138話 町探索
男はタイラントデスワームを討伐するとその死体を自身の纏っているボロ布の中に収納した。
あの男もやっぱりマジックバックは持っているか……
すると男は俺達の方へとゆっくりと歩いて近づいてきてこう言った。
「オレの名はスパイルだ。ヨロシク」
どうやら男の名前はスパイルと言うらしい。
だが、その男はヨロシクとだけ告げて町の、中へと歩いていく。
いやいや、ヨロシクじゃねえから!?いきなり俺達襲っといて今も怪我したまんまだぞ?俺達にどうしろって言うんだよ!?
「この町に住んでる人間はオレだけだ。だから、町にある住居は自由に使って貰って構わない。オレに用があるなら大体練兵場にいる筈だ」
スパイルは不器用そうにこちらを振り返りそそくさと告げてどこかに歩いて行った。
町は巨大なオアシスを中心に広がっており、建物は白いレンガの様な建築素材で作られており中は割と涼しい。
俺はスパイルは人間では無くてアンデットで正しくは元人間なのでは?と思ったが口には出さない。
俺達はスパイルに言われた通りに町を歩き今日泊まる住居を探す。
俺達も身体の傷がまだ癒えてないのもある為少しの間この町で泊まる事になりそうだ。
スパイル……あの男は未だに謎だ。エルキンドは丁寧に物事を教えてくれたが戦い方や言動は割と適当だ。
だが、気さくで話しやすい雰囲気である。
でもスパイルはエルキンドとはほぼ真逆の性格をしている。物事はほぼ語らないけど、戦い方は常に確実性を求めている。
それでも俺達にあの戦いを見せて教えようとした事は何となく伝わった。
あの男……スパイルは不器用なのだ。
俺達は途中で見つけた住居に入る。
本当に人間はいないよな……
(ガチャ)
俺は割と重い石のドアを開けて中に入る。
中には部屋は一つしか無く、水道も何も通ってないみたいだ。強いて言えば皮や毛皮で作られた絨毯やベッドが置いてあり、椅子ややテーブルもある。
どちらかと言えば休憩所みたいな感じだ。
だけど、砂漠の真ん中で野宿をしていた俺達にとっては有り難かった。
俺達の怪我は回復魔法で多少は回復した。それこそ、ざっくりと切れてはいるが、止血が済んでるくらいには……。
皮膚の表面はくっ付き始めているがやはりまだ痛みが伴う。
重光と俺が回復魔法をかけ続ければ、一日、二日あれば回復は出来そうだ。
しかし、よく見ると風呂の様なものは存在しない。
窓から外を見るとオアシスの方で動物達……コープスラメッジ達が水浴びをしていた。
どうやら風呂はオアシスで身体を洗うみたいだ。
だが、コープスラメッジなどの危険なモンスターがいる状態で風呂とか考えられないな。
しかし、ああやって水浴びをしている姿を見ると何か可愛いな。
水浴びは誰かが見張りをしながら一人ずつ入る形になりそうだな……。
ただもう一つの問題が……。俺はその問題を考えて重光と山西を見る。
うん。キツイわ。オアシスには仕切りなんて物は無いし仕切りを作れば視界が悪くなり敵に襲われた時の対処が遅れるかもしれない。
そう考えると、あの女子二人にはキツいだろうな。
まぁ、俺達はこの迷宮に来てから何日も風呂に入らないのは当たり前だった。
水魔法で軽く流すくらいだ。
以前、沼地階層のとかで鳥に襲われた事とかを考えて最近は装備を脱がずに鎧との隙間に魔法で膜を張って裸体とその膜との間を水で循環させている。
そんな事が出来るようになったのも技術の進歩だ。まぁ、膜と言うよりかは石だが。
流す時は石ごとパイプ状にしてその隙間から出す。そして、パイプ状の石を引き抜けば完璧だ。
装備を外さずに身体が洗える。クリーンとか言う都合のいい魔法は俺達は知らない。
有るのかも知れないけどな。もしも、身体を清潔に保ったり出来るクリーンとか言うありそうな魔法があったならば知りたすぎるな。
住居のタンスには夜を凌ぐ為の追加毛布や毛皮のコートなどが入っていたので夜はそれを有り難く使わせて貰った。
スパイルは練兵場にいると言っていたが、この日は俺達が練兵場を尋ねる事は無かった。
だが、練兵場か……スパイルは人間はスパイルのみと言っていたが練兵場って事はスパイルだけでは無い気がする。
スパイルだけだったら訓練所でも良さげだ。だけど、そんな事は行ってみないと分からないな。
取り敢えず俺達は明日練兵場を訪ねることにして、眠りについたのだった。