17 .緊急記者会見! 皆さんの疑問である、ベル氏による『ハーレムを作るぞ』の真意!
「元気満々じゃ!」
「………………………………」
「き、きみ……! きみ、たち……!」
「お~……。オメデトウ、でいいの~?」
あの。
いちや、あけまして。
朝に俺とベルは、アリスたちの宿を訪れた。
ヒナはそのままベルの代わりにベッドを使ったらしく、アリスと夜通し楽しい話をしていたとか、そういったことを言っていたような気もする。けど。
「…………コ、コースケ。聞きたいことが」
「あ、はい……」
アリスは。
まじまじと俺の全身についた唇の痕をしきりに眺めながら、質問をした。
「…………え、ヤッた?」
「…………は、はい」
「うーわ……」
綺麗な顔が、何とも言えない表情に歪む。
これは別に、嫉妬というわけでは無いということは、すぐに理解できた。
いや、分かるよ。たぶん俺も違う立場だったら、そういうリアクションになると思う。
パーティとして連れ立った仲間二人が、まさかのラブラブ朝帰り。
どういう感情で質問すれば、そしてその返答を受け取ればいいか、分からなくなるよね……。
「くるる♪ 最高のひと時じゃったわい」
「ちょ、ベルお前……、」
「ん? ぬしもそうじゃったろう?」
言ってベルは、心底嬉しそうに、目じりを歪ませる。
からかっているような、けれど悲願が叶ったかのような――――恋人に向けるまなざしのような、そんな瞳だった。
「……っ!」
「コースケ……」
はぁとアリスもため息をつく。
「まぁ、今更だな。おめでとうコースケ。オトコになれて、よかったね」
「ちょ、アリス……!」
「別に。正直、遅かれ早かれだとは思っていたよ」
言うとアリスはいつもの調子に戻り、俺の肩をぽんぽんと叩いた。
どうやら、扱いはこれまでと同じだというサインらしい。
考えてみれば。彼女も彼女で、二十年以上生きている大人なのだ。恋愛ごとには、自分は縁が無かっただけで、同僚のイロイロは、聞いたりはしていただろうからな……。
「…………も、覚悟して…………と、かな?」
「ん? なんだって?」
「なっ、何でもない……!」
聞こえなかったアリスの呟きは、彼女自身の掌で遮られた。
とりあえずこの話題はもう終わりだということなのだろう。俺もそうしてくれた方が助かります。ヒナはまだ「異種間の交配ってどんなカンジなの!? ヤバ!」と興味津々だが。
「あ、そうだベル」
「なんじゃ」
つやつやしたベルに、アリスが声をかける。
「きみたちの、その、――――情事の話に関係があるのかは分からないのだが。
前に言っていた、『ハーレムを作るぞ』とは、一体どういう意味なのだ?」
「おぉ」
ぽんと手を打ち、アリスと、そして俺、ヒナの顔も順番に見渡すベル。
確かに。
その場の思い付きで言ったのかは知らないが、その真意が、俺どころかアリスにも伝わっていないのである。
俺もアリスの言葉に続き、「そうだな」と首を縦に振る。
「こうしてヒナっていう新規メンバーも入ることだし。俺も知りたいな」
その……、そういうコトした相手としても、そのあたりの内訳は非常に気になるところでして。
「うっかりしておったわい。そうじゃのう。話そう」
言うとベルは、俺含む三人の顔を見回して、べろりと舌なめずりをした。
「ハーレムメンバーも増えたことじゃしの♪」
「やっぱそういう意味のハーレムなのか……」
俺たちは席に着いて彼女を見やる。
ヘリオスちゃんにも繋ごうかと思ったが、とりあえず今は良いか。
「まずは、ワシの特性について話そうと思う」
「ベルりんの」
「特性?」
ヒナとアリスからの疑問に、ベルは「うむ」と頷き続けた。
「昨日コースケには言うたが、ワシは定期的に性欲が高まる。戦闘欲と同じくらいには高いと言っていい」
「マジ? じゃあめっちゃ淫乱じゃん」
「そうじゃぞ。えろえろというやつじゃ。昨日もえろえろじゃった」
「ベル……」
俺はまだ暴露されるのは良いんだけど、アリスが。アリスが見たことも無い赤さになっているから。ちょっと手心を加えてやってはいただけませんかね。
その言葉を聞いてからうつむいて、「えろえろ……」とつぶやき続けている。
うちのパーティの頭脳だから、出来れば冷静な頭でベルの事を把握していてほしいです、はい。
「まぁこれには、おそらく理由があるんじゃ」
「えっ、そうなのか?」
「仮説じゃが」
彼女は一瞬だけ遠くを見るような目をして、再び元に戻った。
「ワシという存在は、おそらく人類の長い歴史の中で、畏怖の象徴として語り継がれておったらしい。
そのとき、人柱なる者があてがわれておったそうじゃ」
ベルの言葉を聞いて、真っ赤になっていたアリスはどうにか冷静さを取り戻して質問をした。
「らしい……か。それはつまり、きみ自身ではない?」
「そうじゃ。そもそもそんな概念が出来たころには、ワシは既に天界に幽閉されておったはずじゃからのう」
「…………」
そのあたりの事情を軽くだけ聞かされている俺としては、黙って聞かざるを得なかった。
後に恐怖の対象として語り継がれた内容は、彼女では無かったとしても。
幽閉される最初の要因を作ったのは、魔竜・ベルアイン本人なのだろうから。
「ま、そこのところは重要では無く……。問題は、この『魔竜・ベルアイン』に、村一番の美女を捧げなければならないという、概念が生まれてしまったことじゃ」
「あぁ……。そういう風習の村や町が、過去にあったという話は聞いたことがあるね。
水害など、自然災害の多い地域では、本当に魔竜の仕業なのだと恐れられていたとか」
今の時代ではかなり少なくなったがとアリスが言うと、ベルは口角を上げ笑う。
「クァハ。こういうとき、全くこちらを気にせず言ってくれるぬしじゃから、大好きじゃ」
「きみ相手に遠慮しても仕方ないと分かったからね」
どうやら俺の知らない間に、ベルとアリスはある程度の信頼関係を築いていたようだった。
というか、俺よりも打ち解けるの早くない? ちょっとこう……、嫉妬してしまうような。そうでないような。
さておき。彼女の話である。
二人が分かり合っている間へと、今度はヒナの声が挟まる。
「じゃあベルりんはさ。その後付けの概念の影響を受けて、美女を求めてるってこと?」
「簡単に言えばそうじゃのう」
「美女を求めるから性欲も強いと」
「おそらくのう。仮説じゃが」
「ってことは、アタシ美女認定?」
「勿論じゃ」
「やったぜ~☆」
……え、終わり!?
結果としてヒナは、自分が美女だと思われているかどうかの疑問を解消しただけだった。
「アリス、わかった?」
「まぁ……、理屈は分かった。納得には少々時間がかかるが」
「俺もだ……」
ベルが美女好きという、本能的欲求を抱えているという事実は理解した。それに連なって、性欲が強いということも。
「……ん? じゃあ何で俺?
俺はそもそも女子じゃないし、美女でもイケメンでもないんだが?」
「「「………………」」」
「え、何で黙る!?」
アリスはジト目。
ヒナは苦笑い。
ベルは……何でむこう向いてんだよ。耳赤いけど、もしかして怒ってるのか?
俺が疑問を覚えていると、アリスがため息と共に話を続けた。
「まぁこの馬鹿のことは放っておこう、馬鹿のことは」
「コーにゃんジワるわー。マジでヒトとして四十年生きてきたのかよー」
「……ま、そこが愛いところでもあるわい」
「はい!?」
好感度が上がったり下がったり!
とりあえずこの件に関しては、これ以上突っ込まないでおこう。アウェーっぽいし。
「……じゃ、じゃあベル。
そのさ……。ハーレムって何だよ」
「ハーレムは、美女だらけの空間じゃとワシは認識しておるが」
「そうだよな? 俺たちの認識はズレてないよな?」
「コーにゃん必死過ぎでしょ……」
いやだって。あまりにも突拍子がなさすぎるもんだから、そもそも『ベルの唱えるハーレム』と、『世間一般のハーレム』の、意味が違ってるかもしれないじゃん?
……違って無かったみたいだけど。
「あ、あのなぁベル。俺は女の子いっぱい侍らせるとか、そんな甲斐性持ってないぞ……?」
「……んん?」
俺の言葉にベルがぴくりと方眉を上げる。
「だってそうだろ? 俺がハ、ハーレムの主になるってことはだ。その……、アリスも、ヒナも、幸せにするってことになるんだよな?
正直一人でも怪しいのに、それが少なくとも三人って……。自信ないよ」
「コースケ……」
アリスがこちらをちょっと熱っぽい目で見ているのが分かる。
「俺も言ってて恥ずかしくなってくるけどさ、こ、こればかりは腹を決めてからじゃないと――――ん?」
そう語る俺の服の袖を、ヒナが脇からくいくいと引っ張る。
「コーにゃんコーにゃん、たぶんソレ違うっぽ」
「……え?」
俺が首を傾げると、ベルは「クァハハ」と、どこか嬉しそうに笑った。
「違うわい違うわい。ハーレムはぬしのためではない。ワシのためじゃ」
「…………え?」
「…………ん?」
これには、俺もアリスも首をかしげていた。
認識としては、俺とアリスは、『コースケのハーレム』を思い浮かべていた。しかしベルとヒナは、『ベルのハーレム』を想定していたようだった。
「なるほど。ココでズレておったか」
「あはは。ニンゲンだから、無意識下で、交配するなら男女が基本って考えてたんだね~☆」
「「……………………」」
アリスと二人で目を見合わせ、おそらく互いに頭の中で考えていた、『じゃあこいつとどういう風に●●●●するんだろう?』という想像が膨れ上がり、一気に爆発・霧散する。
「きっ…………、」
「あー…………」
互いに顔を真っ赤にして、変な音を口から出してしまった。
頭を……考えを一旦、リセットしよう……。
「…………ん? ってことはつまりベル! お前……」
「そうじゃ。アリスもヒナも、勿論ぬしも、全部ワシのものじゃ」
「…………、」
なんか。
ベルと話していると、日に日に絶句が多くなってくる。
これほどまでに清々しく、昨日抱いた男の前で、『違う女も抱くからよろしく!』という宣言をされるとは思わなかった。
「嫌か、コースケ?」
「嫌……、いや、うーん…………?」
「見ようによっては、ぬしのハーレムのようにも見えんこともないがのう」
「まぁ……、対外的にはそう映るだろうけどね……」
ヒナをちらりと見ると、「楽しそうだな~」という顔を浮かべていたし、アリスに至っては完全にムッツリモードに移行している。
なんだ。この状況で、どうしてまともな思考回路を持っているこちら側が、マイノリティーなんだ。
「コースケ、諦めろ」
「アリス?」
「ベルがめちゃくちゃな奴なのは、今に始まったことではないだろう?」
「まぁ……、そうだな」
あと、澄ましてクール気味に言ってるけど。お前全然興奮鎮めれてないからな? 耳まで顔真っ赤だからな?
「コホン……。ベル、いいかな?」
「どうしたアリス?」
「私も、暫定『ハーレム』に入るのは、やぶさかではないよ。
ここまで一緒に旅をしてきた仲間だ。パーティとして、一緒に居るさ」
「うむ」
しかしだと、彼女はまるで、友人に少し注意をするくらいの口調で。優しくベルに宣言した。
「きみとそういうコトをするかどうかは、こちらが決めさせてもらう。
さすがに決断が難しすぎるのでね」
「勿論それでもかまわん。ワシは美女も抱きたいが、眺めるのも、それはそれで好きじゃからのう」
「フ……。そうか」
言ってアリスも静かに笑う。
「ちなみにアタシは特に問題ないかな~。あ、コーにゃんでもオッケーだよ~☆」
「急なこちらへの飛び火はやめてヒナ……」
「うむ。それでは今度は三人で、じゃな。
そういう『方法』もあるんじゃろアリス?」
「………………のーこめんとで」
静かにかっこよく笑ってたのに、アリスつらたんだね……。
クールな表情のまま、彼女は再び顔を赤らめていた。
「しかしまぁ、なんじゃ? コースケよ」
「ん?」
おもむろにベルは立ち上がり、俺の近くに寄ってくる。そして、静かに流れるような動きで――――昨日と同じように、口づけをして言った。
「ワシのことを本気で幸せにする気でいてくれたのは、嬉しかったぞ?」
「おま、え……」
人前で惚気るの、本当にやめてくれよ……。オッサンをどぎまぎさせてお前に何の得がある……。
「それでは……ハーレム結成じゃ!」
元気に手を挙げる、人外二人。
呆れてため息を吐く、人二人。
こうして、ベルによる、ベルのための、美女ハーレム作りが幕を開けたのだった。




