18.悪いけど真面目な話もさせてもらっていいか?(アリス談)
「さて」
ハーレム結成の話し合いの流れから少し間をとって。
アリスの咳払いと共に、話題は、『これから』のことに移る。
身構えてもいない状況からの、怒涛の展開すぎたからなあ。ハーレム結成の件を置いておいても、色々と状況が動きすぎた。
「と言っても……、不明瞭なことだらけだけどね」
「そうだなぁ」
とりあえず、ここまでの状況を整理してみることになった。
新入りのヒナもいることだし、この街に来る前からのことを、説明がてら整頓していこう。
「それじゃあ……」
まず、セクション①。
「俺たちはヘリオスちゃん……、あ、ヒナにも分かりやすく言うと、上司みたいな女神の『予見』によって、この街を訪れた」
「ふむふむ」
「で、ベルが異常を感じ取ったと」
「そうじゃったのう」
そこがスタート地点だ。
そこから一晩過ごして、その②へ移行する。
「俺がたまたま出会ったのが、ヒナだったわけだけど」
「もしかしたらアタシも、本能的な部分で変な魔力に惹かれちゃった可能性もあるね~」
「え、変な魔力なの俺?」
「うん。錆びた鉄槍みたいな匂いするよ」
「それ大丈夫なのか!?」
「あぁそれはワシも常々思っておることじゃ。気にするでない」
「気になるポイントが増えてしまったんだが……」
ともかく。
「そのヒナが、異常魔力の一端だったわけだけど……」
「コースケ、いいか?」
「ん? なんだアリス?」
「異常魔力の一端というのは、ヒナ自体だったのか?
それとも、ヒナの中に入っていた魔王の残滓だったのか。どちらだ?」
「えーっとな……。ど、どうなんだろう……?」
「あ~そだね。
アタシ自身が原因だったら、アタシが死なないと解決しね~もんね」
「そんなことするわけないだろ……」
「だよね☆ だからそーだったら、違う方法考えんべ」
からかうように笑うヒナ。それをじっと見てベルは、すんすんとヒナの身体を嗅いだ。
「ふむ」
「お~? どったんベルりん?」
……昨日の今日だからか、ベルの仕草がいちいちエロく見えてしまう。
ヒナもヒナでベルを受け入れているものだから、さっきのハーレム宣言も相まって、なんというか、こう、……百合感がすごい(当社比)。
「……コースケ、戻っておいで」
「ハッ! 俺は何を!」
パンパンとアリスの手拍子により現実に引き戻される。
俺がこの一瞬にふしだらなことを考えていたのを、よく気づいたなとアリスの顔を見ると、こいつもこいつで若干頬を赤らめていた。
なるほどですねー。
「コホン……。で、どうなんだベル?」
「うむ。異常魔力の一端は、魔王の残滓じゃったようじゃのう。
そしてそれは完全に消えておる。今のヒナからは、異常は検知されんわい」
「そ、そっか……! よかった……」
「お~やり~☆ 健康だぜ~」
いえーいとベルとハイタッチを決めるヒナ。
ギャルのノリはいつだって自由である。
「なるほど。では、街の中には、もう変な魔力は漂っていないということか?」
「いや……」
しかしベルは顎に手を当て、少しだけ微妙な顔をする。
「正直なんとも言えんところじゃ」
「どういうことだ?」
「ヒナとバトルをし、その帰りがけに倒した異常魔力のモンスター。その件もすでに片付いておる。……しかし、」
ベルは一旦そこで言葉を切り、少しだけ間を空けて、もう一度口を開く。
「ワシの身体は、まだここに異常があると訴えてきおる」
「そうなのか……」
「うむ」
ベルの頷きに、しかし俺はどこかで「やっぱりか」と納得していた。
それが、③。
「ヘリオスちゃんからの撤収命令が、まだ出ていないからな……」
というか、異常魔力とやらのせいか。これまでのように気軽に連絡が取れなくなっている。
「繋がらないのか?」
「だな。魔力を送っても帰ってこなくてさ。まぁ、まったくってわけではないから、この後もう一回連絡取ってみるけど」
本当はこの会議も聞いてて欲しかったんだけどな。その方が話が早いし。
「では、話すことは出来ているんだな」
「だな。……ただ、撤収命令はまだだから。
彼女が予見した『この街に起こる良くないこと』ってのは、まだ解決出来ていないってことだ」
「なるほど……」
うーんと、アリスと二人腕組みをする。
「あと解決してないことと言えば、夜間に現れる異常モンスターくらいなんだけど……」
「それはこの辺りの冒険者でも解決できる案件のようだしね。しかし事実として、後はそれくらいしか該当項目がない、か」
「じゃあしばらくは、この案件に俺たちも出向いてみよう。
ニンゲンの俺たちには分からなくても、ベルとヒナのどちらかであれば気づけることもあるかもしれない」
「なるほどのう」
「り~」
俺とアリスの提案に、ベルとヒナも頷いた。
「後はそうだね~。この土地そのものに『何か』が無いかを調べる必要があるかもね~」
「この土地に、か……」
「確かにな。
元々が変な土地の可能性もあれば、私が居た街みたいに、変な仕掛けが施されている可能性もある」
「ふむ……。と、なると?」
俺が顔を上げて質問をすると。
緊迫した空気はどこへやら、三人とも笑って応えた。
「「「しばらくは自由時間だな(だね~(じゃのう))」」」
「あ、はい……」
何だかんだこいつらって。
余裕あるうちに遊びたいやつらだよね。
というわけでしばらくは、大きい街を満喫するターンです。
「――――ということになったんだけど」
「なるほど! 報告ありがとうございますコースケさん!」
会議が終わってお昼ごろ。
俺はタブレットの魔法を起動して、ヘリオスちゃんへ報告を行った。
「それ、大丈夫なのか? 女神からの魔力でも阻害されちゃうって……」
「こちらも色々調べてみたのですが。
阻害というよりは、魔力相性がちょっと変わってしまっているみたいですね」
「魔力相性?」
俺の疑問に彼女は「はい」と首を縦に振る。
「新たに仲間となったヴァルヒナクトも、その『中』に在ったという魔王の残滓も、天界にある魔力とは真逆の性質を持っています。
同じ魔力でも方向性が違うと言いますか、そもそも正式には名称が違うと言いますか」
「はぁ」
「細かいことは分かりにくくなるので省きますが、とにかくそういったもののせいで、上手い事繋がらなかったということでしょう」
「なるほどな。
もしかしたら今後も起こり得る?」
「ですね……」
ヘリオスちゃんは短い後ろ毛を少しだけ触って、考える素振りを見せた。
「そちらが考察するように、土地そのものに『何か』があった場合は、うまく繋げられない可能性も出てきます。
この魔力を使った連絡手段は、『コースケさん陣営』と『私』、『天界』と『地上』の魔力が合わないといけませんから」
今はその四つの要素中、『俺陣営』と『地上』の二要素が不安定になってるのか。そりゃあ繋がりにくくもなる。
「なるほどな~」
「勿論、起こる頻度は少ないでしょうけどね!」
まぁなんにせよ、状況報告が出来て良かった。
俺がふうと一息つくと、ヘリオスちゃんは少しだけ笑って言った。
「コースケさんも、だいぶメンタルが強くなってきましたね!」
「え、そうかあ?」
「えぇ。だって何だかんだ、まだ脅威は拭いきれていないわけじゃないですか。
それでも、『楽しむときは楽しむ』というメンタルで過ごすことが出来るのは、立派になりましたよ!」
「あぁそういうことか……」
確かに最初は落ち着かなかった。
ベルと何日か街に滞在しなきゃいけなくなったときも、いつ事件が起こるか分からな状態で、おちおち寝てもいられなかったのだ。
「けど、ベルを見てて思ったんだよなあ」
俺ごときが心配したところで、状況は変わらない。
事件は起こるし、ベルはそれを解決する。
どうしようもない被害が出てしまうことだってあった。けど、そこにまで常にアンテナを張り続けるのは、無理だ。――――少なくとも、今は。
「行く行くは被害ゼロで終わらせたいとかも思ってるけどさ。
どんなことが起こるかも分からないのに、身構えすぎても仕方ないって思ってなぁ」
目の前で人が死にそうになってるとかなら話は別だけど。
じゃあ俺たちと全く関係ない事件に巻き込まれそうになっている、一般人同士の諍いをどうにか出来るのかというと、それも無理だし。
「図太くさせてもらってるよ」
「えぇ! 強くなりました、コースケさんは!」
嬉しいですと、口をブイの字に曲げて笑うヘリオスちゃん。
ある意味、この元気さに後押しされてる部分もあるかもしれないな。
「コースケさんがそういうメンタルで良かったです。これで――――ベルアインも、大手を振ってこの街を楽しめるでしょう」
「ベルも? あぁそうだな。
最近は変なことをすることも少なくなったし。アリスとも仲いいみたいだしな」
「えぇ。嬉しい限りです」
そう言って目を伏せるヘリオスちゃんは。いつもの笑顔とは違って。
どこか母親のような、いや、姉妹のような? ……まぁ、慈愛のような空気を纏っていた。
しかしその空気だったのもつかの間。すぐにいつもの笑顔に戻り、俺に改めて告げた。
「それではコースケさんも、よい休暇を! また何か異常がありましたら、お伝えください! 伝えられないかもですが!」
「……だな。じゃあそっちも、何かあったら」
そう言って、タブレットの魔法を終了させた。
一旦椅子から立ち上がり、昼どきの騒がしい街並みを見やる。
「休暇、か……」
改めて考えると。俺が今こうして、多少なりともリラックスできているのは、俺自身のメンタルだけではないんだなと気づく。
ベル、アリス、そしてヒナ。
仮にこの街に『何か』があったとしても。俺には頼りになる仲間がいる。
アイツらとなら、どんな困難も解決できる。そう、思えているからだ。
「よっしゃ。ならまずは、腹ごしらえだな!」
しかしベルも、薄情な女である。
てめえが抱いた男だぞ。次の日くらい、構えってんだちくしょうめ。




