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そのじゅうよん お兄ちゃんと、お別れ



「……ぐす! 

…………今の伊吹の気持ちは、薄々わかってた!

だから言わないで欲しかった! 

だって私は、今じゃなく、未来のために動いてるんだから!」


「奈芝美ちゃん……」


「伊吹は、そう言って私を止めようとしてるみたいだけれど

私は知っている。 伊吹は、もし私が転生したら

絶対に責任を感じるはずだ。 そして悩む。

いくら今は突き放した言い方してても、そうなるのはわかってる。

だって伊吹は――やさしいからっ!」


「奈芝美……」

「奈芝美ちゃん……」


「言ったはずだよ! あやめちゃん!

対等に張り合って勝つつもりは無いって!」


「……っ!」


奈芝美ちゃんはお兄ちゃんの優しさにつけ込もうとしてる。

手段はけっして綺麗なものでもなく、褒められたものでもない。

けれど、可能性があるのは確かだ。

なりふりなんか、構ってられないのだろう。

そこまでしてでも、彼女は食い下がろうとしている。


だって彼女は、命すら賭けようとしてるのだから。


彼女は、滑り台を滑っている。

それは自分自身でも自覚していることなんだろうと思う。

けれども、それでも懸命に両手両足を使い、強引に急ブレーキをかけ、

そこから歯を食いしばり全力でよじ登ろうとしている。


なんというメンタル。


きっと、だからこそ今までバドミントンでも数々の逆転劇を繰り広げ

県下に名を轟かせる存在にまでなり得たんだろう。


そう考えると

彼女を止める手段なんてあるのだろうか?


お兄ちゃんの言葉は

確かに彼女には届いてるのかもしれない。


けれど、現状彼女の抗う手段がこれしかないのであれば、

きっと彼女は最後まで愚直に抵抗し続けるのだろう。


もしも、対等に奪い合う立場なんだったら

こんなこと私も許しはしないだろう。

きっと闘士を燃やし、貴女なんかにお兄はやれない! と

張り合うことだろう。



だけど、私は……


もう、決心してしまったんだ。


だったら、

私の取るべき手段は……



「奈芝美ちゃん! いや、この際お兄にもはっきり言っておきます!」


「あやめ?」

「あやめちゃん?」


すう~っとひと呼吸置いて、一気に言い放った。



「あたし、音小野彩芽(おとこのあやめ)は……今のお兄に……


恋愛感情は、一切! 持って無いです!」



「「!!」」


「今、ここで宣言します! 

だって、女の子同士なんだもん! 

どう見ても可愛い妹にしか思えないよ!

お兄との約束は、あくまでも男女間での約束だったから!

世の中には同性婚というものもあるらしいけど

残念ながらあたしにその趣味はありません!

お兄も、あたしも女の子なんだから

もうあの約束は無効ということで、いいんじゃないかな!?」


「ちょ! ま! ……あ、あやめっ!?」


「だから、あたしは身を引くので

奈芝美ちゃんは一度落ち着いて、

ゆっくり考え直してください。

こんな無謀な賭け、する必要はないんだよ!」


「あ、あやめちゃん……」


「お兄も、冷静に今の自分の立ち位置をもう一度よく考えてみて!

もう昔にこだわる必要はないんだよ!

生まれ変わったんだから!

お兄の人生は、これから、女の子として新しく始まるんだから!」


これで、どうだ?

私の切り札。


一応、筋は通ってると思う。

今、この場を収めるのに必要なカード。

奈芝美ちゃんが性急に飛び降りようとしている理由。

それは、私という存在と、お兄ちゃんの気持ちだ。


私に同性愛の気が無いことを示し、身を引く。

お兄ちゃんに、改めて女の子になったことを自覚してもらい

約束の無効を訴える。


これで彼女の憂いは取り除けるはず。


焦ってまで今やることじゃないって、冷静になってくれる筈だ。



「…………っ! 

……だったら!」


「「!!」」


お、お兄ちゃん!?


「だったら、なんで、なんでオレには生前の記憶が残っているんだよ!?

本当に人生をやり直すなら、記憶なんて要らないだろうが!」


「そ、それは……っ!

か、過去の……お、同じ過ちを繰り返さないように……とか?

だって記憶まで無くなったら、転生というよりも

もうそれは自分の子供と同じになっちゃうじゃん!

きっと今度の人生は上手く立ち回れるようにって、そうなっているんだよっ」


「……あやめを、選ぶことが過ちだったとでも言うつもりなのか!?」


「っ!!」


「お前を、護った事も……?」


「~~~っ」


「オレは、全てがとは言わないが

間違って生きてきたなんて思わないし、思いたくもない!

結果的に悪い方に行くこともあったが

常に後悔しない生き方を選んできたつもりだ。

オレは、あやめ……お前のことを」


「運がっ! 運が……悪かったんだよ! 巡り合わせも……きっと!

だから、お兄は、また始めからやりなおしたら……いい。

今度は、上手くやれるよう、あたしも陰ながら応援、するから!」


「なら! もう一度……いや、何度だって、オレはっ!」


「!」


だ、駄目だよ! お兄ちゃん!

それ以上、言わないで!

私は、もう、決めたんだから!

お兄ちゃんを、縛りたくないから!

お兄ちゃんには、幸せになって欲しいから!



「伊吹っ! いぶきいいいぃーーっ!!」



「「!!」」


「……やっぱり、落ち着いて考えるなんて、できない!

できないよ! あやめちゃんっ!」


「な、奈芝美……ちゃん?」


「今のままの私じゃ、どうあがいても貴女に勝ち目なんて、ないんだよ!

だから、やっぱり、この命を賭けるしか……」


「ま、待って! まだ話は終わってないから!」


「これ以上、あなた達の話を聞いてられないから!

もう、我慢できない!

伊吹…………私が、ちゃんと男の子になれたら、その時は……

僕(・)を、全部あげよう!」


「奈芝美っ!」


決意が固まったのか

彼女の目の色が変わる。


「だ、だめっ! 奈芝美ちゃ!」




「――――ラヴ・ファ○トム!」




彼女は謎な掛け声と共に鉄塔の頂上からダイブした。



くっ!



「さ・せ・る・か・あああああーーっっ!!」



がしいっ!!



「「!!??」」



瞬間、ものすごい衝撃が私の両腕に走った。


直上でほぼ落下加速はしてなかったとはいえ

飛び降りた人間の脚を片手一本で掴まえたのだ。


腕がちぎれるかと思った。

だけど、なんとかキャッチに成功した。


「あ、あやめ……ちゃん?」


「……っ! 奈芝美ちゃん! 奈芝美ちゃんは考えが浅はか過ぎるよ!

もしも失敗したときのことも考えて!

あなたは死んでハイサヨナラで終わりかもしれない!

だけど、お兄は”それ”をトラウマとして

ずっと抱え込んで生きていかなきゃならなくなるんだよっ!」


「……! べ、べつにサヨナラする気なんて……」


「だったら! もう少し考えなさいよ!

万一にでもそうなったら、あたしは、そんなの許せない!

自分だけ好き勝手やりたいようにやって、

勝手に自己完結して満足して終わって

まるで呪いのように一生お兄の心に刻み込んで住み着こうとするなんて……

そんなの、ぜったい! ぜったい!

あたしは……死んでも、許さないんだからあーーーっ!!」


「……あ、うっ!」


も、もう……腕が痺れて……保たない……っ!


「は、はやくっ! 鉄塔のどこでもいいからっ!

はやく、手を、掴めえーーっ!」



バキッ!



…………あっ……!



「掴んだ! 掴んだよあやめちゃんっ!

ごめん、わたしが悪かっ……!!」


腕もとうに限界だったが

それよりも僅かに、掴んでいた鉄骨の方が保たなかった。

腐食の進んだ鉄骨に亀裂が入っていたのだろう。



私は、為す術もなく空中に放り出された。



これは……流石に、もう――駄目だ。



たぶん、私は半笑いの表情で、一言だけを言い残す。



「…………お兄を、よろしく……ね……」



「あっ! あやめちゃ!!」



まるで時間の流れが変わったかのように

ゆっくりと、けれども確実に落下の加速が開始されていった。


ああ、よくよく考えたらこれで問題は解決するじゃん


私さえ、いなくなったらお兄ちゃんの足枷はもう無くなる。


これでいい。


これで、いいんだ。


最後に


目に焼き付けようと

地上のお兄ちゃんの姿を、見た。


当然だけど、凄くびっくりしてる顔してるね。

だけどもう、どうにもならないんだよ。 ごめんね。


笑顔で別れようと、頑張ってはみたけれど



――やっぱり、駄目だった。



たぶん、私は今すごく変な顔をしてると思う。


子供の頃はよく見せてた歪んだ顔


最近じゃ、滅多に見せなくなっていたのになあ……



さよなら――――お兄ちゃん。



大好きでした。




























やだよ。



やっぱり、嫌だよ……!



だって、これで、こんなんでお兄ちゃんと永遠にお別れなんだよ……



十数年、胸に秘めた想いが



封印するつもりでいた、この恋心が



相思相愛って、やっとわかったのに



こんなのって、ないよ!



理屈じゃない。



私は、やっぱり、お兄ちゃんと



ずっと、えいえんに、いっしょに!





いっしょに、いたいんだ!!






「お…………おにいちゃああああああああああああんんんんっっっ!!!!!」



「あ、あやめえええええええーーーっっっっ!!!」




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[一言] だめだこやつら……まるで暴走が止まっていない……
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