112話 花粉症
夜マテリアルゴーストと戦ってから、、、というか添島が一撃で吹き飛ばしたけど、、、何故か不安が俺の中で絶えなかった。あの時俺達はマテリアルゴーストの死体を見た訳でも無いし、マテリアルゴーストが死んだとも限らない。だけど確かに俺達に対して明確な敵意を持っていたマテリアルゴーストが戦闘終了後に一切気配を現さない事から俺達は添島の攻撃で消し飛んだと思っている。だけど普通に考えても添島のオーラブラストはどちらかと言えば衝撃波の部類であり、敵を消し飛ばすと言うよりは吹き飛ばすと言う概念に近いだろう、、、そして、俺達はまだ警戒を怠らない。何故ならあの俺達が寝泊まりした場所の少し手前、、、あそこの木々に付いていた傷跡、、、それはどう見てもマテリアルゴーストの付けた傷では無いのは明らかだった。つまり、、、敵はまだまだ近くにいるって事だ。そして、自分達の進路の先はオレンジ色の霧がかかっており、何かありそうだ。あれ、普通の霧じゃないだろ、、、
「おい、亜蓮、、、?あの霧の効果は分かるか?」
割と大雑把な言い方で尋ねてしまったが大体の趣旨は理解してくれると信じよう。
「いや、近くに行かないと流石に分からないが、、、あれは霧じゃないな、、、鱗粉とか花粉が混ざったものかと思われる」
ああ、花粉か、、、俺達は全員元の世界でも花粉のアレルギーは無かった。もしかしたらロークィンドでも花粉症とかあるのかも知れないな。それにしてもあの量はおかしい、、、地球での花粉が大量に飛ぶ時期でさえ視界が多少黄ばむレベルで最大級だろう。それに対して目の前はオレンジ色に染まり一切先が見えないレベルである。そんな花粉あり得るのか、、、?だが単純に花粉の種類が違うって可能性も考えられるな、、、それと鱗粉か、、、虫系のモンスターがいる可能性も考慮出来るな、、、これならば風で吹き飛ばすのが一番いい方法か、、、毒を持った鱗粉かも知れないしな、、、
「亜蓮!走りながら影武者は撃てるか?」
「お前は今まで何を見ていたんだ?今まで普通に撃っていただろ?」
亜蓮に戸惑った顔で答えられる。いや、、、まぁそうだな!これで作戦を察してくれ!森エリアはモンスターが強い。虫モンスターに囲まれて全員が状態異常でもかけられればいくら重光がいるとは言え対処が遅れてしまい防御一線だ。そうなってしまい敵が集まって来ればもう終わりだ。うーん、、、Cランクモンスター数匹なら狩れるかとも思うが問題なのは状態異常なのだ。敵では無い。
「行くぞ!」
「あ、おい!」
俺が鱗粉の方に駆け出すとみんなも駆け出す。いや、悪りぃな、、、俺の技範囲狭いんだわ、、、重光が魔法撃つのが良いんだろうけとタイムロスと機動力を求めるならこちらが上だ。そして、、、何より、、、
「内部圧縮属性付与風」
この技は近距離での威力は絶大だ!強烈な風が自分の正面で巻き起こり鱗粉を吹き飛ばす。それを見た亜蓮はハッとしたような表情をした。やっと気がついたか、、、?
「出来るか分からないが、、、影武者」
亜蓮は左右に俺達から標的を離す様にナイフをばらまく。うん、理解してるな、、、その瞬間周りのモンスター達が動き出す。それにしても亜蓮の最初の言葉、、、出来るか分からない?どう言う事だろうか?周りのモンスターの指向性を俺達から逸らして俺達は駆け抜けるだけ。簡単な事じゃ、、、
「グルルル!」
「なっ!」
何故だ!俺達が真ん中を駆け抜けていると横から三つの頭を持った熊が俺に向かって噛み付いて来た。トリニティベアか!?おかしい、、、亜蓮が影武者を放ったから敵の標的はナイフに切り替わる筈だ、、、
「無理だ。複数相手だと対象を絞りきれない」
亜蓮は周りに目を向けてからトリニティベアの額に向かって三本のナイフを投擲する。
「グルッ!」
トリニティベアはそれがどうした?とでも言わんばかりにナイフを噛み砕く。縄張りにあった爪の跡はコイツか、、、だけどまだ木を倒した張本人の姿はまだ無い。トリニティベアは力の強さや獰猛さからCランクモンスターに認定されている。添島ならタイマンでも十分倒せるだろうが中々の強敵だ。だけど群れを作らない為スパイラルホーンとかよりは難易度は低めである。相手が単体なら撒く事は容易だろうな、、、今のところ追いかけて来ている敵はトリニティベア一体のみだ。多分昨日から進んだ距離からもう少しで三十三階層は抜ける事が出来る。もう少しだ、、、すると俺達の退路にもトリニティベアの姿が見えた。だが、、、敵が単体なら話は違う。
「影武者」
亜蓮が二本ナイフを投げて後ろのトリニティベアと正面のトリニティベアを引き離す。ナイスだ。だけどお前マナ大丈夫か、、、?多少気の扱いが上がったとは言え元々五十回程しか撃て無いシャドウウォーリアを今回大量に使っており亜蓮の残りマナが心配だ。亜蓮カッコつけていつも大事な場面に限って使えないからな、、、だがその言葉は案の定フラグとなる。
(ギィィイ!)
どこかで木が倒れる音がした、、、そして、、、
「不味いな、、、退路を断たれた!」
目の前をビーバーダムの様に退路を塞がれてしまったのだ。何だ?そう思った瞬間だった。鳥の様な甲高い声が聞こえた瞬間兜を被っているのにもかかわらずそれを何かが貫通して俺の頬から血が流れたのだった。