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EX.下着屋事変・リターンズ


 本日は久々の、まったく出動が無い日である。

 天界の異常魔力感知には、怪しい前兆すらも引っかかっていないらしい。


「こういう日が続いてくれるといいがな……」

「ほんそれだねぇ」


 ということで。

 私、アリス・アルシアンは、ヴァートとルーチェと共に、ショッピングに繰り出していた。


「珍しいよねぇ。アリぴがあーしを誘うってさ~」

「そうか? まぁたまには良いだろう」

「そうじゃのう。世俗を見てまわるのも、時にはよい暇つぶしになるわい」

「と言いつつ~、るっちぇは屋台の買い食い、もう三コ目だよねぇ」

「や、やかましいわい……」


 和気あいあい。傍から見れば三姉妹のような絵面である。

 黒ギャルのヴァートと騎士っぽい私のどちらが長女かと問われると、まぁ、たぶん私になるだろう。ルーチェはちょっと歳が離れているから、下手をすると私の娘に見えるかもしれない。


「んでぇ、なんか欲しい物でもあるん?」

「というかぬし、物欲とかあるんじゃのう? てっきり『浮ついたものは好かん』とか言う、カタブツタイプかと思うとったぞ?」

「そんなことも無いさ。というか、私はお洒落は好きだぞ。自分に似合う物を選んでいると、センスが磨かれていっているようで高揚する」

「やっぱし修行脳なんだね~。でもまぁいっかぁ。あーしももうちっと、ギャルの生態知りたかったし~」

「わらわもわらわも! 新しいサンダル欲しいのじゃ!」


 ふむ。ルーチェもだいぶ変わったな。

 前は、『偉大なるわらわは衣服すらも自分で作り出せる。買い物のような庶民の作業など、必要ないのじゃ!』とか言っていたのに。

 自分のセンス以外のものを見て回るというのが気に入ったのかもしれない。


「買い物とは、他者のセンスと自分のセンスを掛け合わせ、新しい色を作っていくことに近いからね。買い物をしたいという欲は、ルーチェが他者を受け入れることが出来るようになったという、度量の成長とも言えるのかもしれないね……」


 私がしんみりしてそう言うと。二人は柔らかく頷き答えた。


「いやいや」

「ンな高尚なこと考えてンの、アリしゅだけだからぁ」

「…………」

「お~、なんかよさげなアクセ売ってんじゃん~?」

「うむ。わらわこの色好きぃ」

「……………………」


 うむ。なんか違ったみたいだな!






「――――んでそんとき、コーにゃんがさぁ」

「おぉ、わらわのときも、あやつのう――――」

「さしものコースケもそのときは――――」


 街を行く。

 会話は踊る。

 話題の中心にいるのは、いつもあの男だ。


「お、いい色の服だ。コースケに似合うだろう」

「そうなん? あーし配色とかわからんちんでさぁ」

「わらわもー」

「きみらは美人だから何着ても似合うからね。コースケはむちむちぷよぷよだから、服のカタチも色も、かなりピンポイントで当てていかないといけないんだよ」

「あ~ね?」

「クソザコセンスじゃからのうコースケは」

「うん。そこは否定しない」


 あの男のセンスは、放っておけばとんでもないことになる。

 どうして黒の上に黒を重ねるのだ。何故ストレートなカタチとだぼだぼ系を合わせるのだ。なんだそのよく分からんカタチのペンダントは。それは首に巻くものではなく腰に下げるものだ。指輪が抜けなくなって……腕輪も食い込んで……ああもう!


「……とまぁ、色々とツッコミどころがあるのだ奴は」

「大変だねぇ☆」

「もう親の域じゃな」

「それでも楽しいけどね。逆に考えるようにしたのだ。ヤツを私好みのセンスに染め上げて行けば、いずれはスーパーダーリンが出来るということに」

「洗脳じゃな」

「ダーリンて」


 そこは置いておけ。

 とにかく。


「好いている者を格好良くしたいと思うのは、変ではないだろう?」

「特大のデレだねぇ☆」

「ゴミメンタルだったのじゃがの~☆」

「うるさいな」


 まぁ私もさ。

 さすがに一線を越えたのなら、考え方も変わるというものだ。

 前以上に好きになってるからな、コースケのこと。


「実際んトコさぁアリぴ。性欲止まんね~ってコトね~の?」


 ちなみにあーしはあると、ヴァートは言う。


「んー……。微妙なところだな。何せやつのことを好きになったのは、自制心が完全に芽生えた、大人になってからだろう? それに冒険を共にする仲間でもあったし、ベルもいたし。

 先ほどのルーチェの発言ではないが、半分は家族みたいな扱いというか……」

「つってもまだ半年くらいじゃん? 早くね?」

「チョロザコメンタルか?」

「チョロい言うな。まぁ難しい感情でな。そりゃあ望むのであれば、二十四時間三百六十五日、やつとは裸で抱き合っていたいが……」

「とんでもねぇ性欲出て来たぁ☆」

「身体ぶっ壊れるのじゃ」

「そうなるからしないだけだ。……しかし仕方ないだろう。あの肉だぞ? あの体毛だぞ? 興奮するなという方が無理だ」

「まぁねぇ……」

「指ずんぐりしとるしのう……」


 みな青空を見て、コースケの身体を思い浮かべていた。

 五分くらい前までは爽やかな空気だったのに、どうしてこんなピンク色の話題になってるんだ。


「と……ともかく。性欲や劣情は、うん、自制できている。この間一緒に湯に浸かったときも、耐えてみせたし」

「ドエロイベこなしてんじゃん~」

「さすがはムッツリむちむちビッチ騎士じゃの~♪」

「なんだその不名誉な称号は!」


 まったく。

 コースケの服の話題から、どうしてこんな話題になったのやら。


 …………。

 ……。

 その後も、色んな服屋や飲食店を回った。

 行く先々で何か問題を起こすんじゃないかと思っていたが、杞憂だったようで、とても平和にショッピングは終わりを迎えていた。


「そろそろいい時間だな」

「回れてぇ、あと一件くらい的な?」

「そうじゃのう。……あ、わらわ、あそこ行きたい!」

「ん……?」


 ルーチェが指さす先を見る。

 それは、どこかで見知った展開の。

 ランジェリーショップだった。


「…………」


 なんだ。

 私は人ならざる者と、下着屋に行く星に元に生まれているのか?







 ルーチェに下着は必要なのか否か。

 我々はその疑問を解消するため、ランジェリーショップの奥地へと向かった――――


「いや普通にするわい」

「まぁ、それはそうか」

「お洒落はして~よねぇ☆」


 身体が育っているとかでは無いのである。

 お洒落はしたいし、小さい頃からの補正も勿論大切だ。


「アリぴも? 小っちゃい頃ってそうだったん?」

「うちは家が厳しくて、幼少期はずっと剣術の稽古ばかりだったからな……。そういったものはまだ早いと、十三、四歳くらいまでは禁止されていた」

「ニンゲン換算だとけっこうな年齢じゃね? ふつーにおっぱいあったしょ?」

「あった。なんなら他の子よりもちょっと発育は早めだった。だからそれを見かねた学園の教師が家まで乗り込んで、『情操教育のためにも!』と力説してくださったのだ」

「いいニンゲンだねぇ」

「そうだね。どうやら父は、私を軍学校に入らせたかった故に、厳しく接していたらしくてね。そんなことをされなくても、私は軍へ進む気だったから、そこで一気にお許しが出たのだ」

「はぇ~、面倒なニンゲンじゃのう。殺してやろうとは思わんかったのかアリス?」

「そんなこと考えるか物騒な」


 やはりところどころ危険思想だなルーチェは。

 人間界の常識を知らないからこそなのかもしれんが。


「それに、母も心配してくれていてね。後でこっそり、解禁されて良かったわねと言ってくれて、選び方のコツも教えてもらったものだ」

「ふぅ~ん。親ってのも色々あんだね~」

「ヒトのコミュニティは面倒くさいのう」


 一家庭の事情を聞いただけで考えを飛躍させ過ぎな気もするが、まぁいい。


「それでは回ろうか。二人も、実はきちんと計っていないのではないか? こういう店に務めている者は、測り方のプロだからやってもらうといい」

「おっけ~。んじゃ、ちょっと行ってこよっかな~。……道具は剣でもいいよね?」

「あの者を従わせればよいのじゃな? 洗脳は不得手じゃから、魔法でもバチバチさせておくかの」

「うん、私も一緒に行こうかな」


 脅迫ではなくお願いをするのだ。ちゃんとやってくれるから。

 私は二匹のケモノを従え、とりあえず店員さんに声をかけるのだった。




 程なくして。数値は明らかになった。


「アンダー61のDぃ」

「AAAじゃ。もしくは、まだ無くても良いとのこと」


 ヴァートはどうやら、ヒナと同サイズのものをつけていたらしいので、変わりは無かったとのこと。そのままそのサイズで探すことに。


「なんかあっかな~♪」

「このあたりがDカップみたいだね」


 そして。正直ルーチェのリアクションが意外だった。

 まだしなくても良いと言われたとき、怒り狂って魔法を連発するのではないかと一瞬肝を冷やしたが――――意外にも、「そうかえ」と冷静な対応だった。


「なんじゃそんなことか」


 子供用下着を見ながらルーチェは言う。


「ぬしが言うたのじゃろ。ここに居る者は、乳測(ちちはか)りのプロじゃと。そしてあの者は、正真正銘、嘘をついておらんかった。それにわらわをけなすような視線も無かった。必要の無いわらわにも、懇切丁寧に接しおったんじゃよね。怒る理由が無いわい」

「そうか。それなら良かったよ」

「テキトーに計るクソザコニンゲンなら、この店ごと破壊しておったけどな~♪」

「うん。九死に一生を得たというわけだね」


 ありがとう店員さん。プロフェッショナルでいてくれて。

 貴女のおかげで、今日もこの(店の)平和は守られました。


「ん~……。ね~アリぴぃ。この色どぉ思う? あーしの肌の色に合うかねぇ?」

「うーむ……。もう少しだけ彩度抑え目なほうが良い気がするね。同じ緑なら、こっちのオリーブのほうが良いかもしれん」

「……お? ……お~マジじゃん♪ やっぱアリぴ良いセンス~☆」

「ありがとう。やはり修行は嘘をつかないね」

「そう落ち着くんじゃネ」


 そう言えば前にも、ヒナにブラを選んだのだったか。彼女は肌が白いから、明るいオレンジが映えていたっけ。


「ルーチェの色白さも、ヒナと同じ系統だと思われる。その手に持っている淡い色でもいいが、もう少し深めの色でも面白いと思うよ」

「深めの色、のう? ……こういうのか?」

「あぁ、いいワインレッドだ。ルーチェはわりと、かっこいい色が好きだろう? だけどカタチはファンシーだから、よく似合うと思う」

「……! う、うむ! じゃあわらわ、これにする。……よう、見とるのう」

「ん? いやいや。人間の文化に、きみらよりも触れている時間が長いだけさ。コツさえ分かれば誰だって探せる」

「……そういう意味ではないがのう。……まぁよい。わらわ、向こうに行ってくるのじゃ」

「うむ。魔法を放つなよ」

「放ってはならんことは分かったわい」


 行ったか。

 ヴァートもヴァートで、「ちょっと見てくんね~」と行ってしまったので、私もちょっと見て回ろうかな。


 ……お、この柄面白いな。しかしアンダーの締め付けがちょっと大変そうだ。それに鎧を着たときに、丁度この部分がスレるんだよなあ。……次。

 ……む、いい青色だ。ほどよいフリルが楽しい。これは買いたいな。67のF……、F……、ぐっ……⁉ サイズが無いだと⁉ ……次。

 ……あー、たまにはチェックもいいなぁ。大きめの白黒のチェック。少しだけ童心に帰るというか。……サイズあるか? あったぁ♪ よし、これは買いだ。


 そんな風に、一喜一憂しながら売り場を回る。

 そして五分ほど回ったところ、そいつは目の前に現れた。


「…………ッ‼」


 ……紐だ。

 圧倒的に、紐。

 いわゆるセクシーランジェリーというもので、それは、装着しているのに脱ぐことを想定そて使うという、矛盾を孕んだ職人の装着物だ。


「……ごくり」


 前回の下着屋では、さんざんツッコミを入れて終わったが。

 しかし……、今の私はどうだ⁉

 コースケという異性と、セッ……、セッ……、…………を、して。あやつも私も、そういう快楽があるということが分かったわけで。そしてこの先も、求めてもいいという流れになったわけで。

 そういうとき。

 こういうものの方が。


「よっ……悦ぶ……のだろうか……っ」


 何度も言う。紐だ。

 何にも隠れてない。隠す気もない。なんなら、ちょっと頑張れば引きちぎれてしまうくらいの耐久度しかないだろう。

 だけど。だけどだけど、だけど――――


「コースケに……、これでせまったら……」


 頭の中をピンク色が支配する。店内は上品な木造りなのに、脳内は下品なこづく――――


「いかんぞ私!」


 自身に活を入れ、正気を取り戻す。

 いかん。どれくらいの時間ここに立っていたのだろうか。

 気づけば紐下着を持ったまま、わりと時間が経過していた気がする。そろそろ二人の様子を見に戻らないと――――


「わぁアリぴ。それ着るん~?」

「着るというのかえ……? わらわが選ぼうとしておった、マイクロビキニよりも面積が無い(・・)が?」

「‘*++L<P$A#=“~%+~‘:C$&~~~~~~ッッッ⁉⁉⁉」


 眼前に。二人が居た。


「うぎ……、ぎ……、」

「おぉ、顔が真っ赤じゃ」

「うん。んで、今度青くなった」


 ぽすんと、ゆっくり紐を売り場に戻す。

 そしてすたすたと二人へ近づき、ふぅと息を吐いた。


「む――――」

「「む?」」

「――――昔、友人にも言われたことがあってね。恋愛に限らずだが、私のコミュニケーションは直線的なのだと」

「直線的ねぇ?」

「たしかにのう。下手に隠し立てはせず、真正面からなんでもかんでも受け止めるのうアリスは」

「そう、剣の道も一緒だ。騎士道精神には欠けるが、たまには正面から撃ち合うのではなく、タイミングをずらし、相手の隙を誘う戦法も必要になってくるわけで」

「ふむふむ?」

「必死じゃ」

「だからこう、たまには直線的ではなく、湾曲的にいこうという……気持ちがあってだね」

「なるほどぉ。その結果がぁ」

「エロ下着じゃと」

「~~~~~~……ッッ!」


 ……言い訳は失敗しました!

 あぁそうさ! エロ下着でコースケを誘惑してみたかったんですよーだッ! 悪かったな、似合わないことをして!


 頭を抱えてうずくまる私に、しかし二人は笑いながら続けた。


「……いいんじゃん?」

「……は?」

「もっとこーいう、えぐめなの着ていこぉぜぇ☆」

「そうじゃのう。アリスの肌はかなり綺麗じゃ。わらわこっちの色が合うと思う」

「色っつーか、透けっつーかだねぇ」

「きみらね……」


 げんなりする私を他所に、当人そっちのけで当人用のエロ下着を選ぶ彼女たち。

 そして。

 こちらをちらりと見て、口を開く。


「アリぴがあーしらを知ってたよぉにぃ、」

「わらわも、十分ぬしを知っとるからのぅ」

「――――」


 たかだか休日の一幕。たかだか買い物。たかだか、エロいアイテム。

 だけどこの光景は。

 色々な意味で、忘れられないものになりそうだった。




「……ちなみにコーにゃん、たぶんこ~いうカタチ好きっぽいよ」

「Oバックとはまたマニアックな……。くそっ……」

「お買い上げしおったわい」









【読者の皆様へ】

 現在毎日更新中!(毎朝8時ごろ更新)

 次回の更新は、12月 29 日になります! お楽しみに!

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