143話 炎天蜉蝣竜
バーニングドラゴンフライ……別名炎天蜉蝣竜とも言われるドラゴンは、四枚の燃え盛る羽根を持ち、他のドラゴンなどと比べると異質な形をしている。
全身は燃え盛り、極端に細い胴体や、六本の手足を持っておりその手足には鋭い鉤爪が生えている。
眼球は複眼で露出しており、頭には硬そうな甲殻が頭を覆っており、飛び出たアンバランスな目を含む顔もどこかカッコよく見える。
しかし、燃え盛る全身は鱗が生えている様な感じの容姿だった事を俺は覚えている。
この生体の特徴はジジイの図鑑に事細かに描かれていた。
だが、いつも絵はめちゃくちゃ上手いのに、説明書きは本当に大雑把である。
それでも速度が速いとは書いてあった。そして、遠距離攻撃を使う事も記述があった。
それをジジイらしいと言えばジジイらしいが……と言うかスパイルと遭遇した時点でスパイルとシェイク二人掛かりでやっと鎮められる程の強さだ。
この時のジジイにとってはバーニングドラゴンフライの生体であっても大した相手では無いのだろうな。
スパイルはアンデッドになっている為スパイルの性格から考えてジジイと戦った時よりも弱体化している事はほぼ無いだろう。
そう俺が考えていると重光のアクアランスの詠唱が終了した。
「行くぞ!」
「「あいよ!!」」
俺の掛け声に合わせてみんなが呼応するように返事をして、重光がアクアランスを放つ。
俺の頬からは大量の汗が滴り落ちる。
まず、自分からモンスターに挑んだのは初めてじゃないか?
その相手が生体であればBランク上位のモンスターか……。
だが、バーニングドラゴンフライは速度と飛行しながら行う厄介な遠距離攻撃だ。
それを行う事の出来ない幼体ならば、十分に狩れる相手だろう。
「藍水槍(アクアランス!)」
重光の足元から水が渦巻き巨大な槍を形成する。
さぁ、敵を穿てよ、アクアランス!
「ギィィイ!?」
出て来たか!地中に引きこもっていないで出て来やがれ!バーニングドラゴンフライの幼体は重光の攻撃に驚いたのか、地面から飛び上がった。
しかし、重光のアクアランスは一部が蒸発し、他の部分は礫に阻まれてダメージを与える事は出来なかった。
しかし、アクアランスは一回詠唱すると多段攻撃ができる。
バーニングドラゴンフライの幼体は赤く赤熱した硬そうな甲殻を全身に纏い、頭には巨大な角が二本生えており、その角はガチガチと音を立てて動いている。
まぁ、いたって普通の燃え盛る巨大なアリジゴクである。
しかし、硬いな……重光のアクアランスでさえ傷がつかないか……だが、それは地中に避難したお陰か?
(カチカチ!)
その時アリジゴクが頭の角をぶつけ始めた。
あ!あの動作は……爆発の技を使う俺だから分かる。
爆発するぞ!
今重光はアクアランスを形成しているからシールドは張れないな。
よし。
「添島!」
「良いぜ?気爆破!!!」
(ドン!)
広範囲で赤い炎が広がって爆発を起こそうとするが添島が横薙ぎに気を放出してその爆発を相殺し、白煙が舞う。
そして、その背後から重光がアクアランスを放つが、アリジゴクは角に込めた熱を放出して勢いを殺して、下を猛スピードで潜り抜け……る事は無かった。
「ギイ!?」
「俺を忘れてもらっては困るな」
回避しようとしたアリジゴクが制御を失って空を舞い驚いたような声を出す。
よく見ると亜蓮の腕の機構が開いている事から下から上にアリジゴクを押し上げる様にする攻撃をしたのだと俺は気がついた。
「ギイィ!?」
その直後中に浮いて制御不能になっていたアリジゴクに山西が両刃槍の刃の根元を引っ掛けて添島の方へと飛ばす。
「おうよ!」
添島はそう言いながらバットを振るかの様に大剣でアリジゴクを叩きつけ、吹き飛ばした。
その後、アリジゴクは地面でもがきおき上がろとしているが腹の部分の関節同士がめり込んで動かなくなってしまっていた。
添島の大剣の威力もお墨付きだがこれだけまともに添島の攻撃を食らっておいて、まだ生きてるか……。
バーニングドラゴンフライは幼体の方が固い可能性もある?
俺は別にBランクモンスターを侮っていた訳では無い。
直後にとどめを刺したかった。
だけど、天は俺達に味方をしなかった。
「ギィィイイイイ!!!」
俺達が狩っていたアリジゴクの甲殻にヒビが入る。
脱皮か?そう思い距離を詰めようとしたがあまりの熱気に俺はたじろぐ。
「安元君!そこ避けて!」
重光の声が聞こえたので俺は避ける。三発目のアクアランスだ。
「ギィィイ!」
俺が避けた所を螺旋を描きながらアクアランスが頬を掠める。
怖っ……掠っただけなのに俺の頬からは血が薄く滲んでいた。
アクアランス……前も思っていたがあれ直撃したらヤバイだろ。
アリジゴクはアクアランスをまともに食らったかの様に見えた。
いや、実際まともに食らったのだろう。
だが、そこにはアリジゴクの姿は無く、ボロボロに傷ついてはいるものの生体に成長したバーニングドラゴンフライの姿があったのだった。




