119話 必殺技
「頼む!間に合ってくれ!影武者」
亜蓮は倒れて動けない添島に向かって伸びる根から注意を逸らそうとヘイトを稼ぐ。
「っ!?」
すると根は添島に当たる直前で方向を変えて一斉にナイフを貫いた。
もしも亜蓮が投げるタイミングが少しでもズレていたら添島はあの俺達の身体の数倍の太さはある巨大な根に貫かれていた事だろう。根の太さは直径五メートルを超えている。大きい物では十メートル超えだ。
ひげ根でさえ当たれば恐らく即死レベルなのではないだろうか?ん?待てよ。先程から思っていたがヒュージトレントは根の一部分は出して攻撃はしてくるものの全身の姿を現した事は一回も無い。
それは何故か……?自重を支えきれない為だ。あの巨大な根でさえ巨大な身体を支えるのはかなり骨が折れる事なのだろう。
木はある程度根が露出してしまうと、倒れてしまうものも少なく無い。それは奴も同じだ。少なくともひげ根の部分は地面に埋まっている必要がある。
もしも、それをしなくても良いとしたらあの巨大な身体浮かせてジャンピングプレスでもすれば俺達はなす術無くやられてしまうだろう。
「ゥゴゴゴゴゴゴ!」
自分の攻撃が訳分からずナイフを攻撃してしまった事に苛ついたヒュージトレントは再び唸り声をあげてこちらに走って来る。やっぱり速いな……また最初と同じ様に……
「不味いな……」
亜蓮が呟く。どうした?ってその顔は……
「マナ切れだ」
終わった……
俺はマジでそう思った。しかもヒュージトレントは先程よりも速度を増して加速していく。
おいおい、マジかよ……あいつマジで俺達を仕留めに来てるぞ……。
ヒュージトレントは遥か上空の葉っぱを黄緑色に光らせ、葉脈からエネルギーが伝わっているのが遠くでも確認出来、次々と一メートル程はあろうかというサイズの木の実を実らせていく。
クソっ……ヒュージトレント……あいつ、マナの力を使って更に身体能力を上げやがったか……不味いこのままでは追いつかれるまで数秒だろう。あのままぶつかられるだけでも俺達は即死レベルだ。
いや、ギリギリ生きるかも知れないがそんな攻撃を食らった時点でアウトだ。茨燕さーん?居るんだったら助けて下さいよ……微かな希望にかけて周りを確認するが茨燕の姿は見当たらない。
クソっ……確かにずっと見張ってる訳では無いとか言ってたけど肝心な時に居ないとは……
(ジュワッ)
「うっ!」
な、この臭いは……!?ヒュージトレントの枝から落ちた木の実が地面で破裂して強烈な悪臭を放つ……あのセミの尿が臭かった原因はこいつか!?
俺はそう思った瞬間頭に電流が走った様に閃いた。ん?木の実……?ヒュージトレントって……元からこんなに臭い木の実なのか……?
今更なに根本から考えてんだ?とは思うかも知れない……だが俺はこの僅かな可能性に賭けるしか無かった。木の実って自分の種を増やす為に作る物じゃ無いのか?樹液は恐らく硬化液の原液だろうがな。
だが、奴のさっき落下した木の実を確認すると中身はグジュグジュでどうも種子が実るとは思えない。つまり……腐敗!?
俺はその可能性に一点賭けする。腐敗しているという事は木が弱っていると言う事だ。もしかしたらイビュレントシキーダが樹液を常に吸っていて免疫が低下したのだろう。
まずヒュージトレントが育つ環境も中々無いが、イビュレントシキーダが育つ環境も中々無い。まず、イビュレントシキーダは生育に時間がかかる上に地中で暮らしている間は弱く格好の標的だ。大きくなっても強いとは言えない。
つまり、ヒュージトレントとイビュレントシキーダがこんなに長い間共生する事は少ない。まずイビュレントシキーダは陸上での寿命は短いのだ。 俺が考察するに地中に潜んでいるイビュレントシキーダの数は一匹では無いだろう。たまたま俺達が来た時が一匹だったとい言うだけだろう。
今回は運が良かった。そして、俺が賭ける可能性……ヒュージトレント……弱っていてもこの強さ……十分脅威だが、もしも、根が腐っていたとしたら……いや、それでもアイスバーンじゃ、威力は足りないだろう……。
だから!俺はあの技を使う。俺の中でも最大の燃費の悪さを誇る技だ!
「添島!全力で気爆破を撃てるか?」
「ああもう大丈夫だ」
それなら問題ない!
「アクア!俺に軽減能力を!添島!お前はヒュージトレントが近くに来たら俺が手をかざすからタイミングを合わせて撃ってくれ!山西は補助魔法の防御と攻撃を!」
「何をする気だ?」
まぁいい、添島はオーラブラストを撃つだけで良い!
「知らないけど……何か危険な賭けだってのは分かるわ!でもやるしか無いわね!五重強化 撃防速」
おい、お前何さらっと速度継続掛けしてんだよ!しかも例の訳わかんねえモード入ってるし……山西はマナを使い果たしまたあのよく分からないモードに入り目が虚ろになっていた。
それは予想外だったが、俺に任せろ!俺は策を構えて冷や汗を流しながらヒュージトレントを迎え撃つのであった。