148話 バジリスク
「ん?何か涼しいな」
俺達は三十九階層に入ってから感じた温度に少し頬が綻ぶ。
いや、それでも暑いのだが、三十八階層の温度で感覚が麻痺したのだろうか?
気温四十度くらいで何故か涼しいと感じてしまう自分がそこにはあった。
しかし、三十九階層が普通の階層だと俺は思えなかった。
現在、時刻は昼を回り一番暑い時間帯の筈だ。
そして、何故かこの迷宮でも砂漠の日が落ちるのは遅く、夜中になるまでは割と明るい。
しかし、現在この三十九階層の砂漠は昼間にも関わらずどこか薄暗い様な印象を受けた。
ただ、薄暗いとは言っても夜って感じでも無い。
夕方の様な感じで、大きなオレンジ色の月の様なものが地平線の向こうに見える。
そして、砂漠の大地の色は普通の砂漠と違って真っ黄色って感じの色では無い。
所々黒ずんでいる砂や、白色の石など、カラフルな色の石まである。遠くから見ると砂漠全体の色は白を基調としてポツポツと黒色の斑点模様がある様にも見える。
本当の事を言えば、昼間に砂漠を探索する気は無かったのだが、この温度ならば大丈夫そうだ。
そう思って探索する。
途中にある白色の岩石や、黄色い岩石、様々な種類の岩石が群生しており、ここは鉱石資源の種類がかなり豊富な事が分かった。
そして、白い煙を吐いている怪しげなユリの様な植物や、小さな小動物達が目にとまるが、どれも何故かカラフルな色をしている。
俺達にとっては敵などを見つけやすいので良いのだが、やはりどこか気持ちが悪い感触を俺は受けた。
この三十九階層のトラップはこのモンスターのカラフルな色や鉱石資源と何か関係がありそうだな。
「っ!?」
その時だった。俺達の視界を白いガスの様な物が覆う。
何だ!?毒ガスか?
俺はそう思ったがその瞬間激しい眩暈と吐き気に襲われる。
「重光……!状態回復魔法を!」
「!?状態回復魔法が効かない!」
重光に状態回復魔法を要求したのは良かったが、重光の返答は無かった。
だけど、俺達の周りを緑色の光が覆ったので魔法を発動させたのは間違い無いだろう。
「シャアア!」
俺達は動けない体でシュルシュルと言う蛇などの独特な舌の音を聞き目の前に顔を向ける。
するとそこには動けない俺達を嘲笑うかの様に舌を出し入れさせる巨大な白色と黒色のまだらな鱗を持つトカゲが長い首を上げていた。
バジリスクか!?バジリスクはCランクモンスターでサンドリザードと同じぐらいの巨大な体格を持つトカゲの様な見た目をしているモンスターだ。
だが、その容姿はサンドリザードとは全く異なり、頭が平べったいサンドリザードに比べバジリスクはもう少し高さがある。
そして、尻尾の長さはサンドリザードに比べて長くは無く、首が少し長めだ。
そして、脚はどちらかと言えば脚無しトカゲと言えば良いのだろうか?付属品みたいなイメージだと思う。
更に頭には大きな二本の羊の様な角が身体を伝っており、背中には尾びれ、喉には真っ白な毒袋が備え付いている。
バジリスク自体の強さはあまり大した事は無く、サンドリザードから速度を落として攻撃と防御に振った感じである。
しかし、厄介なのはその毒ガスだ。毒ガスは範囲も広く、食らうと一定時間で石化してしまう。
石化するまでの時間は決して短くは無いが、食らうと激しい眩暈と吐き気に襲われ、まともに魔法を制御する事も難しいだろう。
ただバジリスクは対策さえ出来ていれば大した相手では無い。
そして、サンドリザードと違って肉食である。
参ったな……これ、どうしよう。別に動けない事は無いんだけど……戦況は圧倒的に不利だな。俺がそう思っていると
「キュイイ!」
「シャアア!?」
その時、アクアが軽減能力で作ったドームを張ってバジリスクの喉元を上空から奇襲し脚で締め付けたのだった。