9 しゃくしゃくバタートースト
9 しゃくしゃくバタートースト
しばらくして曲淵さんはなでしこ荘を出て行った。大学近くのマンションに新居を構えたそうだ。曲淵さんがいなくなって随分寂しく……なる訳ないない。それまでも滅多に帰らない人だったし、休日は鉄道めぐりに血道上げてた人だったし……。でも、これから少しは家に居着くようになるんじゃないかしら? 奥さんもある程度の趣味は許す度量はあるらしいし。以前、離婚に至ってしまった決定的な理由は、あずさちゃんの幼稚園のおとうさん参観の日をすっかり忘れて、SL乗りに行ってしまったからだそうで……。それ以外では休日も奥さんと話し合って鉄道の日と家族サービスの日を決めていたそうだから。
そんなこんなで七月が終わり、八月に入った。実家のママからはいつごろ帰省するんだって矢の催促。パパが拗ねてしまって大変なんですって。
あぁ……家に帰ってダラダラもいいなぁ。
でも、その反面、帰りたくない気持ちもある。というか、なでしこ荘の居心地が良すぎて離れたくないの。毎日ごはんは美味しいし、梅のマンガの進捗を横で見ているのも楽しい。お手伝いする度に女子力が上がる気がして、それも毎日が楽しい理由かもしれない。
曲淵さんが出てひと部屋空き室ができてしまって、幸江さんは梅を誘ったんだけど、梅は例によって『ケッ!』で一蹴したみたい。そりゃね、今でも充分近い場所に住んでるし、実質ここの居候状態で、しかもごはんもしっかり食べてる現状じゃね……。そこんとこははっきりしなさい!って幸江ちゃんがピシッと言って、梅はちゃんと食費を納入することになったそう。それでも破格にお財布に優しい額らしいけど。堂々とごはんを食べに来られる立場になれてよかったね、梅。
そして、この夏一番になるだろう変化。
何と、空き部屋に聖羅ちゃんが入居することになりそう。聖羅ちゃん、今ではすっかり秋良くんのお料理にメロメロなの。しょっちゅう遊びに来てはごはんを一緒に食べてる。聖羅ちゃんもそこいらしっかりしてるので、秋良くんの家計簿から逆算した食費をちゃんと納めてるそう。半端な額の時はお土産を持参して物品納入になる。そんなこんなでこっちに来てる時に、幸江さんのお誘いを梅が蹴ったと聞いて、『じゃあ私がそこに入る!』ってなった次第。
そう、なでしこ荘に住むことになりそうなの。これまで、何となく二階が男部屋、三階が女部屋……みたいな区分けにいつの間にかなってたので、二階に聖羅ちゃんが入居していいものか? みたいな論議になりかけたけれどね。それも、秋良くんの
「でも、各部屋に鍵がついてるんだから、問題はないよね?」でおさまった。そりゃそうだわ。
で、今は入居前のリフォーム中。新学期になる前に聖羅ちゃんは引っ越し予定。あぁ、楽しみ!
……それも帰省したくない理由のひとつかもしれないわ。
あと、聖羅ちゃんが梅をどう思ってるかも気になる。結局、ひと目惚れは持続してるのかしら? 今ではすっかり顔なじみになって、楽しそうに話しているんだけど、これといって進展してるようにも見えず。どうなのかな? 梅がその気になるのを待ってるのかな?
そう聞いてみたら、反対に、
「春香こそ、秋良くんとは何にもないの?」などと聞かれてしまった。私が? 秋良くんと?
そんな、秋良くんとどうこうだなんて、秋良くんに悪いわ。恐れ多い。
彼はもう凄すぎて、私なんかが……釣り合う訳ないじゃない。それに、私にとって秋良くんは憧れの人なんだと思うわ。処世術のお手本、人付き合いのお手本、家事全般の目標。こんなレディになりたいという、具体的な生きる指針なのよ。
そう言ったら聖羅ちゃんも同意してくれたじゃない。
そう、ある意味、私は秋良くんに恋してるかもしれないわ。秋良くんが作るお料理に毎回お熱で、熱烈に恋してる。なでしこ荘のごはんは世界一だと思うもの。
だから……時々、秋良くんの傍でドキドキしてしまうのは、思いがけずに憧れの人の近づきになれてドキドキするのと同じようなものだと……。
お盆が近くなった。東京では七月にお盆するみたいだけど、実家は八月がお盆。お盆までには絶対に帰って来なさいってママの厳命が来て、さすがにグズグズするのは限界みたい。秋良くんに明日の朝帰省すると報告する。こっちに帰る日取りはまだ分からないけれど、どうせメールかラインで毎日やりとりするから、今とそんなに変わらないはず。
秋良くんは大きなお鍋でトウモロコシを茹でている。私はその背中をぼんやり見ている。
やっぱり、男性か女性か一見分からない。女っぽい訳じゃない。極端に細い訳でもない。ただ、身体のラインがとても綺麗。そして物腰が柔らかで上品。素敵だなって思うけれど、ドキドキもするけれど、でも、やっぱり憧れの気持ちが強い気がする。
「この時季は皆帰っちゃうからなぁ……。つい作り過ぎてしまって、往生するんだ」
秋良くんが笑う。茹ったトウモロコシをザルに上げて、お鍋をザッと洗う。その手は大きくて指が長くて、男の人の手をしてる。でも、ラインがとても綺麗。
「そんなに?」
「千秋さんと笹尾さんは今日の夕方帰るって。小雪さんは帰省はしないけれど、実験が大詰めで研究室に泊まり込みになるって」
「あぁ……じゃあ明日私が帰ったら、後は五条さんと梅くらい?」
秋良くんがプッとふく。
「梅、もうこっちにカウントなんだ」
「だって、いっつも……」
リビングの方に向き直ろうとして気付いた。そういえば、今日は梅が来てない。ずっと、あっちの隅を占拠して、何か描いていたのに。
「今日は持ち込みに行ってるみたいだよ。持ち込み……っていうのかな? もう担当さんはついているから、打ち合わせになるのかな?」
「あ、完成したんだ?」
「よく分からないけれど、担当さんがついたら、途中で見せてもいいらしいよ。途中のを見てもらって、もっとよくなるよう話し合うとか」
「へぇー、もっと自由に描いてるのかと思ってた」
「ほんとにね。結果、出るといいね」
「うん」
秋良くんがザルごとトウモロコシをテーブルの上にどんと置く。おやつにしては豪快過ぎる。
秋良くん、やっぱり端整で綺麗だわ。じっと見つめたままなだと変に思われるけれど、でも、目が離せない。こんな綺麗な顔立ちなのに、どうして周りはそれに気づかないんだろう? それとも、あまりに自然に綺麗なので、見過ごしちゃうのかしら?
「どしたの?」
「え?」
「今日はぼんやりしてるみたい……」
「そうかな? そうかも……それは……」
何かを言いかけてとまる。というか、何を言いたかったのかは自分でも分からない。
勝手に口ごもって、勝手に気不味くなってる。何なの私?
そこにバタバタと騒がしい音がして助かった。あの落ち着きのなさ、きっと梅だ。
「おいっ!」
バタンと開け放たれるドア。うん、まさしく梅。
「お、モモもいたのか! やったね、掲載!」
「えっ?」
「掲載って、デビューってこと?」
「いや、どうなんだ? 一応デビューになるんかな?」
梅はシャシャっとテーブルに寄って、サッとトウモロコシに手を出した。素早い。そして、手くらい洗えって……。
「秋の増刊号に載せてくれるってさ。それで評判が良ければ、本誌の読み切りに推薦してもらえるらしい」
もぎゅもぎゅと食べながらの説明なので、大変に分かりにくい。とりあえず、秋に出る雑誌に掲載なのは分かった。
「やったね、梅」
「おう、モモにも礼を言わないとな! お前がヒロインの服がダメだっつっただろ? あれで女物の服とか小物とか、あと髪? そういうのを頑張ったら、すごい高評価になってさ」
「あ、そうなんだ。やっぱりね、少年マンガでも、女の子は可愛い方が最強だよ」
「全くな! その結論にたどり着くまでが長い」
梅、にこにこしながらトウモロコシにかぶりついてる。こんな笑顔が出来る人だったんだ。しかめっ面ばかり見ていたからとても新鮮。そして、元がいい顔だけに、満面の笑顔になると、確かにインパクトある。
不意にあの日の広い背中を思い出してしまった。なんで? そして何故、顔が熱くなるの?
もしかして私、どっちも気になってるの?
どんだけ多情なの私!
どちらの顔も見られなくなって、はわはわと手元に視線を落とす。やだ、顔が赤いかもしれない。
秋良くんが冷たい麦茶をいれてくれた。梅がこれまた嬉しそうに手を伸ばす。
「よかったね、梅之助」
「おう、お前もありがとうな。こっちで描かせてもらって助かった」
互いに真っ直ぐ見詰め合う二人。これも絵になる。やだ、本当にドキドキしてきた。
…………?
秋良くんと梅の組み合わせでもドキドキって、それはもしかして小雪さんと同じ病?
もしかして、私、何でもいいの?
どちらも気になって、どちらと一緒にいてもドキドキするみたい。
「もしかしたら、このタイミングで帰省するのは正解かも」
「え?」
「は?」
しばらく離れたところで、頭を冷やしてよっく考えるべきかもしれない。
その日の晩、笹尾さんと千秋さんが帰って行った。夜行バスで笹尾さんが新潟。千秋さんが仙台。私は……明日朝の新幹線で、福岡。
なでしこ荘はしばらくの間ひっそりになる。私も帰省の荷作りをして、簡単に掃除して、冷蔵庫に飲みかけの飲料があったので処分。ひと通り片したら、結構な時間になってた。おやすみ言っておくかとリビングに下りると、梅がトレーサーで何か描いていた。それをやっぱり秋良くんがにこにこ見てる。舞ちゃんは……われ関せずとテレビ。人数は少し寂しいけれど、いつものなでしこ荘だわ。梅の傍、着かず離れずの距離のところに腰かけた。
「梅は帰らないの?」
「あん?」
「実家。……どこ?」
「んー……ヒミツだ」
「なんで?」
「ま、色々あるんだわ」
思わせぶりな言い方にちょっとイラっとしたけど。梅の場合、ふざけてるのかマジなのか不明なことも多いし。もしかしたら、本当に色々あってヒミツなのかもしれない。
「秋の号っていつ出るの?」
「十月」
「じゃあまだまだ先ね」
「先なもんか! 九月には締め切りだし、今から描き始めないと」
「あ、今からなんだ?」
「今日、見せたのはネームだよ、ネーム!」
「ネーム?」
それっきり梅は何も答えずに手元のノートを見始めた。秋良くんを見れば、秋良くんも肩をすくめて何だろうねって顔をする。
そっか、これから大変になるから、帰省するヒマなんかないってことか……。
うん、向こうから明太子でも贈ってあげようか。なでしこ荘宛てにしておけば、秋良くんがせっせと梅に食べさせてくれるでしょ。
「おい、秋良!」
いきなり梅が叫ぶ。
「腹減った! 何かないか?」
「えっ? この時間に?」
「だってお前、今夜のメシ、煮つけと野菜炒めだけだったじゃん!」
「おやつにトウモロコシ三本も食べるからだよ! さすがに控えめに作るだろ?」
「だから今になって腹が減ってるだろうがよ。何もないのか?」
「仕方ないなぁ……」
秋良くんがよっこらと立ち上がる。私も立ち上がってススッと近づく。
「無視していいんじゃないの?」
コソッと囁いたけれど、秋良くんはやっぱりにっこり笑うのだ。
「でも、実は僕も少しお腹減ってたんだ。春香ちゃんはどう?」
「……それは……まぁ、うん」
「じゃ、梅に便乗して、僕らも少しだけ」
秋良くんが戸棚から食パンの包みを取り出す。それ、明日の朝食用じゃなかった?
「何を作るの?」
答えは意外にもシンプル極まりないものだった。
「うん、バタートースト」
「え? バタートースト?」
「うん、それ」
「……バタートースト」
秋良くんにしてはかなり手抜きというか、工夫のしようがない献立というか……。バタートーストだったら、トースターで焼いてバターを塗るだけだわ。
「今、ちょっと落胆したろ?」
秋良くんがニヤリと笑う。……あれ? こんな笑顔も出来る人だったんだ?
冷蔵庫からバターを、戸棚からフライパンを。
「え? フライパン?」
「今までのトースト観をひっくり返すようなトーストをご馳走するね」
秋良くんの強気発言! そこまで言い切るなんて、どんなトーストになるの?
でも、いくら見ても、使うのはバターと食パンだけみたい。それに、テフロンのフライパン。それだけでトーストのイメージがひっくり返る?
秋良くんはバターをたっぷりめに一欠片切り出した。四角い塊りをフライパンの上に置き、コンロの火をつける。ごくごく弱火。バターがゆっくりゆっくり溶けるくらいの弱火。菜箸でバターを移動させ、食パンと同じくらいのサイズの四角に伸ばす。
「全体には伸ばさないのね?」
「うん、食パンサイズで」
ってことは、フライパンで焼く……文字通り焼くんだわ。
バターが溶けきって、細かい泡がじんわり立つようになってから、パンを一枚、バターの四角に合わせてそっと置く。しゅううとパンがバターを吸う。後は……ただ、待ってる。火は弱火のまま、ただひらすら待つ。二分……三分……。
「そろそろどうかな?」
秋良くんがそっと端を持ち上げて焼き色を見る。わぁ……食パン全面にバターが滲みて、綺麗な黄色になってる。そして、耳と真ん中辺りにうっすらと焦げ目。お、美味しそう。
「うん」
そのままひっくり返して、またしばし。また持ち上げて、焼き色を見る。真ん中にうっすらと焦げ目。再度ひっくり返して、またしばし。都合二回繰り返して、焦げ目がだんだん大きく、濃いめになって来る。真ん中に広がった焦げ目がキツネ色になったところで一枚目が焼けたみたい。キッチンペーパーを敷いたお皿に取って、まずは梅のところに運んだ。
「はい、梅。特製のバタートースト」
「ん?」
お皿の中を見て、梅が眉をひそめる。
「お前にしては随分と単純なものを作ったもんだな? バタートーストって……」
「感想は食べた後で言ってくれる?」
出た! 強気の秋良くん!
それに気圧されたのか、梅も素直にシャーペンを置いて皿を受け取る。挨拶のかわりのつもりなのか、こっくり頷いてからパンを持ち、ひと口…………。
「なんじゃこりゃ?」
さ、叫ぶほど美味しかったの?
え? バターと食パンだけだよ? 変わったことは何もしてないよ?
ただ、フライパンで焼いただけだよ?
激烈な反応に訳がわからなくなる。でも、梅の様子を見るに、劇的に美味しいものになっているみたい。実際、梅はあっという間にペロリと平らげてしまった。それどころか、次はないのかと、二枚目が焼けるのをそわそわ待ってる。二枚目は私の分だと思うんですけどー?
秋良くんはもう次にかかってて、パンにはうっすら焦げ目がついてる。
「やっぱり、すごく美味しいのね。梅、すっかりハマってる……」
「ふふふ」
秋良くんがすっごく嬉しそうに笑み崩れる。
「やっぱり美味しいんだ! 偶然、この焼き方を発見して、すっごく美味しいって思ったんだけどさ、誰に話しても、試す前に信じてくれなくて。材料が同じなのに、フライパンで焼くだけで美味しくなるなんておかしいって……。焼くのに時間がかかるから、朝食で出す訳にも行かないし、いい機会だったんだ」
ウキウキと話す様子が本当に本当に楽しそう。パタンパタンとひっくり返して、いい色の焦げ目になって、二枚目焼き上がり。これもキッチンペーパーに取って、くるんと巻いて、私に差し出してくれた。
「はい、召し上がれ」
「ありがとう、いただきます」
気配だけで分かる熱さ。やけどしないよう注意してふーふーと息をかけてから、端をひと口。
………………しゃくり。
何? この感触。今の噛み応え、何? しゃくって言った、しゃくって言った、今!
どう表せばいいのかしら?
普通の美味しいトーストを噛んだ時の音がサクッだとするでしょ? このトーストに歯を立てた時の音はしゃくっなの! しゃくっ!
カリカリになった焦げ目が、カリカリだけどごくごく薄い層になった焦げ目が、しゃくって感触を生んでるんだと思うの。そのしゃくっ体験の後で、パンに滲みたバターがジュワッなの! ジュワッ! ……で、その下に、ほわほわ度が増したふわんふわんのお餅みたいなパンが! パン生地が! 秋良くんの予言は本当だったわ。こんなトースト、初めてだわ!
これを知ってしまったら、普通のトーストには戻れない気がする。……この際、焼く前に引いたバターの量は気にしないことにするわ。このバタートーストの悦楽のためなら、他のお菓子はガマンする。そのくらい心と理性をとろかす魔のトーストだわ。
秋良くんが三枚目を……焼き上げたところで梅が襲いかかろうとしてる。秋良くんも人がいいから、半分に切って渡して……もぉ! いや、でも、梅の気持ちも分かるわ。これは……これは! もう一枚食べたい。理性が……理性がぁ……!
結局、食べました。舞ちゃんも乱入して、四人で一斤分、六枚の食パンを貪り食べてしまいました……。でも、後悔はしない。やっぱり、秋良くんの料理は最高!
このバタートースト、作る手順もつぶさに見ていたし、家に帰ったらパパに焼いてあげよう。きっと、私の料理の上達っぷりに感激するに違いないわ。他にも、みじん切りが劇的に上手くなったし、千切りも上手くなったし、乱切りだって……。
秋良くんの補佐だから、野菜を切るのばっかり上手くなっちゃって。でも、これだってママは感動してくれると思う。
翌朝、早めに家を出るから……音を立てないようこっそり玄関に回ったら、秋良くんはもう起きてた。
「おはよう」
「あ、おはよう! 起きてたんだ?」
「うん。見送りがないのは寂しいかと思って。それと、これ」
可愛い柄のハンカチで包んだものを渡してくれる。
「ゆうべやらかしちゃったから、朝は食欲ないかと思って。新幹線で食べて」
「ありがとう。今、見てもいい?」
「だめ」
秋良くんが笑う。
「お昼、お腹が空くまで見ちゃだめ」
「…………分かった。努力する」
荷物の一番上に入れて、さて、出掛けますか。
「梅によろしく! お盆終わったらすぐ帰って来るから……あと……」
玄関の戸を開ける。暑いことは暑いけれど、まだ日が昇って間がない分、夜の涼しさが微かに漂っている。
「ありがとう、大好きよ」
「え?」
秋良くん、よく分かってない顔をしている。うん、そうだろうと思ってました。今はまだ、繰り返す度胸がないから、それはあっちで鍛えよう。聖羅ちゃんみたいに、ひと目惚れと言い放てるくらいになれればいいな。
「行ってきまーす!」
お昼近く、関ヶ原に差し掛かった辺りで包みを開けた。ハンカチの下にもう一枚、竹の皮の包みがあって、それを開くと……。
「うわぁ……」
大きな、すごく大きな三角のおにぎりが二つ、どーんとある。それに、例のお醤油を塗った茹で玉子。
これが秋良くんちのおにぎりなのね!
「いっただっきまーす」
パンッと勢いよく手を合わせて、ガブリと齧りついた。
(了)
書き終えた時はこれでちゃんと終わらせられたつもりになっていましたが、少し間を置いてから読み返すと、確かに『え? ここで終わり?』という中途半端感がありました。
批評の物足りなさは本当にその通りですw
もう少し粘って、最低でも、春香の気持ちがちゃんと固まるまでは続けるべきだったかもしれません。
脳内では続きのあれこれが色々あって、次の春までの物語は出来ているのでいつか描くかもしれません。
感想などいただけたら幸いです。