28.罠・2
進んだ先から弓矢が飛来する。
この辺りはトラップ尽くしなのだろう、今度は三本一気に飛んできた。
「三人とも!」
「うむ!」
飛来した弓矢は、前に出たベルたちによって簡単に打ち落とされた。
しかし――――
「やはり、形状が変化してしまうね」
「うむ。ということは、武装装填以外で防ぐのは危険かのう」
アリス、ベル、ヒナの武器は、それぞれ形に変化を与えられていた。
今度はボード部分が狭くなっていたり、トレーの中央が凹んでいたりと様々だ。
「せっかくアタシも武装装填出せるようになったのにな~。初仕様の場が使い捨てとはねー」
「災難じゃのう」
魔法矢を打ち払うに当たり、アリスに続いてヒナもバニーガールの姿へ変身していた。
身長のわりに長い足と綺麗な尻が、歩くたびに視線を引き寄せる。
「セクシーっしょ?」
「……だな」
誤魔化そうかと思ったが、彼女相手に嘘は意味が無さそうなので俺は首を縦に振った。
「それに……、その武装装填も、なるほどって感じだ」
「ね。ガチカワ。なのにカタチ変えられるとかガン萎えなんだけど」
彼女の武装装填は、細長い酒瓶だった(カワイイかどうかは疑問)。
どうやら魔法とも相性がいいらしく、顕現させるたびに適切な長さの瓶を手に持っている。
「アタシは自分自身が『武器』だから、相性良くてすぐ出来ただけっぽ。
慣れればたぶん、二人も出来るようになるんじゃない?」
「そうなのか」
「たぶんだけどね~☆」
三人は武装装填を一度解き、もう一度新しいものを顕現させる。
「よし……。では再び進もう」
「おけまる~」
さて。何故三人がこんなことをしているのかというと。
理由は、ベルが言った『危険な魔法矢』の内訳にあった。
ひとつ前の戦闘の後。
ベルの説明を俺たちは神妙な顔で聞く。
「概念を変えちまう魔法矢……?」
「うむ」
その中で彼女が発したのが、概念を変える魔法という言葉。
俺とアリスはピンときていないが、ヒナは「うわー……」とドン引きしていた。
「それ、アタシらが食らったら一番ヤバいやつじゃんね?」
「じゃのう。まぁもちろん、ニンゲンが食らっても十分やばいが」
「どういうことだ?」
アリスの疑問に俺も続く。
概念を変えるということは、形状変化ということなのだろうか。
「それってどれくらいまずいんだ? 回復魔法とか、自己修復でもどうにもならない?」
俺の質問に、ベルとヒナは「うーん」と腕を組んで考える。
どうやら難しい説明みたい……だな?
「例えばそうじゃのう。ワシは今のこの姿……、バニーガール姿が『完全』な状態じゃろう?」
突然おっぱいを寄せながら、彼女は俺に近寄った。
「そ……、そうだな」
敵陣の最中だというのに、ついぞ鼻の下が伸びてしまう。
肩口、腰元へと俺の手を自ら這わせ、改めてカタチを認識させていくベル。
尻のあたりに触れたとき、長い髪の先が俺の手をくすぐった。
「か……、髪、長いよな……」
「クァハハ。うむうむ。嬉しいぞ♪」
思考が真っ白になりながらも、俺はなんとか言葉をひねり出す。
コホンと脇からアリスの咳払いが聞こえて、俺もベルも意識を元に戻した。
「ベルきみ、何かを説明しようとしていなかったか?」
「ハッ、そうじゃたわい。嬉しうてつい」
「ベルりんって、意外とそういうところへっぽこだよねー」
ともかく。
「丁度良い。この髪で例えようか」
「髪に触れられる前は何をしようとしていたのだ……」
「いや、おっぱいで説明をしようかと思うておった」
「それはやめてくれ。絶対頭に入ってこない」
と、ともかく!
ベルさん先に進めてください。
「そうじゃな。仮に今、ヒナにこの黒髪を切られたとするじゃろう?
魔剣の一撃じゃ。ワシの髪を切るくらい造作も無かろう」
ベルの言葉に合わせて、ヒナは「ちょきん」と言いながら彼女の髪を切るふりをした。
おままごとみたいで何だかほんわかしてしまうが、真面目な頭を持ち続けよう。先ほどと同じ轍は踏まないぞ。
「しかしワシの身体は、この姿へと元に戻る作用が働く。かつ、更にそこへ回復魔法でも受ければ、完全にこの姿へと戻れるわけじゃ」
「そうだな」
この世界では、回復魔法によってある程度のけがは修復することが出来る。
切断されたとしても、部位が残っていれば(高ランク回復魔法なら)修復可能だ。
めちゃくちゃに爆散してしまうと不可能らしいのだが、ベル曰く、「頭か心臓が残っておれば完全回復できるわい」とのことだった。
シンプルに怪物ですね。
「しかし……。先ほどこちらへ放たれた魔法矢。
アレはワシらの、『元の形』を根本から変えてしまうものじゃ」
「根本から、元の形を……?」
「例え話の続きじゃが。
あの魔法に触れたことで、『ワシの髪は短いのがデフォルト』となってしまった場合。どんな回復魔法をかけられても、一生髪は短いままじゃ」
「当然だよねー。だってそれがベルりんの、『元の形』なんだから」
「あー……、なるほど」
だんだん分かってきた気がする。
概念に作用するっていうのはそういうことか。
元の姿ではないものに、カタチを変えてしまう。
ベルとヒナがそれに気づけたのは、もしかしたら自分たちも同じような存在だったから故なのだろう。
だいぶ馴染んではきているが、こいつらも元はニンゲンの姿では無い者たちだし。
「じゃあ仮に、その概念魔法を受けて目が見えなくなっちまったら……」
「うむ。回復魔法では治せん。何せ、治すところはどこもないのじゃからな」
「目が見えないのが、デフォルトってことだからな……」
それは恐ろしい。
これまで見えていたものが見えなくなるとなってくれば、戦うどころの話じゃ無くなってくる。
「何が起こるかはわかんないからね~。だからこそ、絶対に当たっちゃヤバイ魔法なわけよ。特にアタシらは」
「ニンゲン以上に、何が起こるか分からんからのう」
「たしかに……」
似たような成り立ちだからこそ、どんな作用があるか分からないってことか。
「ただコーにゃん。万が一当たって大事になったとしても、対処のしようはあるんだよ」
「え、そうなのか?」
「まぁ……、対処というか、退治というか」
「どういうこと?」
「うむ。つまりは、術者本人を倒せば元に戻るだろうという推測じゃ」
ベルの言葉に、今度はアリスが頷いた。
「なるほど……。ここまで強力な魔法だ。まず間違いなく、術者の意志が噛んでいる可能性が高い。ランダムに反応する攻撃ではあるものの、トラップ効果の一つ一つが術者の管理下にあるということか」
「そういうことじゃ」
「えっと……、すまん、どういうこと?」
「魔法に当たってベルの目が見えなくなったとして……。そこに永続性はあっても、あくまでも魔法自体は術者によって管理されている。
故に。その術者本人を倒す。もしくは魔法を解除してもらえれば、再び目に光が戻る」
「そうか……。つまり」
「術者を倒せば元に戻るということだ」
なるほど。話しが繋がりました。
「概念変化の魔法矢への対処法は、基本的には回避しかない。が、ワシらには武装装填がある」
「なるほど。これらは概念を乱されても、一度消せばリセットできる」
「うむ。武装装填で矢を受け、再び顕現させればオーケーじゃ」
「さっきベルが実証済みだもんな」
「へーいいじゃん。アタシもやってみよー。まずバニー化だよね?
「うむ。ヒナのバニーじゃ。きっとエロカワじゃろう」
「ベル、襲うなよ」
舌なめずりをするベルを止めつつ、ホントにエロカワな感じのバニーとなったヒナへと、武装装填の使用方法を教える。
ヒナのバニー姿も、それはそれで目のやりどころに困るな……。
胸も二人に比べて小さいだけで、十分谷間は出来るサイズだし。
「ねぇコーにゃん。武装装填とおっぱい、なんか関係ある~? ん~?」
「し、しまったつい……! いや、ぜんぜん関係ないです!」
「きみじゃだめみたいだね。私が教えようヒナ」
時間も無いしねとアリスはため息をつき、俺を押しのけた。
「面目ない……。
はぁ……。だけど、よかったよ」
俺は安堵の息を落とす。
「何がじゃ?」
「いやほら。めちゃくちゃ凶悪な魔法矢ではあるんだけどさ。
でも対抗策はあるだろ? それに最悪当たったとしても、術者を倒せば元に戻るんだったら、まだ安心だなと思ってさ」
まぁ当たらないのが一番だけどな。痛いは痛いし。
俺だって痛いのは嫌だし、みんなの苦しむ姿も見たくない。
「ふむ……。そうじゃなぁ。安心じゃ。
回復するという点においては、のう」
「え? どういうことだよ?」
珍しく、ベルもヒナも神妙な顔をする。
勿論それは魔法の脅威を語ったからだろう。俺だって、決して楽観視しているわけでは無い。
「危惧しておるのは、魔法矢の事だけではないわい」
「うん。そだね~」
二人の態度を見て、アリスもなるほどとつぶやいた。
「そうか……。概念に作用してくる魔法など、聞いたことも無い攻撃だ」
「そうだな。それが?」
考えても見ろコースケ。この二人の在り方を、塗り替えられるほどの攻撃なんだぞ?」
「あっ……!?」
そうか。
そんな強力な攻撃を、遠隔攻撃で扱えるというのは、
はっきりいって。異常すぎる。
「下手をしたら――――」
それは。
神の領域だ。と。
アリスは神妙につぶやいた。
俺たちはもしかして。
とんでもない場所に入ってしまったのではないかと。
静かに思った。




