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 コンペ形式でタケミなるイラストレーターを含む3人に依頼をかけた。


 タケミのクオリティはダントツ。それに加えて、一式を揃えるための費用も他の人に比べて安いので即決だった。


 里英は単にSNSで見かけて好きな絵柄だったから声を掛けたと言っていたので、アンテナはどこに張っていても損はないらしい。


 今日は早速初回の打ち合わせだ。


 オンラインでやれば良いのだが、タケミの都合で俺と里英はファミレスに呼び出された。


 ボックス席の目の前にはショートボブにレンズの大きな細縁眼鏡をかけたお姉さんが座っている。この人がタケミらしいのだが、さっきからドリンクバーとサラダバーと席を往復するばかりで一向に話が進まない。


「よく食べるんですね……」


 俺がそう言うとタケミがサラダを野菜ジュースで流し込んでこちらを見てくる。


「ん? 今日はキミ達が奢ってくれるんだろう? このところ切り詰めていて炭水化物しか取ってないんだよ。せっかくだし、食べなきゃ損だからね」


「食べ放題なんてどう頑張っても原価に届かないように設計されているんですから、程々にしておいてくださいよ」


「私の辞書に程々なんて言葉は無いんだよ」


 タケミはそう言ってまたサラダバーの皿を持って立ち上がる。


 確かに絵のクオリティに妥協はなかった。それは素人の俺でもわかるほどだった。だから、何事にも程々がないのが彼女の信条ではあるのだろうけど、クライアントの前でやることではないし、そもそも奢りだなんて一言も言っていない。


「ちょ……ちょっと変な人だったかな? 美人だけど……残念美人?」


 里英がそう耳打ちしてくる。


 里英とタケミは前から交流があった訳でもないのでこれが初対面だ。まさかサラダバーを初対面の高校生に奢らせた上、仕事の話もせずにひたすらサラダを食べ続ける人だとは思わなかっただろうし、俺もそこまでは読めなかった。


「まぁ……満足したら話せるだろ」


 少しすると、大量のレタスを皿に載せてタケミが戻ってきた。


「いやぁ……玉ねぎがなくなっていたよ。最近高いから食べたかったんだが……皆考えることは同じなんだねぇ」


「この路地を行った三区画先のベニマルスーパーならいつでも一玉二十円ですよ」


「なっ……なんだって!? キミ、詳しいんだね。自炊しているのかい?」


「あまり料理はしませんけど、安いものは好きなので」


 隣で里英も「うんうん」と頷いているがカップ麺の相場を知っているかすら怪しい気がする。


「ま、ひとまず命の危険は脱したよ。私は木竹絢水きたけ あやみ。タケミでも絢水でもいいよ」


「では絢水さん。この度は引き受けてもらってありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ。それにしても本当なのかい? 高校生二人でやるなんて。結構本格的みたいだけど……お金は払えるのかな?」


 暗に高校生のお遊びに付き合ってはいられないと言いたいらしい。


 言い分はもっともだし、どこかで言われることだと分かっていたのでこっちもそれなりに作戦を用意している。


「今から前金で報酬の半分、二十万円を振り込みます。金が払えるかどうかはそれで信用してくれますか?」


 絢水が頷いたので、事前の打ち合わせどおりに里英から送金してもらう。


「エリモリエ……回文になる名前なんて可愛らしいね」


「あはは……ありがとうございます」


 里英はこれまでの人生で百万回はやってきたであろうやり取りを軽くいなす。


「確かに入金は確認したよ。バイト代を貯めて用意するには中々の大金だし、こりゃ責任は重大だね」


 絢水がやる気を見せ始めたその時、ピピピと絢水の携帯が鳴った。「ちょっとごめん」と俺達に断って絢水が電話に出る。


「はい、木竹です。はい……はい……えぇ!? そっ、それは困りますよ! いやいや……ちょ……まっ、待って! あぁ……」


 見ているこっちが可哀想になるくらいに絢水は目尻を下げる。


「ど……どうしたんですか?」


「いや……家賃と水道と電気とガスの代金を滞納しててね。今しがた口座に金が入ったから順番に引き落とされたんだが、家賃が引き落としきれなかったようで、遂に出ていけと言われてね……」


「えぇ!? 住むところ、なくなっちゃうんですか?」


 絢水は泣きそうな顔で首を縦に振る。里英が何かを思いついたように俺の方を見てくる。何となく趣旨は分かったが、絶対にお断りなので話を別の方向に持っていかねば。


「ま……まぁ、ネカフェでも仕事はできる――」


「慶センパイの家、広いよね?」


「狭いな。犬小屋だぞ」


「えぇ!? 他にもっと大きな物件があるの!? あのマンションより!?」


「だから声がデケェよ!」


 もはや里英の驚いた時のリアクションはわざとなんじゃないかと思えてくる。


 眼の前からは、絢水の藁にもすがりたそうな雰囲気が漂ってくる。


「すっ……住めるところがあるのかい!?」


 ほらきた、と恨めしい目で里英を見るも、気まずそうに素知らぬ顔で窓の方に顔を逸らした。


「いやまぁ……部屋は余って……ないな」


 里英の配信部屋、俺の寝室と作業部屋で3部屋埋まっている。空き部屋はないのだった。


「えぇ!? 慶センパイ、目の前に困ってる人がいるんだよ!? 慶センパイの仕事部屋を一緒に使えばいいじゃん!」


 里英が俺を後ろから刺してくる。味方のはずなのに。初めて会ったときもそうだったが、とにかく困っている人を助けないといられない性格をしているらしい。


「いやぁ……二人の優しさが染み入るねぇ」


 というか得体の知れない女性と一緒に暮らすなんて絶対にしたくない。


 絢水も絢水でそんな誘いをホイホイと受けようとしている時点でネジがぶっ飛んだ人なのは確定している。


「里英……お願いだからもう黙っててくれ……」


 絢水がにこやかに大家に電話で出ていくことを報告し始めたので、とりあえずサラダバーを食べながら方針を考えることにした。

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