126話 完全燃焼
植物にとって熱湯を吸収すると言うのは自殺行為に等しい。熱湯を吸い続けると植物は枯れてしまう。
だけど、目の前のシンビオシスプラントは破格の再生力と生命力を持っており環境によって自分の生態を変化させると言う。
「――ッーー!!!!」
シンビオシスプラントは高温の泥水がぶくぶくと温度を上げて行く中脱出しようと地面に脱出しようとして驚きの声を上げる。
そう、奴の足元には既に菌糸の床は残っていないのだ。近くの菌糸の床は俺が吹き飛ばしたし、遠くの床は重光が地道に燃やした。
俺達はこうなると分かっていた訳では無かったが結果的にシンビオシスプラント相手に有利な状況を獲得できた。重光は魔法をエリアバリアとディープフレイムの並立詠唱に切り替えて火災旋風の火力を高めていく。
俺がエンチャントで力を込めるのはもう少し泥水の温度が上昇して蒸発した頃だ。今の残りのマナを考えると今エンチャントをしてもそこまでの効果は得られない。それならばせめて着火剤の役割を果たそうと思うのだ。
何か後ろが騒がしいがそんな事は気にする事は無い。火災旋風は炎が巻き起こるまでは自分で風の流れを制御しなくてはいけないが重光はそれを放棄した。
つまり、火力を最大限になるまで高めた上でもう一度アウトホールウィンドを詠唱するつもりなのだろう。アウトホールウィンドの詠唱を解いてから竜巻が持続する時間はほんの数秒だ。その間に決着をつける必要がある。
泥水の竜巻がシンビオシスプラントを飲み込んで竜巻の勢いが弱まり崩れ始めた。
「外旋風!」
今だ!俺はその瞬間残りのマナを全て重光にエンチャントとして注いだ。後は頼んだぞ!
俺は遠くなる意識と共に暴れる山西を必死に抑える添島と亜蓮を見たのだった。
――シンビオシスプラントは突如着火された炎の竜巻に包まれる。
重光は既に制御はしていない。エリアバリアを詠唱するのに集中する。
シンビオシスプラントはもがいて暴れるがそれは自身の寿命をより縮めることとなる。辺り一面の木々を巻き込んでシンビオシスプラントは炎の竜巻に包まれる。幾ら再生しても無駄だった。炎竜巻はシンビオシスプラントの再生を許さず燃やしていく。
そして、シンビオシスプラントは燃え尽きる。だが、炎の竜巻……火災旋風が消える事は無かった。
重光はこの魔法を普段なら使いたく無かった。いや、使えなかったのだ。確かに火災旋風は威力も高く殲滅力もトップレベルだ。
だけど、この技を重光は操作出来ない。制御出来ないのだ。だから、その技はその階層を燃やし尽くすまで止まらない。
この世界に酸素の概念があるのかどうか分からないが酸素も無くなるし、第一にエリア全体が燃え尽きるまでにどれだけ時間がかかるかも分からなかった。
そんなに長い時間バリアを張ることは幾ら重光でも精神的に来るものがあるだろう。だが、酸素の問題はアクアのドームで多少は解消出来る。そして、今回はボスエリアだ。
ボス扉の中は他の階層に比べると圧倒的に狭い。勿論ボスがいるエリアでは無くて扉内の話だが。そうなると火災旋風を使っても燃焼には然程時間を要しない事が分かる。とは言っても火災旋風は最終手段である。
少し行動を間違えば命取りだ。もしもシンビオシスプラントが万全の状態……菌糸も失って無くて姿も発見出来ていない状態だった場合だ。
その場合は易々とバリアを破られていた可能性が高い。キノコの胞子を吹きかけるだけでも火炎放射攻撃みたいに攻撃する事も出来るしシンビオシスプラントは遠隔攻撃手段も豊富だ。
今回は運が良かったと言うのが大きいだろう。こうして、火災旋風はボスエリアを焼き尽くして三十六階層への道が開けたのだった。勿論この時は俺と山西は気絶している。
後日聞いた事だがシンビオシスプラントのドロップ品は何も無かった様だ。
それもそうだ。あれだけ全て焼き尽くしたら素材は残らないだろうな。
――現在俺達は拠点に戻ってボス戦の後処理をしていた。
シンビオシスプラントの体液は回復薬になると言う事をジジイから聞いたがシンビオシスプラント相手に採取している余裕があるのかと思ったのは後日談である。
だから、次の階層に行くために装備を新調する事も出来ないと俺は思っていた。だけど、
「ほれ、足りない素材はワシが補っておいたぞい」
次の日ジジイは普通にシンビオシスプラントの素材を持ち出して俺達の装備を新調した。さっきまでキングオーラゴリラの素材を使ったゴツい見た目の装備だったのだが、今回はシンビオシスプラントの伸縮性のある蔦を使ったフード付きの蓑のような物をジジイは製作していた。
成る程な。次のエリアは砂漠とエルキンドから聞いていた。だから何となくジジイの思惑がわかった気がする。
砂漠は昼と夜の温度差が激しく、昼は速乾性で尚且つ通気性を重視。夜は寒いから体温が逃げない工夫が必要だ。そして、今回のジジイのフードは取り外しが可能で頭装備に取り付ける事が可能になっていた。マジックバックがある分あまり必要ない気もするが、あって損は無いだろうな。
武器には俺達を貫いた毒棘が加工されて装着されておりより凶悪な見た目になっているが毒は取り除いているらしい。だが、俺達をいとも簡単に鎧ごと貫いた毒棘の威力を考えるとあの毒棘がどれだけ硬いものかは分かるだろう。
「それと……亜蓮。お前の腕の装備に改良を施しておいたわい」
ジジイはそう言って亜蓮の腕の機構を指差す。何が改良されたかは使ってみてのお楽しみらしい。確かに俺達の身体能力が向上した結果亜蓮の腕の機構……つまり盾に火薬を仕組んで破裂させる行為は需要が無くなって来ていた。これは後で試してみるとしよう。
今までと違ってそこには魔石の様な物がはめ込まれており、今までよりゴツイイメージだ。
まぁ、それでも軽装には違いないが。こうして俺達は次のエリアへの足を踏み出したのであった。
ーー
「あー、もう違うのだ……え……?やっぱり違うのだ……」
砂漠の真ん中に割とイケボだが間の抜けた声が響く。そこには巨大な芋虫が血だらけで横たわっており彼の声は誰にも届く事がなかった。そう、モンスターにさえも