寝言で寝言
およそ3週間前、国際線の機内にて。
マルコーニが眼を閉じたままつぶやく。「うーん、俺の知名度もついにインターナショナルレヴェルだねー。女の子がいっぱい。まるで日曜日のサン・ピエトロ広場がごとく!」
俺の隣に座る沖。「……何? 寝言なのか?」
俺。「二重の意味で」
マルコーニは幸せそうな声で。「君はどこからきたの? アルメニア。君は? ジブチ。そう。あ君はニカラグアなんだぁ」
沖。「全部馴染みねぇよ!」
「君はどこ? アメリカぁ? ちょっとそれどこの国だかわかんないなぁ」
沖は叫ぶように。「いや」
俺。「沖、待つんだ。お前のぞんざいなツッコミはボケの良さを殺す」
沖。「なんで今そんなこと言われなきゃいけないんだよ……こいつもう起こそうぜ」
俺。「駄目だ。こいつは起きていても面白いことはなんも言わない。だったら今の状態をキープし次の笑いを待つんだ」真摯。
沖はむこうをむいた。「くだらねえ。こいつのせいで寝られねえじゃん」
今は夜。オーストラリアに着くのは朝だった。
「つまんなくなったら叩き起こすよ」と俺は言った。
「ああもう囲まないでぇ、ちゃんと1列に並んでよぉ。あっちで整理券配ってるからさ……何何? 俺がどうしてこんなに背が高いのかって? 君に見つけてもらうためさ☆」
俺。「フッ殺すしかないようだな」
ウルグアイ戦の前日の朝。
俺は佐伯とマルコーニの部屋にいる。
ベッドのなかで眠ったままのマルコーニ。「マンマ? 僕だよぉ。ちゃんと試合観てくれてるぅ? 大活躍だったでしょう?」
俺。「器用な奴だ」
佐伯。「俺は耳栓が必要になってるけどな」
マルコーニは電話をかけているつもりらしい。寝返りをしながら。「もう僕がいなかったらまるで駄目な連中なんだよぉ。僕がいなかったらもう負けてるよぉ」
佐伯。「うざい」
俺。「ドーベルマンを何頭か用意しよう」
「毎試合僕が止めまくってるからね。DFなんていないのと一緒だよぉ」
俺。「あの2人に録音して聞かせてやりたいな」
「殺される」佐伯は言い切った。「速やかに殺される」
「早く日本に帰ってマンマのカツレツが食べたいよぉ」
俺。「いいなぁ。俺も帰ってママンのジビエ、テリーヌ、フリカッセ、ミガスなどが食べたい」
佐伯。「何1つ馴染みがないんだが……頼むからお前までボケるのやめてくれないか? ツッコミきれないから」
俺は小声で。「誰もツッコんでくれなんて頼んでないだろ。なんなのそれ? 無視すりゃいいじゃねえか」
佐伯。「なんで急にまともなこと言いだすんだよ!」
と、マルコーニのスマホから着信音。
眼を醒ましたマルコーニが電話にでる。
俺と佐伯は意味もなく背後に周りマルコーニから隠れる。
「あ、マンマ? ごめんごめん昨日電話し忘れちゃってぇ。体調はばっちりだから準決勝にもでられるよ。うん、うん。いやだからさ、何度も言ってるでしょう。僕がいなかったらまるで駄目な連中なんだよぉ。僕がいなかったらもう負けてるよぉ」