147話 嵐の前触れ
(メキメキメキメキッ!!!)
物凄い音を立てて黒い靄が俺達がいる場所を通過していく。
嘘だろ!?なんて威力だ。重光のバリアは既に何枚か割れており、限界を迎えている。
「キュイイ!」
しかも、これでもアクアの軽減能力で二重軽減された上でバリアはメキメキと音を立てて割れていくのだ。
沼地階層で経験したあの極熱のブレスでさえ、産まれて間もないアクアの軽減能力で十分すぎるほど軽減され受けれる程になった。
だが、今回は敵の攻撃では無いただの嵐で成長したアクアのバリアと重光のバリアを穿とうとしているのだ。
俺はこれをただの自然現象とは考えられなかった。
いきなり一、二階層でここまで難易度上がるか?
普通は上がらないだろう。
タイラントデスワームや、バーニングドラゴンフライでさえ、ここまでの攻撃はあまり無いだろう。
タイラントデスワームの一点集中の噛み付きとかをモロに食らえばあるかも知れないが、そんな物は範囲も限られているし、かなりタイラントデスワームも敵意を持っている事だろうな。
「キュイイ……」
「はあ……」
嵐が俺達の所を去り、アクアと重光がその場に倒れこむ。
重光が張ったバリアは残り二枚の所まで来ており、あと数秒ここで嵐が滞留していたら俺達の命は無かったかもしれない。
それにしても何だったんだ?俺は先程俺達の所を過ぎ去って現在も俺達の後ろで破壊行為を繰り返している黒い靄を眺める。
そこで一瞬大きな火花が上がったのが見えた。
恐らくバーニングドラゴンフライでも巻き込まれたのだろう。
その瞬間だった。黒い靄が一瞬で収縮したかと思えばそれはバーニングドラゴンフライを覆い火は消える。
そして再び何事も無かったかの様に黒い靄は動き出した。
今ので分かった。あれはダークレイだ。ジジイの図鑑にも書いてあったな。
危険。手を出すな!って……あの時のジジイが危険と書くほどのモンスターだ。
砂漠エリアのエリアモンスターである。
ダークレイは本体は粘土を硬めた様な艶の無い黒色をした岩石で成り立っている様なモンスターだ。
姿は普段は粒子状になって舞いながら移動する。
その時に地面などを抉りながら移動をしている。
つまり、俺達が先程まで見ていた黒い靄の状態だ。
強さは言うまでも無いだろう。移動のみで俺達が地中に家を作る事を断念する程の硬さの礫を軽々しく移動で破壊し、俺達が弱っていても苦戦したバーニングドラゴンフライを一撃で仕留める強さだ。
正直あんな化け物と戦って勝てる気がしない。
ダークレイにとってはただの散歩みたいなもんだったんだろうが、それで俺達が死にかける事態だ。
流石Aランクモンスターなだけはある。
Bランクモンスターとは格が違うな。
恐らくだが、このエリアにモンスターが少なかったのもこの嵐の前触れだったのかも知れない。
モンスターや動物は本能で感じ取るからな。
靄の範囲は広いのは広いが、何キロも続く様な範囲では無い。
だから、地中に住むアリやバーニングドラゴンフライの幼体……生体も遥か上空を飛べる為そのモンスターは残っていたのか。
だけど、俺達がこの階層に来た当初はダークレイからはかなり距離が離れていた。
でもこのダークレイの様子を見れば分かるだろう。
道中のモンスター全てを薙ぎ倒して行くのだ。
もしかしたら俺達が来る前に俺達が進んだ進路で移動をしていたのかも知れない。
俺はそう思った。
あとあの硬い地面を掘る事ができるバーニングドラゴンフライの幼体やアリはやはりかなり強力なモンスターであると実感した。
まだ出会っていないアリも集団で来られたら俺達危ないかもと思いながらマナ切れでぐったりとしているアクアを撫で撫でしながら様子を見るのだった。
流石に成長したアクアは担いで行けない。
結局活動を開始したのは温度が下がる夜だった。
その後もモンスターが出るかと思ったが、よく考えたらダークレイが来た方向に進んでいるのだからモンスターが少ないのは当たり前かと今更思い、二日ほどかけて三十八階層を俺達は踏破した。