121話 森の案内人
ん……。
「おお!やっと起きやがったか!最高に燃費が悪かったがナイスだったぞ!」
俺が目を覚ますとそこには壁が作られておりすでに夜になっていた。ああ、仮拠点か……という事は……。
「やったのか?」
俺は半分寝ぼけて尋ねる。
「いや、ヒュージトレントを倒す事は出来なかったが時間を稼ぐ事は出来た。だが、それも時間の問題だまた奴は身体を修復してやってくるだろうな。出来るだけ迅速に三十四階層を抜ける必要がありそうだ」
添島の言葉を聞き外に出てみる。
「おい、あれ見てみろよ」
久しぶりにみたな。
「おお、まさかここで蛍を見る事が出来るとはな……」
今時間は夜にも関わらず周囲は蛍の光やヒュージトレントのマナの力で明るく輝いており、とても暗さを感じさせる事は無かった。ん?待てよ……。
「おい、添島。みんなの体力は回復したか?」
正直俺はまだ回復しきっていないがヒュージトレント以外の相手だったら戦えない事も無いだろう。ヒュージトレントが来る前に早くこの階層を抜けたい。
「まぁ、お前が大丈夫なら……」
恐らく山西も俺と同じ様に回復しきっていないと思うが問題無いだろう。あいつ、半分前衛で半分後衛だし、というか最近はあの変なモード時だけ前衛である。
山西はカウンタースタイルなのでそうなるのも仕方が無い気がするんだよな……。そういう訳で俺達は夜も森を進む事になった。夜の森は危険と言われているが先程ヒュージトレントが暴れ回ったせいか野生のモンスター達は怯えて出て来る物は少なかった。
やはりヒュージトレントはそこら辺のモンスターとは格が違うのだろう。
そして、そのヒュージトレントに少しでも攻撃を当てて転倒させた俺達にも怯えている気がする。
という事もあり、俺達は何気に三十四階層を突破した。途中ヒュージトレントの唸り声が聞こえて木々が薙ぎ倒される音が聞こえたが聞こえなかった事にしておこう。
多分夜寝ていたら割と危なかったと思われた。さてと、次はボスがいる階層だ。しっかりと拠点で準備を整えたい所だ。俺達はそう思っていた……だが、
「おい、転移碑が見つからないぞ」
うわ、マジかボス戦前に転移碑が無いのは相当厳しい。今回は戦闘数が割と少なめだった事もありマジックバックの中身には余裕はあるし、体力は消耗しているものの大きな傷などは負っておらず、元気だ。
だが、一番辛いのは……これ、ボスが強くて扉から抜けた場合、形勢を立て直すのは三十五階層で行う必要があるって事だよな?今まではボスが強くて勝てなかった場合は扉から脱出して、直ぐに転移碑で拠点に戻る事が出来た。
だが、今回は拠点に戻る為には三十一から三十四階層までを再び踏破する必要がある上にそれを往復しないといけないのだ。最初よりは楽に行けるだろうがそれは骨が折れるし三十四階層にはヒュージトレントがうろついている為戻る事は事実状不可能である。
つまり俺達はこの場所でボスの攻略方法を見つける必要があるのだ。まず、三十五階層の印象としてはとにかく煙たいって感じだ。地面はふわふわとしており辺り一面には大きな木が沢山生えている。
おい、まさかボスがトレント種って訳じゃあるまいな……?もう、ヒュージトレントの様な相手は嫌だぞ。ボスがいる階層は大体ボスに似たモンスターがうろついている事が今までの階層は多かっただからそう思うのも仕方が無いだろう。だが、よく見るとその木々には全て蔦が絡み付いていたりしていた。ヤドリギみたいな感じで全部取り憑かれているのだ。寄生植物や共生植物か……。
「……」
ん?なんだ?辺りからサクサクとした音が響く。
「ン!」
「あら?可愛い……」
うわ、何だこのモンスター。いや、知ってるけどさ……目の前には高さ五十センチ位の赤と白の模様が特徴のキノコの姿をした生き物が立っていた。
勿論そのキノコには手と足が生えており、身振り手振りで何かを話そうとしている。こいつはマッシュチャイルド。基本的に敵対しなければ攻撃はしてこない上にこちらに友好的だ。ただ、可愛い……か?
重光が可愛いと言っているが可愛いかどうか置いといてだ。その見た目に騙されてはいけない。その頭は毒を持っており触れたものを三日三晩苦しませ続けて挙句の果てに衰弱死させるというえげつない毒を持っている。
しかし本人達が意識しない限りその粉末が出る事は無い。まぁ、キノコだから食べなきゃ大丈夫的な奴だ。まぁ、見た目がベニテングタケみたいな色してるから納得はできる。
え?スー◯―マ◯オブラザーズのキ◯ピオみたいな姿じゃないのか?ってマッシュチャイルドはそんな姿では無い。まず目がどこについているかわからないのだ。
まず、あんな感じに可愛くデフォルメされている訳は無いと思うんだが……マッシュチャイルドは俺達を案内するようにてくてくと歩いて行く。地面は恐らく菌糸だろうがこんなふわふわの地面で良くこんなにサクサクと歩けるな……流石はマッシュチャイルドだ。
森を知り尽くしているだけあって恐らくボス扉まで最短ルートで進んでいるのだろう。それに他のマッシュチャイルドが雑魚狩りをしているのか、一切マッシュチャイルド以外のモンスターは見かけない。マッシュチャイルドはどちらかと言えばモンスターというよりは小人族に近い感じはするな。
こうして、俺達はボス扉の前に到着する。マッシュチャイルドは扉の前で複数人で俺達を迎えておりキノコの節の部分を曲げて敬礼している。どうもお疲れ様です。
こうして、俺達は三十五階層のボス扉を潜ったのであった。