128話 生贄
「うう……寒い」
夜になり、あまりの寒さに俺は目を覚ます。クソ寒い。マジでこれはテントから出たく無い奴だな。
砂漠の中で引きこもり真っしぐらとか嫌だぞ?俺は即座にエンチャントを発動させて周囲の温度を上げる。うん、俺完全にエアコンと化してるわ。
こう考えると俺のエンチャントって便利なのかな?とは思う。それにしても昨日の騒がしさは何だったのかと言わんばかりに恐ろしい程夜は静寂を保っている。
不気味だ。不気味なのだ。この砂漠エリアに入ってから戦闘が起こっていないのはおかしい筈だ。今までこんな事があっただろうか?いや無い。
だが逆にこの静けさは戦闘の前触れとも読み取れる。いつモンスターが襲ってくるか見当も付かない。
「ヴォォォオ……」
ほら言わんこっちゃ無い。猛獣の鳴き声だ。低く唸るような声が聞こえる。どうせそんな物かとは思ったよ。だがおかしな事に獣らしき姿はどこにも無かった。
すると突如地面が揺れ始めたのだ。そこで俺は察する。地中か!?しかも、その揺れはテントの方向に近づくにつれて音が大きくなっていた。テントの真下からだ。不味い!
「みんな起きろ!敵襲だ!」
(ズドォォン!)
俺の声とほぼ同時に地面から砂が舞い上がり俺達のテントはその砂と共に姿を搔き消した。グリードデスワームだ。単体で強さはBランクモンスターに相当し、生体反応のある生き物を片っ端から攻撃していく面倒なデスワームだ。
グリードデスワームは赤黒い皮膚をしており見た目はヒルの様な形をしている。鱗や甲殻を持ち合わせていない珍しいタイプのデスワームだ。
だが、そのグリードデスワームの真髄は攻撃にある。主にグリードデスワームは二種類の毒を使い分ける。まず、相手を強力な酸で溶かす強酸液。その液は以前戦ったビーストグールの体液にも引けを取らない。いや、あれ以上だろう。
そして、猛毒液。猛毒液はグリードデスワームの体表にも流れており触れたものはその部分の細胞が少しずつ不活性化し、最終的に壊死する事になる。つまり、ダメージ系の神経毒だ。
その毒を食らうと動きが鈍くなる上に激痛と共に身体を毒が蝕んで行く事だろう。テントは吹き飛ばされたが、テントのお陰で仲間達は上空に打ち上げられたが、中は無事な様だ。
グリードデスワームじゃなかったら割とヤバかったぞ?グリードデスワームは他のデスワームに比べると口が小さめで滑らかな形をしている。強いて言えばチ◯コに近い。うん。やめとこう。
グリードデスワームの食事は電動ミキサーの様な感じで食べる。まず敵を動けなくしてそこから体を捻るようにして刷り込みながら口に獲物を放り込むのだ。正直グロい。現にテントは既にボロボロだ。仲間達は急いで外に出てグリードデスワームから離れる。
早速テントが破壊されてしまった。今日からどうやって俺達は砂漠で過ごせと?夜は火を焚けば良いとしても昼は暑い。
テントだから衝撃で上空に吹き飛んだ事が幸いした。砂漠で拠点を作る時は土台を地面にしっかりと固定するのはやめた方が良さそうだ。そして、グリードデスワームがUターンしてこちらに戻ってくる。熱を感じたか……逃げよう。
あれはマジで無理だ。だけど、グリードデスワームには弱点がある。それは、温度だ。奴は昼には活動出来ない。昼は地中で引きこもっているのだ。砂漠に生息しているのに変な話だがな。
取り敢えず俺達が取れる選択肢は一つしかない。逃げる事だ。デスワームは温度と匂と振動で敵を察知していると思われる。目は見えているのかどうか分からない。
グリードデスワームは食事方法故に他のデスワームと比べて食事に時間もかかる。俺達はそれを利用する事にした。まだ、森エリアの方肉類は余ってた筈だ。それを生贄にさせてもらおう。俺はそう思いマジックバックに手を突っ込むが何も見つからなかった。
やばいそう言えば全部食った様な気も……グリードデスワームは既に目の前まで迫って来ていた。撃退するか……?そう思った時上空に巨大なハゲタカの様な生き物が見えた。
よし、生贄はあいつだ。
俺はそう思い狙いをハゲタカに定めたのだった。