133話 砂漠街
俺達はやっと動けるようになったフォルトを連れて三十七階層へと足を踏み出した。三十七階層は温度は高いもののどこか三十六階層とそんなに変わらないような気がして来た。
いや、寧ろこちらの方が若干涼しいとも感じる。何故だろうか……少し湿度がこちらの方が高いのかも知れない。
だけど、そこまでジメジメしている訳でも無いのだ。
どうせ俺と言う人間エアコンがある限り温度の問題はほぼ解消出来ているのだ。大変なのは、食料が温度故に腐りやすいから現地確保しなければならない点である。
勿論、調理済みで保存すれば長持ちするし、燻製も沢山持って来ている。
サボテンの葉や実なども長持ちするから割と野菜は確保できているが、それは殆どがフォルトのエサだ。
フォルトは身体のサイズ故に大量に飯を食べる。気温が高いから体力の消耗は割と抑えられている筈なんだけどなぁ……
砂漠エリアは何が嫌かって言うとやっぱりその広さと歩きにくさだろう。
流石にもう歩くのには慣れたのだが、まだ足を取られる。フォルトを見ていると羨ましい。
ん?待てよ?フォルトの場合馬車が無くても乗れそうだな。背中には大きな突起した甲殻と鱗があって掴みやすそうだ。
(コンコン)
「クエ?」
何となくフォルトの背中を裏拳で叩いてフォルトに合図する。フォルトは何?って顔をしている。全員乗れるか?
まずは俺がフォルトの頭から一番近い位置に乗ってみる。フォルトは首を犬のようにブルブルと震わせてリラックスしている。
うん、まだ行ける。その後アクア以外の全員がフォルトに跨った。
これ行けるか?流石にキツいんじゃ……だって俺達全員の体重+装備の重さだぞ?合わせて四百キロ近くはあるはずなんだが……
それでもフォルトは割と平気な顔をしている。まぁ、それもそうか……
まずフォルト自体の体重は五百キロ位はあるだろうし、それを考えると体重六十キロの人間が五十キロの人間を背中にのせて四つん這いになってるようなもんか……ちょっと違う気がするけど。
「フォルト?行けるか?」
「クエッ!」
俺がフォルトの頭を突き合図するとフォルトは人吠えし、走り始めた。
え、え、ちょっ、ちょっと待てええええ!
おま……早すぎだろ!フォルトは恐らく時速で言うと四十キロ位の速度で走り始める。
「お前ら!しっかりと捕まれ!振り落とされるぞ!」
「属性付与 土」
俺はエンチャントをフォルトの身体の動きの邪魔にならないように発動してフォルトの甲殻と自身の身体を貼り付ける。勿論、重光も土魔法を駆使して全員を貼り付けた。
アクアは空中から追いかけている……と思ったらフォルトの尻尾を咥えて羽をパタパタしている。
アクア……お前も加速要員か……そう思ったが良く良く考えるとアクアはまだ飛行する時にそこまで速度を出せなかったのを忘れていた。
「ギィィィイ!」
「うおっ!マジかよ!タイラントデスワームじゃねえか!」
は?ちょっと待て。タイラントデスワームって俺の中での遭遇してはいけないデスワームランキング上位に食い込むんだけど……。
タイラントデスワームはその名前の通り巨大なデスワームだ。ただでさえ巨大なデスワームが更に巨大化しているのだからそのサイズは半端では無いだろう。
実際頭のサイズだけでフォルト程のサイズはある。つまり頭だけで七メートルを超える。タイラントデスワームは巨大な身体に大きな甲殻を持っており鋭い顎で敵を打ち砕かんとするのだ。
だが、タイラントデスワームには他のデスワームと違う点がある。
それは、酸などの状態異常攻撃を持っていないと言う事だ。つまりは物量推ししか技が無いのである。
そう言う点からタイラントデスワームはBランクモンスターの位置付けだ。それに恐らくヒュージトレントよりは弱いのは確かだろうな。
だけど、それでも俺達には厳しい相手だ。タイラントデスワームは最大時速百キロ程は余裕で出せる。たけど、巨大な身体故に小回りは効かないし、遠くからでも視認できるから別に大した事は無い。
因みにこのタイラントデスワームは中ボスモンスターである。タイラントデスワームは俺達に気がついて居ない様子だったのでそのまま逃げる。別に戦う必要は無いだろう。
フォルトに乗ってしばらく進むと遠くに街の様な物が見えた。いや……町だな。
それにしてもフォルトに乗って進むとここまで速いとはな……フォルトは凄いでしょ!とでも言わんばかりに胸を膨らます。うん、可愛い。
そして、中心には巨大なオアシスが広がっておりそれを中心に町ができているようだな。とは言ってもオアシスの片方だけにだが、俺達から見える方向には町が作られ、反対側は城壁で覆われていた。
人が住んでいるのか?いや、まさか……な……。
そこで俺はエルキンドの言っていた事を思い出す。確か……二人変わり者が砂漠にいると言っていたな。その人達だろうか?いや、それ以外は考えられない。俺はそう思い町の近くまで行き、フォルトを降りる。フォルトの手綱もここで作るべきかな……?
そう思い、町に足を踏み入れた時だった。
「ぐわぁっ!?」
「安元!?」
突如俺は顔面に強い衝撃と痺れを感じて吹き飛ばされたのであった。