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29.最後の罠



 当初ヒナが言っていた通り、おそらくここは魔王城なのだろう。

 疑似的な魔王城だとしても、それくらいの脅威を持っている場所だと思って進んだ方がいい。そう考え直すほどに、ベルたちの説明は危機感を孕んでいた。


 魔法矢がどこから放たれるか分からない――――以上に、更なる脅威が襲い掛かって来るかもしれないという事態は。俺たちに緊張を走らせる。


「…………、」

「……、」


 ほどなく進んでいくうちに、互いの息遣い以外に、音は聞こえなくなっていた。

 俺も額にじわりと汗が浮き、いつもよりも鼓動が早くなっているのが分かる。

 そんなとき。


「……いけない。会話、だったね」


 息遣いの中、アリスがぽつりと口にした。

 ベルとヒナも意識は周囲に集中したまま、「そうじゃの」と頷く。

 ここに入ったときにも話題に上がった、コミュニケーション不足による連係ミス。それが恐ろしい。

 ピンチの時ほど目の前に集中したいのは痛い程分かるし、むしろ俺も人の事言えないんだけどな……。


「フム……。そうじゃな。では議題を出すか」

「議題?」

「うむ。なかなかどうして、ヒナの身体もえっちそうじゃ。という議題じゃ」

「ベル、きみね……」

「あはは。ありんちょ☆」

「きみもきみでなぁ……」

「アリス、諦めろ。こいつらはこういう貞操観念で生きているからさ」


 ため息をつくアリスの方をぽんと叩く。

 ……やべ、今バニー姿だったなこいつ。生の肌じゃん。

 アリスは特に気にしていないみたいだから、動揺がばれないうちにそっと手を離そう。


「うむうむ。なんといっても肩口から乳肉にかけてのラインが良いわい。こう……、舌を這わせ隅々まで舐めまわしたくなる。そんな肌の質感を――――」

「ベル、その議題だと俺が真っすぐ歩けなくなるから勘弁してください」


 もしくは両手が塞がっちゃうので。

 言うとヒナは楽しそうに笑い、アリスは訝し気なため息をついた。ベルはセクハラ出来て楽しかったのか、鼻息を荒くして目を輝かせていた。いや最低かよ。


「……まぁ、空気を弛緩させてくれて助かったよ」

「ん? なんのことかのう?」

「いや別に……」


 こういうのは本来、パーティの手綱を握る、俺の仕事だ。

 さっきの戦闘後はうまくいったけど、やっぱ頭からは抜けるなあ。

 ベルのお陰で上手い具合の空気になった俺たちは、続けて長い絨毯の上を歩く。


「しかし……。先ほどまで出てきておったヒトガタの魔力体が、今度は一切出て来んようになったのう」

「だね~……。

 もしかしたら今は、概念変化の魔法矢(トラップ)に全ての魔力を回してんのかも」

「ってことは、これまでの魔法生物幼女たちも、ある程度コントロールされてた可能性があるのか」


 魔法矢の説明のときにも軽く触れたが。

 このダンジョン(というか疑似魔王城)の奥には、十中八九『何者か』が潜んでいると見て間違いない。

 本来ならばちょっと異常な個体のモンスターが居たりとか、宝箱と呼ばれるアイテムがあったりするのだが(ダンジョンは基本的に、奥底のアイテムから発生しているという見解もあるらしい)。


「何者かの、意図か……」


 じりじりと、見えないゴールを目指して俺たちは進む。

 体感で一時間……、二時間……、三時間が経過する。

 延々と続く廊下もそうだが、やはり一番神経を使うのが、いつ発動してくるか分からない魔法矢だ。

 道中も、たびたび発動し、こちらへ矢を射てくる。

 受けるわけにはいかないので、ベルたちがそれぞれ対処する。

 もうずっとこれの繰り返しだ。


「しかし……、こんな搦め手があるなんてな」


 まさかベルと一緒に居て、『攻撃を受けてはいけない』という状況になるとは思わなかった。

 これまでは多少のダメージを追ってでも、ベルは突っ込んで行けたのだ。

 何せそのダメージはすぐに修復する。かすり傷にも満たない、服の汚れみたいなものだ。

 常人なら即死の百のダメージでも、ベルは常に一万ずつ回復してるから問題ない……みたいなイメージ。

 けれど今回の魔法矢は、一のダメージでも受ければ即死級だ。

 存在の形を変えられるというのがどれほどの脅威なのかが分からない以上、おいそれとは受けることが出来ないのも痛い。


「試して受けてみて、頭部がなくなったら終わりじゃ」

「確かに……」


 意識が残ってたとしても、思考は出来るのか、視界はあるのか、身体のバランスが取れずに戦えなくなるのではないかと、結局色々な問題が出てきてしまう。


「それに解決策の、術者を倒せば元に戻るという案もあるが……」

「術者にたどり着くまでどれくらいかかるか、未だに見当つかないからなあ」


 それに、その術者は更なる力を秘めているかもしれないのだ。

 どんな奴を相手取らなければならないかも分からないのに、おいそれと試してみることは出来ない。


「ま、だから受けるのはコワいよね~」

「そうだな」


 張りつめる。

 張りつめていく。

 そうして体感、もう三十分が経過しようというという中――――ソレは現れた。


「扉……」

「それも、これまでとはまた違う作りじゃのう」


 デザインはこの通路エリアに入った時と同じ系統をしているが、明らかに何かをはめ込むための穴が開いていた。

 星形……、三角……、ひし形と、丸。


「ここに来てアイテム収拾クエストかよ!?」

「えぇ~……、もうだるいんだけど……!」

「これは流石に骨が折れるな」


 俺たち三人はがっくりと脱力する。

 ベルだけがよくわかっておらず、首をかしげていた。

 だから、俺は。振り返って。

 彼女にこの扉のことを説明する――――行動に出てしまった。


「いいかベル、この扉はな……、」


 だから この いっしゅん

 あたま からは ぬけおちて しまった のだ

 おれも ありすも ひなも べるでさえ


 敵が仕掛けた扉。その、目の前。

 本来ならそこが、一番危険なはずなのに。


「コー……」

「えっ?」


 扉が。

 無造作に嘶きを上げる。

 それと同時――――概念に作用するという魔法矢が、一直線に俺へと飛来した。


「――――、」


 迫り来る矢は止まらない。

 思考が追い付いたころには、俺の身体と魔法矢の接地面は、もうすでに一センチにも満たない距離にあって、


「ふんッ!」

「ベル……!?」


 その接地面に。横合いから手が伸びる。

 それは、ベルの綺麗な右腕だった。

 回避は間に合わないと踏んだのだろう。俺の身体を抱き寄せ、自分の掌でその魔法矢を受けていた。


「おま……」

「ヒナ! ワシの腕を!」

「おけ!」


 瞬間、ヒナはベルの右腕を肩口から切断した。

 おそらくは魔法矢が作用しきる前に、受けた患部を切断するという発想なんだろうけど……、思い切りがよすぎるだろ!?

 いくらベルは修復可能だとはいえ、あまりにも無茶がすぎる。


「クァハ……! やってくれたのう!」


 ベルは睨みながらも短く笑うと、まだ宙に舞う、切断された自身の右腕を左手で掴み、そのまま扉へと投げつける。

 魔法の残滓が残っている彼女の腕は、扉に当たるや否や、まるで映画で見る炸裂弾のように爆発しそれを破壊した。

 瞬時に彼女はぼこぼこと腕を生やす。

 元の形を取り戻したということは、つまり概念に作用する魔法を受けなかったということだ。一安心だ。


「さぁ道は開けたぞい! 突撃じゃ!」

「だね! コーにゃん狙いとは卑怯だし!」

「思い知らせてくれる……!」


 どうやら三人のボルテージは最高潮のようだ。

 魔法煙が晴れぬまま、駆け抜けるベルたちに俺も続く。

 突入したそこは……、とても広い荘厳な部屋だった。

 その中央には小さな玉座があり、そこに誰かが腰掛けている。


「って、ベル!?」

「死ねぇぇぇぇぇぇッッッ!!」

「「おぉぉぉッ!」」

「二人も!?」


 観察もままならぬ中、ベルに続いてヒナもアリスも人影へと襲い掛かる。

 突入から突撃までがワンアクション。俺以外の三人の意志は、統一できていたらしい。

 しかしそんな激動の展開の中――――その人影は、微動だにしなかった。


「――――こうすれば」

「え……」



「血気盛んに、飛び込んでくれるよのう」



「――――、」


 瞬間。地面が隆起した。

 いや地面だけではない。天井もだ。

 まるでこの部屋自体が巨大生物の顎の中だったと言わんばかりに、

 地面と天井がぼこぼことカタチを変え、咀嚼のように俺たちに襲い掛かる。


「なん……!」

「チッ……!」


 おそらく。

 この展開までが、この城の主の策略だ。

 あの扉に仕掛けを施してやれば、分かっていないベルに対して説明をするため(・・・・・・・)、保っている緊張感が一瞬緩む。その隙をついて攻撃。

 その攻撃で仕留められなくとも、俺を狙うことで、全員頭に血が昇り力任せに侵入してくるだろう。そうなれば動きは直線的になる。

 その直線を狙って、今度は上下からの追撃と。なかなかに嫌らしい思考回路だ。


「こちらの動きが、読まれて、る……!?」


 荒れ狂うフィールドの中。

 一瞬だけ、俺は彼女の姿を見た。

 身体つきは、これまで見てきた魔法幼女体たちよりも、更に幼い。

 正味十歳にも満たないような。しかし仕草は、誰よりも魔性を帯びている、そんな幼女だった。

 きれいに舞う、長い銀の髪。

 あどけないが、それでも美しい顔。

 ベルとは違った意味で、見る者の視線を釘付けにしてしまうその美幼女は――――



「っぷー! きゃははははははっっ!! ざまあないのじゃこの粗末●●コどもが! きゃははははぁぁぁッッ!!」



 なんか、めっちゃ台無しな――――クソガキみたいな笑い方と、下品な単語を言って爆笑していた。


「えぇ……」

「そこの短小チ●●を狙えば、絶対こういう展開でハメれる!

 わらわの狙い通りなのじゃ~! あ~、馬鹿ってカワイソウじゃのう~! きゃははっ! きゃはははははっ!」

「コースケのは短小ではない! 若干つつましやかなだけじゃ!」

「そうだ! それにカタチは意外と問題ないのだ!」

「お前らやめて! って、うぉ……!」


 ややギャグの空気になりかけたが、それでも実際、このダンジョンに入ってから一番のピンチだ。

 天井だけならまだしも、足場が安定しないのは恐ろしすぎる。


「……と、いうか」


 これ……、ダンジョン自体が崩壊していってないか!?

 荒れ狂う天井も床も、歪んだ個所は歪みっぱなしだ。穴が開いている箇所もある。無事なのは――――玉座回りだけか。


「ちっ……、まずい、のう……」

「ベルりん! アリしゅ! こっち!」

「ぷふふ~っ! 単純じゃの~。……ほれ」


 言うと台無し幼女は、掌から先ほどまで俺たちに放たれていた魔法矢と同じものを生成し、ヒナへと放つ。

 間一髪彼女は回避するも……、第二、第三の矢が放たれていた。


「くっ! コ、コースケ!」

「俺は大丈夫だ! た、ただ……!」


 これ……、まずいぞ!

 反撃が出来ない。何もさせてもらえない。

 アリスもヒナも、ベルもでさえも、自分のコトに対処するだけで精いっぱいだ。

 俺自体も魔力で身を守ることは出来るだろうけど、あの魔法矢まではレジストできない。


「……やむを、えんか」


 徐々に崩壊していくフロアの中。

 ベルがぽつりとつぶやいた。


「みな、出来るだけ近くに寄れ! 脱出する!」

「……!」


 ベルは言うと、部屋の中央へと陣取った。

 徐々に魔力が膨らんでいき、ソレは産声を上げる。

 瓦礫舞う中現れたのは……、ベルの真の姿。空を覆う程に巨大な、黒い龍だ。

 正気の証として、申し訳程度にちょこんと、彼女の頭にはバニーガールのウサミミが乗っかっている。


「ぐる――――アアアアアアアッッッ!!」


 咆哮と共に、降り注ぐ瓦礫を破壊しながら宙を舞う魔竜・ベルアイン。

 俺たちはその背になんとかしがみつき、共に空へと登った。


「ベルきみ……、変身は出来ないと……!」

「保険の……、魔力……じゃ……! もたんかも、しれん、が、のう……」

「なん……、ベルお前!」

「せっきょう、は……、あとじゃ……!」


 竜の嘶きは空へと響き渡る。

 地響きと共に崩壊していくダンジョン。

 あの幼女を倒し切れなかったのは痛いが、ここは一度体制を整えて出直すしかない――――


『くふふ……!』


 空に。言葉がこだまする。


『なぁんじゃ剣の娘よ、ぬし、言うとったではないか』


 伸びる手は、一直線。

 寸分たがわず、狙いをつけている。



『わらわの狙いが――――その男じゃと』



「っ……!?」


 反響する声と共に。

 魔法矢が、これまでに見たことも無い速度で、

 超高速(・・・)で穿たれる。


「ぁ――――」


 これは――――三重のフェイク。

 一段階目。

 そもそもからして、ダンジョン内で放たれる魔法矢は、わざと避けられる速度に調整されていたのだ。

 そして二段階。

 先ほど相対したときに放ってきた矢の速度。

 ダンジョン内よりも更に速くすることで、目がソレに慣れるより前に炸裂させる。そんな一手。

 しかし……、それすらも布石。

 彼女は今、この三段階目を、最初から狙っていたのだろうから。


『――――その身は綻ぶ(テイクオーバー)


 呪文の声と共に、穿たれる一閃。

 掌に収束される魔力は、破裂する勢いでこちらへ迫り来る。


 混乱の中、命からがら逃げ延びる。脱出に成功し、こちらがようやく思考出来るというタイミングを狙っての、一射。


 光よりも速く感じたその魔砲(エネルギー)は。

 容赦なく、俺の身体に――――炸裂して。


「が………………ぁぁぁぁぁぁッッッ!!?」

「コースケ!」


 魔法の光は、俺を容赦なく包み込む。


『ぷっ……! きゃはははははははははッッ! きゃ~~~~っはははははははははッッ!!!』


 侵食されていく身体。

 変化していく我が身。

 内側と外側から、徐々に何かが書き換えられていく。置き換えられていく。


「がぁ、ぁ、ぁ、ぁ、……っ」


 呼吸の仕方が変わる。

 それに引きずられるように思考も変わっていくみたいだ。

 俺が俺でなくなる。概念が捻じ切られていくような、そんな身体支配。


 空に響き渡る、あまりにも下品な声を背に。

 俺たちはこうして、初めての敗北を喫して。


 そして思考は、そこでぶっつりと切れた。







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