139話 アンデッド化
スパイルが住んでいる町に着いてから二日目の朝を迎えた俺達はサボテンなどの野菜を中心とした朝飯を食べてからスパイルが居ると言う練兵場に向かう事にした。
「来たか」
スパイルは練兵場に俺達が入ってすぐにこちらに気が付いた。気配の察知もお手の物だ。
「え!?」
だが、俺達は練兵場に入ってすぐに後ずさりをする。
そこには一匹の巨大な狼とそれに追従する様に座っている複数のコープスラメッジ達がいた。
何でこんな所に……コープスラメッジ達が!?
そして……真ん中に居座る一際大きな狼。それこそ全長五メートル位だろうか?お座りの状態でも頭の位置が普通に立った人間を超えている……あんな種は見た事が無いぞ?しかもあの威圧感……強い!?
「ああ、こいつらか?こいつらは気にしなくても良い。俺の味方だ。この大きな狼は俺が生前共に戦っていた嵐狼のシェイクだ」
男の言ったシェイクと言われた狼……ストームウルフか。
ストームウルフなら確かジジイの図鑑にも載っていた筈だ。しかし、今目の前にいるストームウルフのシェイクはどうもジジイの図鑑とは姿が異なる。
元々ストームウルフは空色の綺麗な毛皮を持っており、走る姿は銀色に輝き、反射する光は薄緑に反射してとても神秘的で綺麗だと言う。
そして、その端正な顔立ちに付いている橙色の美しい瞳は見るものを魅了すると言われている。
だが、目の前のシェイクと言われたストームウルフは毛皮はくすんでおり銀色の美しい輝きの欠片も無い。
そして、長い毛皮で隠れているが凛々しい筈の目が入っている筈の眼孔には何も入っておらず、そこからは赤い光が漏れ出ているだけである。
だが、それでも警戒を解いた状態でもその強さはヒシヒシと感じさせる。そんな威圧感がある。
恐らく、姿が違うのはアンデッドになった影響か?だが、ストームウルフは元々Bランクのモンスターだ。
しかもBランク上位の……だが、明らかに目の前のストームウルフからはBランク程度では無い圧力を感じる。
それもヒュージトレントよりも大きな。
もしかしたらアンデッドになった時にたまに突然変異で一つ上位の個体になる事があるのかも知れない。
だが、エルキンドが言っていた事から普通にアンデッドになれば長い寿命と引き換えに自身の能力は落ちると話していた。
それはスパイルも同じ事だろうな。
そう考えるとやはり突然変異と考えた方が早いか……?
「いつもは俺はシェイクと訓練をしている。お前達もシェイクと戦ってみるか?」
「ウォォオオオオオン!」
「ひっ……!?」
シェイクと言われた狼は遠吠えをして俺達の方を向き戦う?見たいな感じで首を傾げる。
いやいやいや、無理だ。あんなのと戦うなんて……一瞬見せたシェイクの威圧感で俺は腰を抜かして尻餅をついた。
「冗談さ。今のシェイクは能力だけで言えば俺よりも強い、こいつの牙はタイラントデスワームの甲殻でさえ易々と貫くからな」
「到底お前達が勝てる相手だとは思ってはいない」
じゃあ何で言ったんだよ!?俺達はみんなこう言う顔をしてスパイルの方を睨む。このスパイルという男が言うと何故か冗談も冗談に聞こえないのだ。
笑った時の顔も怖い。エルキンドやジジイも強い筈なのに大違いだ。
ここにいると言う事はスパイルはエルキンドやジジイの事を知っているかも知れない。
「スパイル。エルキンドや昔ここに来たジジイを知っているか?いや、今はジジイだが……そらこそ変な感じの……」
俺は割と真面目なトーンで話しかける。これは割と気になる問題だ。
だが、俺の言葉を聞いた瞬間スパイルのシェイクを撫でていた手が止まり明らかに不機嫌な様子を見せた。
「エルキンド……?ああ、エールキーン・ネイザードの事か?俺はあいつはあまり好きでは無い。あの野郎はまだアンデッドとして生き延びてやがったか?早く奴に吸収されちまえ」
うん、分かったもう散策しないよ。スパイルとエルキンドとは生前何かあったらしい。
そして、気になるワードが二つ出た。
まず、エルキンドをエールキーンと呼んだ事だ。エルキンドは略称か何かか?それは謎のままだ。
そして、奴に吸収と言う事だ。奴とは何者の事だ?ここは迷宮だ。アンデッドのエルキンドは燃やす手段が少ない森階層では消滅する事はあまり無いだろう。
そして、この迷宮は管理者に許可された一部のモンスター以外は階層間を移動できない筈だ。
そうなると必然的にスパイルが言っている奴とはその管理者の事だろうな。
そして、エルキンドもあの時元の世界で死にたいと言っていた。つまり、ここで死んでも元の世界に戻る事は出来ないと言う事だ。
そしてその管理者は階層間を自由に移動出来る!?
だけど、それならば都合の悪い俺達や、ジジイ達を葬ってもいい筈なんだが……さっぱり分からない。
その管理者の目的は何なんだ!?
俺がこの迷宮の考察を巡らせているとスパイルが再び話し始めた。
「変なジジイ?そいつなら多分あいつの事だろうが……衝撃波を攻撃として使う人間の事か?」
うん、多分そいつだ。よく分かったな。
「あの人間は強かったぞ。奴を鎮めるのにオレとシェイクの二人掛かりでやっとだった」
あ、やっぱりジジイ昔から強かったんだな。まぁ、エルキンドも言ってたしな。
――この後ジジイの事を聞き出そうとするも有用な情報は一切出てくる事は無く、スパイルの元を離れたのであった。
勿論スパイルは再びシェイクとの訓練に戻った。
この前水浴びしてたコープスラメッジはスパイルのやつか……そう思いながら俺達は町を詳しく見て回る事にする。