「お前が興味を持ちそうな物がある」
「見せるのだ」
俺がそう言うと錬金術師はすぐ催促した。だが、今目の前の人物とは紫色の霧を挟んで会話をしている。
オリヴィエを何気なく放出してみるがその霧は多少薄くなったものの消える気配は無かった。
「その前にこの霧をどうにかしてくれないか?これ多分だが毒だろ?」
「それはそうなのだ。この毒は毒持ちモンスターでも効く強さなのだよ」
え?それ結構ヤバくね?そう目の前の人物は言いながら再び胸の部分を開け、瓶をはめて白い煙を出して紫色の霧を浄化した。
そして、霧が晴れた瞬間目の前の人物の様子が急変した。
「そのモンスターはどこで手に入れたのだ!?ワタシにくれないか!?」
アクアに飛びついたのだ。え?俺、ジジイに貰った謎の羽をあげようと思ってたんだけど……目の前の男はアクアに対して予想以上のいや、気持ち悪い程の食いつきを見せたのだった。