141話 管理者の存在
突然町を出ようとした俺たちにスパイルはフォルトをここに置いていけと話した。
俺達にはその理由が分からなかった。
「次の階層は赤熱の大地だ。恐らくサンドリザードではその環境には耐えられんだろう。ここだと他にも仲間となるモンスターは沢山いるし、オレが世話を引き受けよう」
スパイルが言った。次の階層は赤熱の大地らしい。恐らく、こことは比べ物にならない位熱いんだろうな。
それならば仕方がない。短い間だったが俺達と旅をしたフォルトと別れるのは悲しい。
「クェ?」
俺はフォルトの頭をギュッと抱きしめてさよならの挨拶をして町を後ろに歩み出す。
フォルトは状況が分かっていないらしく、ついて来ようとしている。
すまない、フォルト。
俺は再びフォルトの元へと戻り大量のサボテンを地面に置いて頭を撫でる。
お前は付いてこれない。また、いつか戻ってくるさ。
そうやって別れを示しているとスパイルは見兼ねたのか懐からナイフの様な物を取り出してフォルトの首元に注入した。
その瞬間フォルトが落ちた。麻酔か。
だが、状態異常に強い耐性があるフォルトを一撃で落とすなんて、あれはかなり強い毒だな。
落ちたフォルトを見て俺も決意を決めてフォルトを背に向けた。
だが、その時スパイルが俺達に話しかけた。
「乗って行くか?三十八階層の入り口まで」
スパイルは自身のシェイクに肩を乗せて来いよ。と言っている。
スパイルに促されて、シェイクに俺達全員が跨る。
五百キロ近い重量が乗っていてもシェイクは平気な顔をしている。流石だ。
「じゃあ、しっかりと掴まれよ?」
そうスパイルが言った瞬間ストームウルフのシェイクは猛スピードで走り出した。
うわっ!?なんだこの速度は!?砂漠の上なのにまるで新幹線にでも乗っているかのようだ。俺達は目を開ける事すら出来ない。
必死にシェイクに掴まるので精一杯だ。時速は優に百五十キロは超えているだろう。いや、二百キロ位はあるかもしれない。
俺達を全員乗せていて尚且つ、砂漠と言う足場の悪い環境でこの速度が出せるシェイクは異常だった。
もしかしたらこれがAランクモンスターなのかも知れない。
前も言ったがストームウルフ自体はBランクモンスターである。
だが、アンデッド進化を成功させたストームウルフはもはや別種である。
その辺はまた今度エルキンドにでも聞いてみるか。
「着いたぞ?」
う……酔った。普段は俺も酔いにくい筈なんだけど……流石にあれは酔うわ。
だが、スパイルは何故ここまで送ってくれたのだろうか?俺達に稽古をつける予定じゃなかったのか?
それにエルキンドにしてもスパイルにしても何故下の階層の事を知っているんだ?
この階層でスパイルが死んだ?いや、そんな筈は無い……ましてや、スパイルよりも強い筈のエルキンドが護衛任務があったとは言えどもあの程度の階層で命を落とす筈が無い。
何故、今まで俺は疑問に思わなかったんだ?俺の中で何か大きな歯車が回り出した気がした。
下の階層から逃げてきた?いや、野生のモンスターは確か他の階層間を行き来は出来ない筈。
やはり、管理者か?
しかし、その管理者には沢山の謎が残る。その謎は一層深まるばかりだ。
最初は管理者では無く誰かに見張られている……つまり、監視者だと思っていたが違う。
奴の範囲はそんなものでは無い。
もはや管理に近い。
だから俺はその謎の存在で恐らく俺達や、ジジイ達をここに呼び込み、元のロークィンドの住民を隔離した存在を管理者と呼ぶ事にする。
結局スパイルが俺達を三十八階層まで送ってくれた理由や、俺達を最初にボコボコにした理由は教えてくれなかった。
だが、何となく伝わる。
鍛錬は短期間では身に付かないが、意識を持てば変わると。
ここで俺は気になった事がある。
別に俺達の危険を案ずるならば、ここでもう少し鍛錬をこなしても良いのだ。
ジジイもどこか時間を意識している節もある気がする。
それも短期間で強くならなければいけない様な……そして、俺達を一か八かで危険な領域に踏み込ませている様な……。
人には誰でも焦りはある物だ。俺達も、早く強くなりたいのである。その感情と一緒だろう。
俺はそう区切りをつけた。
そして、遂に三十八階層への一歩を踏み出した。