116話 エリアモンスター
巨大樹の方向へと逃走するイビュレントシキーダをアクアは追うがイビュレントシキーダの速度には追いつけない。俺達もその後を急いで追う。亜蓮はまだ咳き込んでいる。
おい、そろそろ復帰してくれないと俺達も困る。まさかセミの尿があそこまで強烈な攻撃だとは思わなかった。だがその様子を見ていた重光だけは眉を顰めている。
どうした?亜蓮を囮にした俺達を蔑んだか?やめてくれよ……と思ったが重光の視線は亜蓮にかかっている液体とイビュレントシキーダに向けられていた。
「おかしいわね……」
重光がそう呟いた。何が?
「普通セミの尿は主成分が殆ど水で臭いはそこまでない筈なのよね……そしてセミは樹木から活動に必要な大量の糖分やアミノ酸を必要としているわ。今逃走しているのはエネルギーを取りに行ったのだとは思うのだけどあのセミの尿や硬化液……地球のセミとは性質が違うみたいだから何かありそうね……例えば、別の液体を生成する器官が体内にあるとかね?」
俺の心の声が聞こえたのか重光はぶつぶつと呟いている。木の位置までは三キロ弱位で走って直ぐだ。イビュレントシキーダはものの一分かからないくらいの早さで木に到着し、鋭い口を木に向かって突き刺す。
こう考えると亜蓮のナイフの射程すげぇな……後俺達肉眼で数キロ先の敵まで見えるようになったのか……地球だったらオリンピック優勝間違いなしだな……まぁイビュレントシキーダが大きかったっていうのはあると思うが、それでも身体能力は地球にいた時とは比にならないくらい向上している。
イビュレントシキーダが巨木に到着して直ぐに俺達も巨大樹の根元に到着する。イビュレントシキーダの身体は光っており樹液を大量に体内に送り込んでいるのが見える。補給を止めさせればイビュレントシキーダは動けなくなる筈だ。
俺は添島に合図し、巨大樹に登るように指示を出す。
「気貯蔵」
俺は添島にしがみついたまま添島は木を抉りながら登る。あと少しだ!
「内部圧縮属性付与 火」
よし!直撃だ!俺の攻撃はイビュレントシキーダに直撃してイビュレントシキーダは黒焦げになる。添島は木の壁を伝いながら下に降りている。だが、
「なっ!?なぜ樹から落ちない!」
イビュレントシキーダは黒焦げになっているのにもかかわらず、まだ樹の樹液を吸い続けている。落下している俺をアクアがキャッチし、俺は気がつく。
脱皮か!?イビュレントシキーダは殻と本体を分離させていたのだ。だがそれなら話は早い。脱皮をすると身体は柔らかくなる。
それならば次で終わらせてやるよ!俺はアクアに指示を出して再び腕に力を込める。終わりだ!そう思った時だった。
「っ!?」
「安元っ!」
俺の視界は突如真っ暗になり息が苦しくなる。
(これは……さっきの硬化液!?)
俺はイビュレントシキーダに身体ごと捕らえられてしまった。
(内部圧縮属性付与…火!)
俺は硬化液に捕らわれた状態でインプレスエンチャントを発動させて硬化液を軟化させる。
「っは!」
何とか息を吸う事には成功したが次々と湧き出てくる硬化液に対処が追いつかない。
こいつ!樹ごと俺を括り付けて窒息させる気か!?クソっ!インプレスエンチャントでも威力が足りない!この硬化液とイビュレントシキーダ……それとこの大樹ごと吹き飛ばす技を……氷火……あの技があったな。
だがあの技はグリフォン戦で制御を誤って腕を吹き飛ばした恐怖もあってあれから使っていない。だが現在技術も向上して、装備の補助もあるいま二属性のインプレスエンチャントも出来ない事は無いだろう。
俺は流れる冷や汗を抑えながら両手にマナを込める。まだインプレスエンチャントは五回は使える筈だ。アイスバーンはインプレスエンチャント二回分程度……まだ余裕はある。
そして、この技を使うと言う事は失敗した場合のリスクは大きい……
「アクアっ!軽減能力を使ってくれ!」
「キュイイ!」
アクアが吠えて俺に分厚い虹色のヴェールがかけられる。ありがとう!これで失敗しても上半身が吹き飛ぶ……みたいな事は無い筈だ。マナは既に込め終わった。行くぞ!
「内部圧縮属性付与氷火」
(ドガァァァァアン!!!)
爆音が響き硬化液はイビュレントシキーダごと飛散し、吹き飛ぶ。
そして俺は重力に従って落下していく。やった!成功だ!俺は自分の腕を確認する。よし、腕も吹き飛んでいないな……まぁ両腕痺れて動かないのはしょうが無いだろう。
アクアが飛んできて俺を地上まで連れ戻す。イビュレントシキーダの死体は粉々になってしまったが仕方がない。流石に命には変えられない。巨木は折れてはいないものの内部が露出して……嘘だろ!俺はその木を確認して、顔が驚愕に歪む。マジかよ、イビュレントシキーダでもキツイってのにこいつ……
「大丈夫か!?安元!」
俺の考えている事とは裏腹に皆んなが駆け寄ってくる。違う!今はそれどころじゃない!
「俺は大丈夫だ!だが今はそれどころじゃない!あれを見ろ!」
「何?何だって……っ!?」
添島が後ろの巨木を振り向こうとした時だった。
「きゃあ!」
「何だ!」
「っ!?」
突如俺達……いや、この階層全体を地震が襲う。来たか……このエリアの割に合わないモンスターが出て来やがったな……エリアモンスター……っ!?
――時は少し前に遡る。俺達がキングオーラゴリラを討伐した直後に拠点でジジイと会話をしている時だった。
「俺達って中ボスモンスターによく会うと思うんだが、遭遇確率ってあんなものなのか?それとさっきまで何処に行っていた?」
俺達はジジイに質問する。いや、だってあんなに遭遇したら流石に確率を疑う。ほぼ全部のエリアで遭遇してるからな……
「いや、そんなに遭遇確率は高くない筈じゃよ……さっきはの……ほれあの羽をお土産にあげたじゃろ……まぁ、そう言う事じゃよ」
ジジイは口を濁しながら話す。いや、誤魔化しは効かねえぞ。あの羽……凄い代物なのだろうが何の羽なのか一切分からない。俺達が今まで戦った事の無いモンスターだ。
「ごほん、そう言えばエリアモンスターとはまだ遭遇していないのかのう?」
ジジイが突然話題を切り替える。エリアモンスター?何だそれは。中ボスモンスターと同じような部類か?
「その顔はどうやらまだ遭遇していないようじゃの……エリアモンスターとはそのエリアに君臨する頂点のモンスターの様な物じゃよ。大きさは巨大な物が多く遠くからでも一目見たら分かるレベルじゃ、そしてその強さはエリアによってはボスモンスターをも超越するモンスターもおる」
おいおい、そんなモンスター遭遇したら俺達割と詰んでないか?まず遠くからも見える大きさってどんなサイズだよ!
「まぁ、そんなに心配する事は無いぞい。まずエリアモンスターのエリア出現率が極端に低い。だから実際今までとてつもない大きさなのに見たことも無いじゃろう?このわしですら数十回……いや数百回じゃったかのう……」
いやいや数十回から数百回とか幅広すぎだろ!しかも、それって結構な確率で出会ってると思うんだが……
「多分お主達何回か、エリアモンスターをオブジェクトとか地形と勘違いしている可能性も高いと思うぞい。そして、エリアモンスターは自ら攻撃は仕掛けて来ないし、肉体にある程度のダメージが通らないと攻撃してこない習性が共通してあるのじゃよ。決して手を出してはならんぞ……お主らのようにエリア攻略出来るかどうかと言う中途半端なステータスでは敵う相手では無い!」
地形と間違えるほどの大きさ……そして攻撃して大きなダメージを負わない限り出てこないか…… うん、絶対喧嘩売らないわ。
まずそんなモンスター相手に喧嘩を売るわけが無い。その時の俺はそう高を括っていたんだ。
だが、現在……目の前にはその本人……エリアモンスターが君臨していた。
改行処理を少しずつ行っております。最新話は改行処理を先に済ませて投稿致しますので既存の話につきましてはしばらくお待ち下さい。