27.罠・1
わんさかと出てくる幼女魔法体を退けつつ、俺たちは赤い絨毯の廊下を進む。
先ほどまでと違って、今度はかなり量が多い。
通路の前後左右から出現するので、後方にも気を配らなければならないのだ。
「コーにゃん、後ろはアタシ行くわ!」
「おう、頼んだ!」
「ベル、周囲を見ていてくれ! 前は私が行く」
「うむ」
声を掛け合い、戦場は三人に支配される。
斬撃が飛び……、斬撃が飛んで、斬撃が飛ぶ。
「あれ、うちのパーティ近接攻撃しかいねえ!?」
「今更か、ぬしよ」
「斬撃ばっかりだね~」
アリスも銀のトレーを剣代わりに使っているし、ヒナは元々魔剣だ。ベルも武装装填を覚えたものの、手持ち看板という殴るためのものだ。
「アレもよう切れるぞい」
「切れるんだアレ……」
「武装装填は概念の世界だからね」
まぁそうだよな。アリスの銀のトレーだって、いくら鋭くても普通は切れないもんな。
「しかしこういうときに、弓使いでもいればとは思うね。
遠距離攻撃者が居れば、きみの近くに居ながらも援護が出来るし」
「そうだなあ。というか、俺が自衛出来れば早いんだけどさ」
「ぬしは開けている場所であればどこまででも逃げれるが、場所が限定されてはどうしようもないからのう」
「だよなあ」
俺の自衛手段は、基本的には『逃げる』とか『回避する』である。
例えば防御魔法を使って攻撃を『受け止める』という手段はとれない。そこまで耐久のある魔法を、使うことが出来ないからだ。
こういう一本道の通路だと、逃げる場所にも限界がある。物理的に逃げられない、隅の方に追いやられればアウトだ。
「基礎能力のアップだから、それを回避に使うことしか出来ないし。
今度ヘリオスちゃんに、そのあたりの改善方法も聞いてみるか……」
「そうだね。覚えられそうなら、それに越したことは無い」
「身体つきだけは頑丈そうなのにね~」
「いやいやヒナよ。屈強な肉体と太っていることはイコールではないぞい。
まぁワシはこのぷよぷよも好きじゃが。のうアリス?」
「う……、うむ。わ、私もその……、イイカラダだと、おもいます……」
「なにアリしゅ、めっかわじゃん」
「はいはい、ダンジョンに集中しましょうね……」
まぁこんな風に。パーティの空気はとても良い。
戦闘が始まれば緊張感を持って挑めるし、ある程度は気を抜くことも出来る。勿論最低限の警戒心は解いていないと思うけど。
「無論じゃ。流石に完全リラックスは出来んわい。――――ほれ、また敵影じゃ」
「うぇ、まだ湧くのー……? 戦いは好きだけど続くとサゲなんだけど」
「私が後ろを見る。二人は前を」
「りょ!」
言って三人は更に警戒態勢に移った。
戦闘が再開される。
斬撃、斬撃、斬撃。
偏った攻撃方法だけではあるが、しかし斬撃のパターンはめちゃくちゃ多い。
「まぁ使ってる武器自体は違うからな……。同じ近接でも、戦い方自体のバリエーションは多いか……」
そもそも全員動き方が違う。
ベルはダイナミックに。ヒナは直線的に。アリスは流線形に。
結果として斬撃で倒しているというだけで、戦い方は三者三様だった。
「これは確かに、遠距離はいらないかも――――」
そう呟いた直後だった。
通路の奥から少しだけ、これまでとは違った光が見える。
そう思った瞬間、黄色い『何か』が勢いよく射出される。
「フンっ!」
ベルは武装装填により、突如として飛来する何かを叩き切った。
凶悪な速度とはうらはらに、綺麗な光と共に霧散するソレ。
「弓矢……だったか?」
「みたいじゃのう……。ん?」
ベルが武装装填をちらりと見やると、どうやら武装装填の持ち手の部分が、かなり短くなっていた。
「これは……」
「ベル、大丈夫か!?」
「……問題ないわい!」
言って戦闘を再開するベル。
武装装填は一度消し去り、いつもと同じように肉弾戦で魔法体たちを蹂躙していく。斬撃の中に打撃が加わった。
「カァッハハハハハッ!!」
――――そうして、再び戦闘は終了する。
しかし俺もベルも、そして駆け寄ってきた二人も。不可解な疑問が頭をよぎった。
「ベル、さっきの……」
「うむ。――――武装装填!」
言ってベルは、武器を再び顕現させる。
するとこれまでと同じように、柄の長い手持ち看板が彼女の手に握られた。
「普通……だな」
「そのようじゃの」
毎回看板に書かれている内容は変わるので気にしないが、柄の長さに看板の幅。俺には分からないが、おそらく質感や重さまで同じだろう。ベルも違和感を覚えていない。
「さっき一瞬だけ、武装装填がおかしな形になってたよな?」
「そうじゃのう。向こうから飛んできた、『矢』のせいか」
「矢?」
ヒナが首をかしげると、ベルがすっと指をさす。
警戒しつつ近づいてみると、それは設置された仕掛け弓だった。
どうやらこれから、先ほどの魔法矢は放たれたらしい。
「……設置型のトラップってところかな。魔王城にも、たしかこういうのはいっぱいあったよ」
ヒナが頷きながら言う。
もう魔力自体は切れているらしく、おそらく一度きりの使い捨て型トラップのようである。
「しかしすげえ威力だったな……」
「そうだったのか? すまない。反対側に居たからそこまでは見えていなかった」
アリスの言葉に、俺は先ほどの黄色い魔法矢を思い出しながら言う。
「おう。何せベルの武装装填の柄を、へし折るくらいだったんだぜ?
武装装填は、基本的には壊れないらしいのに――――」
「いや、違うぞぬしよ」
「え?」
俺の説明に彼女は待ったをかけ、言葉で遮った。
「違うのか? だって現に、柄の部分が短くなってただろ? だからお前も、途中からは素手での戦闘に切り替えた」
「うむ。その理由は正しいが、柄の部分をへし折るほどの威力というのは間違いじゃ」
ベルは言って、彼女にしてはかなり神妙な顔つきと共に、俺たちに言葉を落とす。
「これは……かなり危険な魔法矢かもしれん。
落ち着いて情報を整理したい」
それは初めて聞く、ベルからの『作戦会議』の提案だ。
常に暴れ回り、知略よりも先に武力を行使する彼女が、そんな提案をしてくる事態。
つまり。
非常事態と言って、差し支えない事態だった。




