127話 猛暑
砂漠エリア……それはとても過酷な環境にある。それは十二分に承知していた。だけど現在俺達は三十六階層で砂嵐に襲われていた。
「ちょっと待てよ……いきなり砂嵐かよ……」
俺達は早速ジジイから貰ったフードを頭装備に着用する。うん、中々のつけ心地だ。
そして着けている時に割と視界の邪魔にならないのも良いポイントだ。
シンビオシスプラントの蔦はピッチリと張り付いておりどちらかと言えばゴムに近い感じがある。ゴム程ガチガチに締め付ける訳ではないのだけど。
俺達は砂嵐の影響で一旦探査速度を落とす。実際何が起こるか分からないからな。
気温は暑いって言ったら暑いのだが思っていた程では無かった。
確か渓谷エリアの中で暑い階層があった筈だ。その階層よりも少し暑い程度だ。まだ、向こうの方が太陽の照り返しの面から考えて暑かったかも知れない。
まぁ、砂漠エリアとか言うくらいだからオアシスとかは何処かにあるとは思う。
そして、砂嵐の中でも遠くに巨大な生物の姿が目に映る。
うわ……あれ絶対勝負挑んだらいけない奴やん。ここに来る前に事前に砂漠エリアに出現するモンスターの資料を見てきたが、まさかあんなサイズだとは思ってもいなかった。
その生物は現在砂嵐が発生している為遠目にしか見る事が出来ないが、高さは優に五メートル前後はある。だが、あれでも大半の胴体が埋まっていると言うのだから全身のサイズはとんでもない大きさなのだろう。
多分デスワーム系統だろうな。
砂漠にはデスワームと言う地中に住む芋虫の仲間が存在する。洞窟エリアで出てきた巨大ミミズや巨大ムカデの仲間だ。
だけど、砂漠のデスワームは奴らとは次元が違う。
まず、大きさが桁違いだ。勿論洞窟エリアで出てきたものでもサイズはかなり大きい。その時はそう思っていた。だが、デスワームはそれさえも超過する。
そして、発達した甲殻と巨大な牙が特徴的だ。俺達全員を一口で飲み込めそうな口には長さ数メートルの巨大な顎が付いており、捕食対象を容赦なく砕く。
そして、デスワームは種類にもよるが強力な毒を持っている。本当に勘弁して欲しい。
さっき、ラクダの様なモンスターが巨大なサソリを脚で駆逐しているのを見たが中々エゲツなかった。主にラクダの蹴りの威力にだが。
――うん、それは良いとしてだ。何故砂漠エリアが思っていたより過酷では無かったかと言うと先ず水の確保だ。
本当ならば砂漠での水の確保は容易では無い。だけど俺達は魔法が使える。
つまり、水を生み出せるのだ。そうなると常に水の確保は完了している事になるのだ。こんなに楽な事は無い。
しかし、この後俺達は決して砂漠が楽ではなかったと感じる事になる。
「はぁ、はぁ、そろそろ休もうぜ……」
俺はあまりの温度にバテてその場に座り込む。足場が砂と言う事もあって足を取られる。砂の上を歩くのが初めての俺達にとってはかなりの体力を消耗する。
元の地球でも砂漠に慣れていない日本人が砂漠を歩くと一時間程で歩けなくなると言うのをテレビで見た記憶がある。
その当時は嘘だと思っていたが、実際に体験してしまうとその気持ちが分かる。
そして、恐ろしい程敵に襲われていないのだが、この状態で戦闘になった場合は戦えるのだろうか?重光の場合足場を土魔法で形成して戦う事も出来そうだが、まだ分からない。
気温も日照時間が長く、昼に近づくにつれて気温はどんどん上昇し、温度は最初の比では無くなっていた。くそ……砂漠舐めてたわ。
そして何より……進んだ実感が無いのだ。砂漠はほぼ平地で遠くまで見渡せる。だけど、景色がほぼ変わらない。大きなサボテンを目印にはしているものの、どこかサボテンの位置が移動している気がした。
俺はそこでかなり名案を思いついた。暑いなら冷やしてしまおうと。
「属性付与 氷!」
俺は全身から冷気を放出させて周りの空気の温度を下げる。最近はインプレスエンチャントばっかり使っていたから何か凄く燃費が良く感じる。
仲間達は俺がエンチャントを発動させた事により、幾分か楽になった様だ。やっぱり発想は大事だな。俺はそう思った。
砂嵐も止んでまた天気は快晴だ。砂漠の地面には所々穴が空いていたり洞穴があったりするが俺達は出来るだけ近づかない様に避けて歩く。
それにしても砂漠エリアは本当に場所が分からなくなるな……ジジイのオートマップがあっても砂嵐が結構な頻度で発生するから使えない。足の疲れを感じて簡易テントを張る事にする。
勿論このテントはシンビオシスプラントの素材を使ったものだ。ジジイが作ってくれた。最初はいつも通り仮拠点を建てようとしたのだが、砂漠の気温故に中が暑くなるのと、あまり地盤が安定しないって言うのが俺の印象だ。
――テントに入ってから辺りが何やら騒がしい。俺達はそんな事を感じながら眠りについた。この時見張りの仲間は付いていたが周囲を確認するも、何も見つからなかったと言う。
今のところ俺達は戦闘を避けるようにして砂漠エリアを進んでいたからモンスターとの遭遇率は低めだった。また午後出発する事を視野に入れて俺達は休憩に入ったのだった。