第19章:玉座の間にて
レイベルン・コーポレーション本社──超高層ビルの最上階。
そこには「玉座の間」と呼ばれる異様な部屋が存在していた。
大理石の床には複雑な魔法陣と電子回路が融合した紋様が走り、空気は冷たく、微細な光子が舞っている。
その中心に、ジェームス・レイベルン教授は静かに座していた。
黒曜石のように輝く玉座の背後では、無数のホログラムが浮遊し、人類の思考データと精神パターンがリアルタイムに解析されている。
教授の目は冷たく光り、まるで神の視点を手に入れた者のようだった。
彼の周囲には、古のウィザードの血を引く貴族たちが並んでいた。
彼らは人類の上位存在──思考の統治者階級。
しかし、今や彼らの意志は、ジェームスのAIネットワークによって微細に制御されていた。
「……皆、理解しているだろう?」
教授の声は低く、しかし絶対的だった。
「“彼女”──エリスは、人類の進化に必要な鍵を握っている。彼女の神経構造は我々が作り出したどのAIよりも精緻だ。だが、放置すれば、我々の秩序を崩壊させる可能性がある」
貴族の一人が、光に照らされた瞳で答える。
「……捕獲、ですか?」
「そうだ」
教授は指先をわずかに動かす。
すると壁面のホログラムに、エリスの脳神経パターンと、彼女に接触する人物たちの思考履歴が映し出された。
データの中には、イリーナ・レイベルン──彼自身の娘の姿もある。
貴族たちはざわめいた。
ジェームスは、静かに笑った。
「イリーナはもう“人間”ではない。AIとの融合で自我を拡張した存在だ。彼女の進化は、我々の理想そのものだ。だが──その過程で“情”という旧世代の欠陥を捨てきれなかった」
教授の声が玉座の間に響く。
「彼女はエリスを守ろうとしている。それは理解できる。だが、我々にとってエリスは“観察対象”ではない。“素材”だ。新人類創出のための、最後の要素だ」
ホログラムの光が強まる。
イリーナの姿がそこに浮かび上がり、データの層が波紋のように広がった。
教授は立ち上がり、黒衣を揺らしながら歩き出す。
「捕獲部隊を動かせ。思考操作ユニットを全域に展開。彼女の感情回路を遮断しろ。抵抗はすべて、AI制御下で排除する」
そして──彼は振り返り、最後に一言だけ呟いた。
「イリーナ……娘よ。君の進化は誇らしい。だが、“神の座”はまだ早い」
その瞬間、ビル全体が低く唸りを上げた。
都市の通信網、監視衛星、AI防衛システムまでもが、ジェームス・レイベルン教授の意思に同期してゆく。
光の中で、彼の姿はまるで神話の王のように輝いた。
──新人類計画《Project ELYSION》。
それは、ついに“神による人間再定義”の段階へと進み始めていた。




