358.二種類のフレンチトースト
「――フレンチトーストでございます」
焼き上がったそれを皿に盛り、ペシェル――桃に似た果実を添える。
さらに、ふわりとホイップクリームをのせ、ベリーソースをとろりとかける。
最後に、鮮やかなミントをひと葉。
それだけで、まるで一皿の芸術のように華やかに仕上がっていた。
「これが……フレンチトースト?」
「前回いただいたものとは、違いますね?」
ヴィオレッタ様とフレイヤ様が顔を見合わせ、小さく首を傾げる。
「前回のフレンチトーストは、チーズとベーコンを使った――食事向けの甘さ控えめのものでした。
今回は先に軽食をご用意しておりましたので」
私は、出来上がった皿へと視線を向ける。
「デザートとして楽しめる、甘い仕立てにしてみました」
「なるほど」
ヴィオレッタ様が納得したように頷く。
「前回とは、趣が異なりますのね」
「はい。同じ料理でも、使う食材や味付けによって、まったく別の一皿になるんです」
「面白いです!」
フレイヤ様も、感心したように頷いた。
――その横で。
「え、ちょっと待ってほしいっす」
テリルさんが、ぴしっと手を挙げる。
「前回のって、そんなに違うんすか?」
真剣な顔で問いかけてくる。
「はい。前回はチーズとベーコンを使った、食事向けのフレンチトーストでした」
「チーズと……ベーコン……」
テリルさんの耳が、ぴくりと動く。
「なにそれ、絶対うまいやつじゃないっすか……!」
「ええ、とても美味しかったですわ」
ヴィオレッタ様が、優雅に微笑む。
「甘さは控えめで、塩気とのバランスが絶妙でした」
「外はこんがり、中はふんわりで……とても印象に残っています」
フレイヤ様も続ける。
その言葉を聞くたびに、テリルさんの目がみるみる輝いていく。
「……食べたいっす」
ぽつりと漏れた本音に、思わず笑みがこぼれた。
私はオリバーへと視線を向ける。
「よろしければ、ベーコンとチーズのものもお作りしましょうか?」
「ぜひっ!!」
食い気味に返ってきた声に、場にくすりと笑いが広がる。
「即答だな」
ヴェルドさんが呆れたように言う。
「だって気になるじゃないっすか!
同じ料理でそんなに違うなら、両方食べないと損っす!」
力強く言い返すテリルさん。
「……いいんすか、ヴェルドさんは……」
ニヤリと、不敵に笑う。
「ベーコンとチーズのフレンチトーストはいらないんすね?」
「!!」
目を見開き、ヴェルドさんの尻尾がびくりと揺れた。
対照的に、シルヴィア様は楽しそうに微笑む。
「ふふ……確かに、その通りですわね。せっかくの機会ですもの」
「私も、ぜひベーコンとチーズのものをいただいてみたいです」
エステルさんも、穏やかに言葉を添える。
「ですわよね!
贅沢な悩みですが……たくさん食べたいものがあって、困ってしまいますわ」
シルヴィア様は頬に手を当て、小さくため息をついた。
……うん、ビュッフェとかでよくある悩みよね。
あれもこれも食べたくなって、結局選べなくなるやつ。
「でしたら、シルヴィア様たちは一つをシェアなさってはいかがでしょうか?
もしお気に召しましたら、また追加でご用意いたしますので」
私の提案に、シルヴィア様は金色の瞳をぱっと輝かせ、耳をぴんと立てた。
「そんなこと……可能なのですか!」
「ええ、もちろんです」
私はオリバーに目配せをする。
彼は静かに一礼した。
「かしこまりました」
すぐさま手元の材料を整え、今度は別の準備に取りかかる。
刻まれたベーコン。
とろりと溶けそうなチーズ。
じゅう、と脂が弾ける音が立つ。
先ほどとは異なる――
どこか食欲を直接刺激する香りが、ゆっくりと広がっていく。
「……なんか、さっきと香りが違うっす」
テリルさんが、そわそわと落ち着かない様子で言った。
「甘いのも良かったっすけど……これはこれで、ヤバそうっす……!」
「同じ料理でも、まったく別の楽しみ方があるのですね」
ヴィオレッタ様が、感心したように呟く。
鉄板の上では、新たなフレンチトーストが形を変え始めていた。
甘やかな一皿の余韻を残しながら――今度は、食欲を刺激するもう一つの一皿へと。




