134話 砂漠の戦士
痛い!顔が痺れる……俺は突然町に足を踏み入れた瞬間強い衝撃を顔に食らって吹き飛んだ。
手を顔から離してみると、その手は赤い俺の血で染まっていた。痛みはあるものの血は既に止まっている様だ。
不意打ちとは言っても敵がどこにいるのか全く分からなかった。
「安元……大丈夫か!?」
添島達が駆け寄ってくるが、俺は大丈夫の旨を伝えて敵の存在を告げる。
取り敢えず身体能力を上げないと全く動きについて行けない。
「きゃあああ!」
そう思った瞬間、山西が悲鳴を上げて背中から血を吹き出して倒れたのだ。
そんな……一体どうなっているって言うんだ!
そこで俺は考えた。落ち着け!俺!敵は次々と俺達のサポート役から潰していっている……。となれば、次敵が狙うのは!
「内部圧縮属性付与 火」
俺は山西に向かってハイヒールを詠唱している重光の後ろを抉る様に刀にエンチャントを纏わせながら切り裂いた。
「ほう……?やっと気づいたか」
「!?」
すると、俺の耳元で低くて少しドスのある声が聞こえた。俺は咄嗟にもう片方の刀を引き抜いてその声が聞こえた方向に刀を振った。
「なんだその動きは。無駄が多すぎるぞ」
「影武者」
「俺達を甘く見て貰っては困るな!」
俺の刀は回避されたがその隙を縫って亜蓮が対象の気を引き、相手がシャドウウォーリアに気を取られた瞬間に添島が大剣を振り上げ斬りかかる。
そして相手の姿も鮮明に視界に映る。性別は声や容姿から判断して男だろう。服装はボロボロの砂と同じ色の布切れを纏っており、割と軽装備だ。
その布切れは全身を覆い、手には包帯の様な物が巻かれており、全身はそこまでゴツくは無いのだが筋肉がかなり引き締まっているのが見て取れる。
そして、顔は四十歳位に思えるだろうか?かなり厳つい顔だ。鋭い目はまるで獲物を狩るハンターの様だった。
右目には大きな傷があり、そこの部分だけ皮膚が無くなり緑色……つまり、俺達が思っているアンデッドの様な皮膚をしている。
他の部分はちゃんと皮膚がある事から高位のアンデッドは殆ど人間と姿が変わらないのかも知れないと俺は仮説を立てた。
恐らくこいつがエルキンドが言っていたBランク冒険者でほぼ間違い無いだろう。
だが……こいつ……強い……!?本当にBランク冒険者か?そう思う程目の前の男の動きは卓越していた。
動き自体はそこまで速くは無いのだ。 だが、動きに無駄がない。俺達の攻撃をまるで読んでおり先回りしているような感じだ。
「オレも甘く見られる様な動きはしていない筈だ」
「なっ!」
(グサ……)
馬鹿な!相手は刀身僅か七十センチ程のサーベルの先で添島の大剣の上段切りを受け流して、そのままの勢いで添島の腹をサーベルで突き刺したのだ。
嘘だろ!?添島のオーラタンクありの攻撃をあんなに簡単に受け流すなんて……
「射盾魔力加速(バックラーアクセラレート アルファ)」
添島の腹部から赤い血が大量に流れ、添島は苦しそうに表情を歪める。そこへ、盾から衝撃波を放出して急加速した亜蓮がその男に後ろから斬りかかる。
「多重防御壁」
山西の治療を終えた重光がバリアを亜蓮の正面に張り、亜蓮はもう一度マナを使って空中で方向転換をする。
「甘いな」
「っ!?ゔがぁ!?」
突如男のサーベルが紫電を纏い、男はバリアを左手で弾き紫電を放ち、その紫電は亜蓮を貫く。
あれは!?町に俺が足を踏み入れた時に食らった攻撃だ。不味い。このままでは確実に俺達は負ける!
「次はどいつだ?」
行くしかねえ!俺は両手にマナを込めて走り出した。もちろんアクアにも意地で不意打ちを伝えてだ。
「お前か……それとオレが気が付かないとでも思ったか……?」
「キュイ!?」
男は後ろから迫っていたアクアの喉元をサーベルの柄で突きそのままの勢いでアクアを俺の方に放り投げた。
マジかよ!?アクアは泡を吹き気絶している。あの一瞬で……!?俺は後ろ側に右手を突き出してインプレスエンチャントを発動し、飛んできたアクアを回避して男との距離を詰める。
「気円蓋!!!」
「ぬっ!」
重光の治療を受けていた添島がオーラドームを発動して男がアクアを投げ飛ばした隙を突いて攻撃を仕掛ける。
ナイスだ!男は少しよろめいたものの直ぐに添島の攻撃を受け流して添島を地面に叩きつける。
男よ……甘かったのはお前だ。覚悟しろ
「内部圧縮属性付与 氷火……」
「……!?」
だが、俺の攻撃は悲痛にもその男に届く事は無かった。俺は腹部に熱い痛みを感じ、アイスバーンは男の上空に放射される。
「お前達は甘い……まだまだだ」
男がそう呟いた瞬間俺は上空に吹き飛んでいた。腹から血を吹き出しながら視界がぐるぐると回り、全身が痺れに襲われる。
ああ……負けたのか……俺は動かない身体を痙攣させながら地面に叩きつけられる。
残りは重光と亜蓮のみだ。いや、亜蓮も身体が痺れている事を考えると実質重光のみだ。これ……ヤバくね?
「残りはお前一人か……もう少し粘ってくるものだと思っていたが……正直期待外れだ」