131話 サンドリザード
気がつけば俺達は砂漠エリアを進み始めて数日が経過していた。マジで終わりが見えない砂漠……俺達は既に一言も喋らなくなっていた。だが、そんな時に一途の希望が見えた。
砂漠エリアの端に次のエリアへの入り口らしき物が確認できたのだ。俺達の表情には喜びの色が強く現れた。というのも、この階層を探索している間は逃げてばっかりだった。部が悪いのだ。
敵が強い。主にデスワームだが、デスワーム相手だと俺達は手も足も出ない。
攻撃は一応通る。だけど、砂漠は死体があると直ぐに新たな敵が湧き出る。デスワームはその中でもグネグネと常にかなりの速度で地中と地上を行き来しながら襲って来るのだ。
地中に逃げられた時には俺達にとって攻撃手段は乏しいのだ。
そう考えると俺達はデスワーム相手だと逃走した方が賢いだろう。
だから食料とかは小さなモンスターから剥ぎ取る形で手に入れることが出来た。そして、俺達には新しい仲間が増えた。サンドリザードである。
――サンドリザードとの出会いはちょっと前に遡る。俺達が砂漠をひたすら歩いている時だった。
遠くから四つ足で砂埃を上げながら走る生物を見つけたのだ。その生物の後ろからはコープスラメッジ達が複数体で追いかけていた。
コープスラメッジか……また面倒なモンスター達が来たもんだ。だがコープスラメッジは基本的に死体または一匹の生物を集中して狩ることが多いんだよな。
それなら俺達は先に行かせてもらうか。
俺達は最初は目の前の生物をスルーして先に進もうと思っていた。
いや、最後までその気持ちだった。
だけど、その生物は俺達の近くまで行ってからひっくり返ったのだ。
ふざけんな!俺達の思った事はそれだった。そのサンドリザードが俺達の前で死んだふりをし、俺達はコープスラメッジに囲まれてしまった。仕方がない。やるしかないか……
「内部圧縮属性付与火」
俺が右手を引き掌底の感じで爆炎を右側の大きめのコープスラメッジに向かって放ち一撃を食らわせる。
「バウッ!」
だが、コープスラメッジは一切動じてないかのようにこちらに飛びかかる。
コープスラメッジはどうやら火に対して強い耐性があるようだ。コープスラメッジの飛び出た骨は赤く赤熱して白煙を上げており、俺の攻撃が全く効いていない訳では無さそうだった。
「影武者」
亜蓮が複数本のナイフを投げ、標的を一体ずつロックオンしていく。多少タイミングはズレてるものの亜蓮も上達したものだ。
そして、俺の方に飛びかかって来たコープスラメッジに俺は背を向けて地面に向かってインプレスエンチャントアイスを発動させた。
「バウッ!?」
俺の足元から氷が周りに伝わり、ほかの注意を逸らされていたコープスラメッジも足を凍らせる。
「おいおい、地面凍らせる時は一声かけてくれよ」
そして、俺の背後に添島が立ち目の前のコープスラメッジを切り捨てる。何も言わずに地面に氷を這わせたのは悪いと思ってます。はい。
だけど、そこで驚きの現象が起こる。赤く赤熱しているコープスラメッジ以外の個体に張り付いていた氷が割れる事もなく身体に吸収されてコープスラメッジの突き出ている骨の部分が白く輝き出したのだ。
属性ダメージを吸収した?だが、二つの属性は吸収できないのか?それを試すために俺はその冷気を纏ったコープスラメッジに対して炎を纏わせて居合斬りを放ち身体に大きな傷をつける。
やっぱりか……!
そのコープスラメッジは俺の炎を吸収する事は叶わずダメージを負っていた。山西の方は若干押され気味だ。ちょっと不味いか……?重光は魔法の詠唱もあるのでこちらサイドで守る必要が出てくる。
そうなると、山西の護衛は必然的に亜蓮か俺だ。
添島は一人で重光を守る事は出来るだろうな。アクアも戦力としてはまだ不足気味であるが空を飛べる為一方的に攻撃は出来る。反則だ。
「藍水槍」
重光はかなり長い詠唱を終えて巨大な水の渦巻きの様な物を空中に生み出す。なんだ!?その技は!?やけに長い詠唱だと思ったらそう言う事か!?
そして、重光は言い放った。
「これは水槍の上位互換……新しい技よ」
その瞬間巨大な渦巻きから長さ二メートル近くの大きさの巨大な水で構成された槍が形成される。その槍は水を渦巻き状に纏っており、当たった者をことごとく抉りそうな形状だ。
重光は次々と……巨大な槍を生み出してコープスラメッジに向かって飛ばしていく。コープスラメッジは素早い動きで避けるが槍の大きさ故に効果範囲はかなりでかい。
そして……
「キャインッ!」
一匹の足が槍に巻き込まれて抉り、更に追撃とばかりに槍がとんでコープスラメッジをズタズタにしていく。そして、重光の槍が複数のコープスラメッジを穿った頃にはコープスラメッジは退散を始めた。
うわぁ、えげつねえ……重光が魔法撃ってる間俺たちは防衛戦しかしてねえぞ……コープスラメッジの肉はズタズタになってしまったが食べられない事は無いし、骨の部分はしっかりと残っていた。
コープスラメッジの骨は防具に組み込んだら中々強そうだな。それで俺の疑問は解けたかも知れない。
数日前グリードデスワームに対して突っ込んで行った数匹のコープスラメッジ……あの時は勝てるはずが無い……と思っていた。だけど、コープスラメッジの骨が属性だけで無くて状態異常も吸収するとしたら……?
まず、グリードデスワームの酸は効かない事になる。そうなると、体が大きいデスワームにとってはコープスラメッジはかなりの難敵になるだろうな。
俺達は今回噛みつかれなかったがコープスラメッジに噛みつかれたらほぼ終わりと思っても良い。
それくらい顎の力が強いのだ。噛み付かれた部位を無くすことを覚悟しなければならないレベルだ。まぁ、俺達も強くなったって事だ。
そらにひても重光のあの魔法……普通の魔法使いには連発出来る代物では無いだろうな。
まず一撃があの威力だ。元々何個も生み出す様なものでは無い気がする。まぁ、詠唱にかかる時間は長く、瞬間火力はマルチフレイジングランスの方が上だろうが、一撃当たった時の継続ダメージはこの技が圧倒的だろう。
そんなこんなで俺達はさっさとズタズタになったコープスラメッジ達を回収したのだが、その場に残された生物がいた。
そう、サンドリザードである。見た目は平べったく、背中には棘が生えており目がくりっとしているいたって普通のトカゲである。
ただサイズは体長約七メートルくらいはあるだろうか?かなり大きい。
色は砂と同化する様に出来ており、先程こちらに逃げて来た速度を考えるとワニ走りでも時速六十キロ近く出ていたと考えられる。だが、それを考えると逃げ切れたのでは?とも思ったが持久はあまり無さそうだ。未だにひっくり返っているサンドリザードをつついてみるが反応はない。
死んだふりか……この砂漠において死んだフリは逆効果だと思うんだが、まぁ、ここにいたらほかの敵が襲ってくる可能性もあるので速やかに去る事にする。
「クエッ!?」
その時突如後ろから発作の様な音がしたので振り向いて見る。うん、サンドリザードが起き上がってる。こいつ、食べるか?少なくともコープスラメッジよりは美味そうだぞ?まぁ、多分あの速度で逃げられたらどうしようもないけどな。添島や亜蓮なら追いつける気もするが、無駄に体力を消耗したくないし、敵対しないのならばこいつにここまで拘る必要はないだろう。
「クエッ!クエッ!」
俺達が武器を構えるとサンドリザードは必死に首を横に振り、何かを訴える。
分かったよ。狩らないからさ。じゃあな。
俺達は再び砂漠を歩き始める。
「クエッ!」
は?後ろを見るとサンドリザードが付いて来ていた。こいつ……コープスラメッジから助けてくれた事に恩を抱いてるのか?しょうがねえな。付いて来て良いぞ?
俺はマジックバックからスナッチヴァルチャーの肉を取り出して与える。
「クェ?」
え?食わねえの?サンドリザードは何それ?みたいな目でスナッチヴァルチャーの肉を眺めていた。
お前まさか草食かよ!?
俺はそう思ってサボテンの端を取り出して与える。
「クェッ!」
うん、やっぱり草食だ。
(アクア?こいつと会話できるか?)
(……無理みたい。何となくの感覚しか伝わってこない)
同じドラゴンとしてアクアを通して会話が出来るかと思ったがサンドリザードはそこまで知能が高くないらしい。
こいつはおそらく戦闘面では一切役に立ちそうに無いが移動や積載には使えそうだ。力とスピードはかなりありそうだ。俺はこのトカゲにフォルトと名付け共に旅をする事にした。
寝る時フォルトをどこに寝させるか迷ったのは後日談である。
アクアランスは当て字です笑