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王道悪役令嬢は、呼び出される

 飛び抜けた格好ってなんだよ。どんなん想像してたんだ。

 素で失礼なことを言う。

 普通に普通の女ではないと思うのだが。侯爵令嬢、マドレーヌは、自分で言うのも何だけど、十分に美少女だ。


 ざわつく教室内。そりゃそうだろう、侯爵令嬢兼女神後継者候補にこんな口を効くのだから。


 ーーこれだから、平民の息子は。

 ーーどんな豪商だからって知らないけど、品格がないわよね。

 ーー剣は強くても、あれじゃあな。


 うんぬんかん。

 様々な声が漏れ聞こえているが、当の本人は聞こえているのかいないのか、こちらを見たまま、気にする様子がない。


 本来のマドレーヌなら、ここで、なんて失礼な! と、怒り狂って、怒鳴り散らしていたことだろう。

 だけど、今となってはそんな気は起こらない。だって疲れるし。気力使いたくないし。面倒くさいし。


 黙り込む私に、セイロンはハッとした表情を浮かべる。


 「ああ、やべぇ、俺またやっちまったか?いやぁ、親父からくれぐれも言葉使いには気をつけろって言われててさ、いや、ゴメン!失礼なこと言ってたら、この通り、謝るからさ!」


 と、目の前で両手を合わせて拝んでくる。


 「は、はぁ、まぁ…」


 何と返して良いか分からずにいると、教室の扉がすっと音もなく開いた。


 「マドレーヌ=ホップ=アッサム、それから、シフォン=キャンディース、こちらへ来なさい」

 「!?」


 ……忘れてた。ヒロインの存在。いや、忘れていたワケではないけれど、ヒロインが誰ルートを選ぼうが、私が最終試験に落ちれば全て解決と思っていただけに、あまり念頭になかった。


 「私…ですか?」


 とまどったように立ち上がったのは、デフォルト名、シフォン=キャンディーヌ。その名の通り、一言で言うと、ふっわふわ、だ。金色の髪もふっわふわか、雰囲気もふわっふわ、服装は制服と皆と々はずなのに、なぜかそれさえ、ふっわふわに見えるから不思議だ。


 「とりあえず私、呼び出されたみたいですので、行って参りますね、セイロン様」


 にこりと笑うと、セイロンはぽかんと口を開ける。


 「お前、俺のこと知ってんの?」

 「え、あ!!」


 しまった。まだ名乗ってもらってなかった。

 「えへ!あは、ほほほほほ!!」


 こういう時は笑って誤魔化せ。これもひとつの処世術。

 私は急いで呼びに来た教師のもとについて別室へと移動した。

 ああ、気疲れする。別室までの移動さえ面倒臭い。




 通されたのは、学園長室だった。大きな窓を背後に、立派なマホガニー調のデスクを前に座るのが、学園長。

 そうして、学園長の威厳なんぞなんのその、強烈な存在感で私たちの前に仁王立ちするのがーー


 ーーはい、出ました。隠しキャラのガトー先生。

 

 先生は、“豊穣の女神”を導き、判定する特任の先生という設定。が、その実は、現国王の弟で、国の裏方ーー諜報活動を行う特務任務隊の隊長を担っている。


 かなりの長身で、おそらく王子よりも高いだろう。一見、かなり怖い先生だ。実際目の前にすると眼力だけで射殺せるんじゃないかと錯覚する。薄いグレイ色の瞳に金色のモノクルをかけ、厳しい表情で私たちをみている。黒く長い髪は先の方で結い、何だか武器にもなりそう。


 「私の名前は、ガトー=ダージリン。この学園の教師だ。

 今回“豊穣の女神”後継者候補、専任担当を仰せつかった。二人にはこれから3年間、女神の後継者候補として過ごしてもらい、卒業式の日に選定試験を受けてもらう」


 うーん。またもや美声。


 思わず聞き入る私の横で、ヒロインが、え!?と驚きの声をあげた。


 「あ、あの、“豊穣の女神”後継者候補は、こちらにおられる、マドレーヌ=ホップ=アッサムさまだけ……なのでは?」

 「なに?君は何も聞いていないのか?」


 綺麗な眉をぴくりとあげ、


 「シフォン=キャンディーヌ、君も“豊穣の女神”の後継者候補者だ」

 「そ、そんな!何も聞いていません。そんな、私がなんて、ありえません!」


 そういえば、そんな設定だったっけ。


 このイベントは、言わば必須イベントだ。1回見たイベントはスキップで飛ばせるっていう機能があったから、それ使ってあとはサクサクっとクリアしたのよね。

 

 「これは嘘ではない。私は嘘は嫌いだし、冗談を言う趣味もない。

 君は確か『光』属性だったな。『光』属性は、君を合わせて、現在この国に3人しかいない。そこに“豊穣の女神”としての素質が見いだされたのだろう」


 「まさか……」

 

 思い出してきた。そういえば、こういう場面のスチル見た見た。


 驚き言葉も無くすヒロイン、シフォンの側で、これまた驚き、悔しそうに彼女を睨みつける、ライバルのマドレーヌ。

 ということは、私もやっぱり睨んだ方が良いのだろうか。


 ……面倒臭いし、いっか。


 「……マドレーヌ=ホップ=アッサム、君は何も言わないのだな」

 「へ?」


 侯爵令嬢とは思えない、思わず間抜けな声を出してしまった。


 「いや、君は幼い頃より後継者候補とて、“豊穣の女神”としての心構えや教育を受けてきたはずだ。

 それがここへきていきなりもう一人の候補が現れたのだ。何かしら反論があっても良いと思っていたのだが……」


 確かに物心ついた時から、両親に「あなたは将来、この世界に平和をもたらす女神になるのよ」たら何たら言われて育ったし、実際そのつもりでもいた。そのための特別な教育も受けてきた。

 それがいきなり素性も知れない娘に横取りされるかもしれないのだ。今まで信じて進んできた道をスパッと一刀両断されるようなものだろう。とはいえ、


 「……まぁ、人生なんてこんなモンですから」

 「そ、そうか」


 だてに、30年+15年生きてきたわけではない。時として、人生諦めも必要なのだ。

 第一、エネルギーの無駄遣いするのも、面倒だし。

 頷く私になぜかガトー先生は、ちょっと引き気味にそう言って頷いた。


 「まぁ、良いだろう。

 では2人とも、放課後、またここへ来なさい。試験について詳細な説明をする」


 私たちは軽く一礼し、学園長室を出て行った。




 学園長ってなんなんだろう。飾り?ちょこちょこ物語には出てきたけど、いっそモブキャラよね。

 などと思いながら教室へ戻るべく歩いていると、声をかけられる。


 「あ、あの!」


 我らがヒロイン、シフォンである。


 「はい?」

 「あ、あの、ホップ=アッサム様は今の話……その、なんとも思ってらっしゃらないのですか?」

 「あなたが候補にあがったっていうお話のこと?」

 「そ、そうです!わ、私は下町の、平民の娘で、両親で小さな雑貨屋をやっています」

 「あ、そうなんだ。そんな設定あったんだ」

 「え?せ、せってい…?」

 「ああ、いやいや! こっちのこと。気になさらないで」


 ほほほと、いつもの令嬢スマイルでやりすごす。


 いかんいかん。思わず素が出てしまった。


 「私はその、生まれてすぐに魔力があると認められたそうですが、だからといって特に何の教育も受けずにここまで育ってきました。 本当はこんな学園来たくなかったけれど、でも将来魔術師になったら、両親にラクをさせてあげられるって思って…。

 学園になじめるかってそれだけでも不安なのに、“豊穣の女神”の後継者候補って、もうどうして良いか…」

 そう言っていきなり涙ぐむ。


 ……うーん、そっち方向できたか。


 というのも、ヒロインには、ここで選択肢が用意されているのである。

 ライバルたる私、マドレーヌに「不安であることを相談する」もしくは「控えめながらお互い頑張りましょうと言う」。このどちらの選択肢を選ぶかによって、ああ、ほら来た来た。


 「あの、新入生さん……ですよね? どうされたんですか?道に迷われましたか?」


 やってきたのは、最後の攻略対象者、スフレ=プディング君。


 大きな丸い眼鏡と、その小さい体には明らかに合っていない大きめサイズの制服を来ている、現魔術師長の息子。

 鶯色の前髪が目にかかり、若干鬱陶しそうである。手には分厚い本。いかにも勉強できます、年下弟キャラであるが、1年先輩である。ちなみに彼も色々と設定があるのだが、他のキャラ同様、割愛。


 「あ、いえ。大丈夫ですわ。教室までの道は熟知しております」


 無駄に広い校舎である。だが、幸いにして私は方向音痴ではなかった。


 「行きましょう、キャンディーヌさん」


 彼女の手を掴み、歩き出す。少し驚いたような表情を見せるシフォンをよそに、私は教室まで急いだ。


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