137話 手順
「タイラントデスワームか……拠点を吹き飛ばされては敵わんな……」
男はぶつぶつと何かを呟きながらタイラントデスワームの方向へとゆっくりとした足取りで向かって行く。
大丈夫か?
「グギャァァァア!!!」
「雷纏」
なっ!?タイラントデスワームが男に向かって体を畝らして噛みつきに行く。だが、男は稲妻を纏いタイラントデスワームの牙に沿う様に回避する。
タイラントデスワームの頭の長さだけでも十メートル近い。牙の太さも俺達の胴体を遥かに上回る大きさだ。その大きさの牙をあの男は流れる様に受け流した。
何て強さだ……
だが、タイラントデスワームの頭は大きくそのままでは男はタイラントデスワームに呑み込まれてしまうだろう。だが、あの男は呑み込まれない。
そのまま牙に沿うように攻撃を回避した男はそのまま飛び上がり牙を駆け上がった。
嘘だろ!?パルクールでもあんなの見た事無いぞ?
この前添島がヒュージトレントに対して行ったのは木の表面を足で抉りながら登るやり方だ。あのやり方は鋼鉄の様に硬いタイラントデスワームの牙では行う事は不可能に近いだろう。
だからあの男はあの滑らかなタイラントデスワームの牙を傷を付けずに駆け上がったのだ。
だけど普通に考えてあの動きは有り得ない。普通の人間がツルツルの壁を走って登れるか?って話だ。
多分誰しもが考える事だとは思うが学校の体育館の壁を走って登りたいと思い練習した事は無いだろうか?
え?無い?少なくとも俺はある。
だが、登れないのだ。何回やっても増えるのは技術では無くて怪我だけだ。少し凸凹がある体育館の壁でもあれなのだ。
どれだけあの男が凄いのか分かるだろう。だが、あの男……何をする気だ?タイラントデスワームの牙を登ってもタイラントデスワームの口の中に自ら飛び込む様なものだぞ?
そのままタイラントデスワームは口の中で瞬く紫電を鬱陶しく思いながらも口を閉じた。
「グギャァァァア!!!?」
だが、そのタイラントデスワームは口を閉じて直ぐに口を開いた。その口の中では男がタイラントデスワームの歯茎にサーベルを突き立てて紫電を大量に放出していた。
そうか!あの男はタイラントデスワームの硬い外殻よりもダメージがよく通る口を狙ったのか!
だけど俺達にあれをやれと言われたら不可能だ。まず最初の牙が避けられない。その時点で詰みである。最初の牙が避けられたとしてもあのタイラントデスワームが口を閉じるまでの短時間では歯茎には攻撃出来ない。
タイラントデスワームは悲鳴をあげながら男を振り落そうと頭を振るい男は素直にサーベルを引き抜き地面に着地する。
俺達だったら追撃を行う所だがあの男は戦いの退き際まで完璧だ。
やはり、これが経験の差か……。
だが、これからどうする気だ?タイラントデスワームもそこまで馬鹿では無い筈だ。もう一度同じ手は通用しないだろう。
するとタイラントデスワームは男を押し潰そうと頭を高くあげて身体をグルグルと捻りながら男に猛スピードで迫る。
タイラントデスワームの鋭い甲殻が回転してタイラントデスワームの表面はミキサーの様になっており触れた瞬間に身体は粉々になるだろう。
そして、その影響か地面から砂埃が舞いタイラントデスワームの姿が隠れる。
これでよりタイラントデスワームとの距離感が掴みにくくなる。
そして、タイラントデスワームの身体に触れたらそれは死を意味する。
近接攻撃が主流のあの男はどう立ち回るのか、とても楽しみだ。
俺達は最初はどうなる事かと思っていたが今は既に心配はしていない。あの男は強い……!タイラントデスワーム相手でも俺達はあの男が勝つとこのどうみてもあの男が不利な状況でも感じ始めていた。
タイラントデスワーム相手に男の雷撃も硬い甲殻に阻まれて通じそうにないしな……
「はぁ……」
男は迫ってくるタイラントデスワームを見てフッとため息を吐く。
そして、武器であるサーベルを仕舞った。
何をする気だ?
そして、手の包帯を解き緑色の腐敗した腕を剥き出しにして、電気を腕に集中させた。
その瞬間腕が輝き出した。
そして、男は再びサーベルを持ちタイラントデスワームの方へ再び歩き出した。
あの技は俺達との戦いでは使わなかったな。なんだ?
(キンッ!)
なっ!?その直後に男はタイラントデスワームの方へと駆け出して高速回転する甲殻を猛スピードで斬りつけたのだ。だが、あまりに甲殻が硬いのか、火花が散る。
しかし男が粉々に砕かれる事は無い。ぐねぐねと回転しながら動くタイラントデスワームの動きを完全に見切って甲殻には刃のみが当たる距離に調節しているのだ。
タイラントデスワームはそのまま攻撃を続けるが、タイラントデスワームの甲殻は既に赤熱していた。
「俺しか見ていなかった弊害だ。自分自身を把握出来ないのは愚策だ」
男のあの技は電気を集中させて電圧をあげる技か……あれ、俺達に使われていたら即気絶だな。
「グギャァァァア!!!!」
そして、タイラントデスワームは怒り狂った様に鳴き声を上げて更に回転速度を上げる。
だが、既にタイラントデスワームの甲殻は疲弊していた。
(バキッ!)
タイラントデスワームの甲殻から鈍い音が響く。そして、
「グギャァァァア!!!!?」
タイラントデスワームの叫びが辺り一面響き、空中には削がれたタイラントデスワームの甲殻が飛んでいた。
あの男も凄いが、あの男が持っている武器……あれも相当な業物だな。タイラントデスワームの甲殻を貫通する事は出来ないにしろ、あれだけ激しく硬い甲殻を切っても刃こぼれ一つしていない。
俺の推理は大体合っているのだが少し違った。確かにあのサーベルは相当な業物だ。だけど、あれだけ切れ味の減衰を防いだのは男の技術合ってこそだ。
あれだけ高速回転するタイラントデスワームの甲殻の衝撃をほぼゼロにして剣を這わせる事が出来なければもっと切れ味は……いや、武器が折れていてもおかしくは無い。
あいつ本当にBランクか?だが、それだけBランクとAランクには大きな超えられない壁があるのだろうな。
ってことは本気出したらエルキンドの奴クソ強いんだろうな……
そして、次々と男は甲殻を剥いで行きタイラントデスワームはほぼ丸裸同然の姿になった。
その後の戦いは言うまでも無く男の圧倒だった。タイラントデスワームは攻撃は徐々に傷を深めて動けなくなった所で男はトドメをさした。タイラントデスワームの桂剥きだ。
食いたくは無いけど。だが、この男の戦闘スタイルは大体理解した。
この男は着実に手順を踏んで勝利を掴むんだ。
そして敵を追い詰める。だから俺達の事をギャンブラーと呼んだのかも知れない。
あの言葉にはもっと着実に手順を踏めと言う事をアドバイスしていたのかもしれないな。
こうして、砂漠の戦士VSタイラントデスワームは砂漠の戦士の圧勝で戦いを終えた。