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デニッシュたちは先に馬車に乗せて家へと帰した。
公爵令嬢になって早々こんな問題を起こしたとなれば、ジョゼフ公爵からとんでもない罰を与えられるに違いない。
俺たちは神父やシスターたちを捕らえて、教会の中で衛兵たちが来るのを待機することにした。
俺たち以外にも二人従者を連れてきた。一人は衛兵を呼びに、一人は教会の子どもたちの相手をさせた。
長い椅子にライルを寝かせて、近くにあった毛布を掛ける。酷い傷跡が沢山あった。……デニッシュもこの傷を負ったのか。
それにあんな小さな子どもまで……。
視線を子どもたちのいる方へと向ける。従者の一人が子どもたちと関わろうとしていたが、子どもたちはどこか怯えていた。
警戒しながらも、軽く会話をする程度だ。
きっと俺達がこの悲惨な環境から救いに来てくれた英雄たちか、それとも神父たちよりももっと酷いことをする大人たちなのかを見極めているのだろう。
「酷いもんだな」
そんな言葉しか出てこなかった。
ポガリット教会についてなにも知らなかった。街のことに関しては常に色々と調べているが、ポガリット教会は至って普通の教会だった。
この教会について詳しく知ろうなど思ったことはなかった。それよりももっと解決しなければならないことがこの街には沢山ある。
だから、今回のこの教会の実態には驚かされた。
……デニッシュがポガリット教会出身だと分かった瞬間、教会のことを洗いざらい調べた。
少し調べただけで、良い教会でないことはすぐに分かった。
調べれば調べるほど、とんでもない極悪教会だという情報が出てきた。俺たちが調べたことなど、まだ表面的なことに過ぎない。
ここで過ごした者たちにとってはここは地獄以外のなにものでもなかっただろう。
「まさかここまでとは想像していませんでした。……あの神父にはそれ相応の罪を償ってもらいましょう」
ハリーの言葉を聞きながら、俺はデニッシュのことを考えていた。
彼女はあの瞬間、確かに神父に対して何らかの攻撃をしていた。……それにあの髪色と瞳。
気のせいだと言われたが、明らかに色が変わっていた。俺は確かに見た。
……一瞬だけだったが、微かに色が変わっていた。
あんな人間離れした力を使える者などいるはずない。……魔法などおとぎ話の世界だ。
「あいつは……、何者だ?」
「……デニッシュ・クロワッサン、未だに謎に包まれています。ただ、彼女、魔法が使えるのでは?」
ハリーは眉をひそめながら静かにそう言った。
信じたくないが、あの状況見たからには魔法という存在を信じずにはいられない。
それぐらい俺たちには衝撃的な出来事だった。
「そんな平民がいてたまるか」
「明らかに出自がおかしいじゃないですか、彼女」
「あ、の……」
俺達の会話に弱々しい中性的な声が入り込んできた。




