3.お色気回(未定)
まぁ先述しておくと。
この四か月の間に変わったのは、立場や仕事だけではなく。
俺と、みんなの関係性も変化した。
まぁぶっちゃけ、全員といたしている。勿論合意の上で。
「……ふぅ」
「いい湯だね、コースケ」
あれからなんだかんだあって。
ヒナの「ぶっちゃけヤりてぇんだけどぉ♪」という言葉から、「では私も」「わらわも」「あーし……はまた今度でいいや♪」と雪崩式に押し寄せてきて、ベルのためのハーレム≒俺のハーレム(?)は成立した。
だからこうして。
お互いの肌を見せ合うのは、だいぶ慣れたもので……。
「湯につかるというのはいいことだね。日ごろの疲れが取れていくよ」
「…………」
背中越しに声が聞こえる。
「私は最近どうしても肩に疲れが残りやすいからな。全身を脱力できる空間というものは、とてもありがたい」
「……………………」
動くたびに波が起こる。
「きみも……きもちいいかい?」
「……………………、………………」
いや慣れないです! 強がりました!
どんだけ肌を重ねようが、さりとて四か月。こんな美人の全裸に慣れる方がおかしいよね。
かなりの面積を持った大浴場。そこに二人で並んで浸かる。
ここに流れている湯は天界の魔力が混じっているらしく、浸かっているだけで怪我や疲労が回復していくらしいのだが、俺の精神は全然落ち着かなかった。
「はぁ~…………、気持ちいい……」
「……ん」
魔力が流れているためか、湯は基本的に濁り湯だ。濃い白濁水なので、浸かっている部分は見えない。
互いに胸元まで浸かっているため、見えてはいけないところは見えていない。だが、伸びをしたり身体を揺らしたりする度に、湯の浮力と共に波打つ胸元に目が吸い寄せられてしまう。
そうでなくとも、紅潮した頬や肩口、顎や首筋を伝う水滴、水気を含んだブロンドの髪などに、色気を感じずにはいられないのだ。
……というか。脱衣所から湯に浸かるまでに、ガッツリ見てしまっているからこそ、余計にドギマギするのかもしれない。
「フライングして先に湯に浸かってしまったが、体を流しに行こうかコースケ」
「…………おぅ」
何度も言うが。ここの湯は濁り湯で、現在は浸かっている部分は見えていない。だが、湯から出れば当然、遮る水は無くなるわけで。
「謎の湯気が舞うのが、見える見える……」
「ほらはやく。こっちに座れ」
濃い湯気の渦巻く中。俺は前を隠しながら、全裸で堂々と待つアリスの元へと向かった。
「では、背中を流そう」
「……うっす」
一糸まとわぬ彼女の身体を、背中に感じる。
触れられているのは手だけなのに、背後に全裸の美女がいると分かっただけで心臓が高鳴ってしまう。
「…………、」
というか、アリスもアリスだ。
平然と構えてはいるものの、もしかしたら彼女も俺と同じような心境なのかもしれない。
そもそもアリスは、俺の性格を好きになったのではなく、俺のこのぽっちゃりボディ(超都合のいい解釈)を好きになったというのだから。
ここは確かにみんなが使う公共の場所だが、好き合っていて、何度も肌を重ねた二人なのだ。この場でいたしてしまっても、何ら問題は無いのではなかろうか。
ぐるぐるめぐる考えは、冷静さを溶かす。
彼女の息遣い。彼女の視線。彼女の手触り。彼女の温もり。
湯気と水気と高まる体温に、俺の理性は、もう限界を迎えていた。
「ア、アリス……」
俺が、いたそうという提案をする瞬間だった。
アリスは俺の背中に手を当てたまま、「あぁすまない」と、平常時と同じような声を出した。
「この状況だ。私がきみに欲情し、性的なことをせがむんじゃないかと心配しているのだろう?」
「……へ?」
「安心しろコースケ。私はこう見えても、節度の守れる女だ。お疲れのきみに無理やり迫るほど、情欲に支配されはしないさ」
「……あ、いや、そのですね」
「安心したかコースケ? 大丈夫だぞ。力を抜いて座っていろ。きみの身体は、しっかりと私が綺麗にしてやるから」
「……あ、ありすさん……、あの……」
「うん。いい体つきになってきた。ぷよぷよの情けないところも残しつつ、その内側から筋肉もついてきていると見た。さぁて、自分の剣を磨くのと同じように、きみの汚れもしっかり落としてやるからな!」
「…………あ、はい。…………オナシャス」
…………。
……言い出し辛ッ!
お前は満足かもしれないけど、俺の性欲はどうしようかねえ⁉
アリスさんは情欲に支配されない女かもしれないですけど、俺は情欲に支配される男なんですけど⁉
「よし、それでは次は前だ! こちらを向けコースケ!」
「いやぁぁぁぁ~~~~っっ! 見ないで! アタイの汚れた心が反映された前なんて、見ないでぇぇぇぇ~~~~っっ‼」
「なにを旦那に浮気現場を発見された人妻のようなリアクションをしているのだ。いいからこちらを向くんだコースケ。前をしっかりと洗わせろ」
「だめぇ! 汚れてるのぉ! 身体も心も、脳の中まで汚れっぱなしなのよぉぉぉ~~~っっ‼」
この間まで童貞だった四十歳のオッサンとしては。
アリスの騎士道精神は、あまりにもまぶしすぎたのだった。
「なんじゃ、そんなことがあったのか」
「はは……。とてつもなく大変だった……」
同じ週の日。
任務を終えて帰宅すると、ロビーでベルがくつろいでいたので、一緒にリラックスタイムとしゃれこむ。
長い黒髪も白い肌も、いつものように調子がいい。前は見ているだけでドキドキしていたが、どうしても強さが安定しない以上、安心という感情の方が先に出てきてしまう。
「大丈夫じゃぬしよ。ワシはどれだけ弱くなろうと、存在が消滅したりはせん」
「そうなのか?」
「ニンゲンで言う、ちょっとひどめの腰痛みたいなもんじゃな」
「それだって、人によってはキツいんだぞ……」
主に俺とかな。
とても腰が痛い。肩も痛けりゃ膝も痛い。おまけに頭は悪い。
「むぅ、そうなのか? それではそうじゃのう……。マッサージとやらをしてやるか」
「俺、まだ死にたくはないんだよ。ほら、せっかく童貞捨てたんだから、もうちょっと生きて見たくなったっていうかさ。人間、欲が出てくるよな……。死ぬ前に一度、ルーチェくらいの子にオギャり散らしてみたかったんだけど……」
「何を突然面白い性癖を暴露しとるんじゃ。なあに安心せい。今のワシはかなり力が弱まっておる。マッサージをするのに、かなり適しておると思うぞい?」
「そ……そうなのか?」
「そうじゃぞ。果実も握りつぶせんほど弱っておる」
「普通の人は果実を握りつぶせないんだよ。……でもまぁ、そういうことならやってもらうかな?」
ごろんと絨毯にうつぶせになる。すると腰元に、むっちりとした太腿の感触と、彼女の体重を感じた。
「それでは……いざっ!」
「おぉ待て待て待て待て」
「む……なんじゃ?」
「えっちな感触で頭回って無かったけど、今お前、めっちゃ力入れようとしただろ?」
「思い切りやった方が気持ちよいじゃろ?」
「一般の人はな。だけどお前は一般でもヒトでもないだろ? そうすると俺の肩はブロック崩しみたいに崩壊するんだよ。アンダースタン?」
「なるほど。あんだーすたんじゃ」
そうかえと、後頭部に声がかかる。
よし、分かってくれたみたいだ。
「張り切らなくていいんだ、ベル。お前の気持ちは十分伝わってる。俺を回復させたいんだろう。だったら話は簡単なんだ。卵だ。俺の肩を卵だと思って掴むんだ。アンダースタン?」
「うむ、あんだーすたん」
そう言ってベルは、ぎゅっと、俺の肩に力を入れた。
「――――オッ⁉」
「うむ?」
「と――――取れてない⁉ 俺の肩……はっ、あ、ある……」
「当たり前じゃ。あるに決まっておろう」
「いやいやいやいや待て待て待て待て、ベルさんベルさんベルさん!」
「うむ、ベルアインじゃ」
「大変なことだよ⁉ 今の一揉みで、俺の肩ぶっ壊れたかと思ったよ⁉」
「そうかえ」
「そうです! 卵! 卵って言ったじゃん!」
「卵は割って食うものじゃろ? じゃから、そういう意味じゃと解釈しました。フフン♪」
「たのしそう⁉ 人の肩破壊しかけておいて、フフン♪ はサイコパスですよベルさん!」
駄目だ! コイツの前で例え話を使ったら駄目だぁ!
「じゃ、じゃあもう、肩はいい。大丈夫だ。ある意味ぬいぐるみみたいにぐにゃぐにゃになったから……。次は腰を頼もうかな……」
「うむ、腰じゃな。時にコースケよ。人間の腰は何段階くらい曲がればいいんじゃ?」
「お前の今の身体と一緒だよ! 一段階曲がれば十分なの!」
俺を可変式ロボットにでもする気かこいつは。
最終的に、身体部分に顔が収納できるようになったりしてなァ! 怖いねェ!
「ふむ、では次は、どういう動きにしようかのう?」
「え、えっとな……。そうだな。それじゃあ、撫でてくれ」
「撫でるとな? それしきで良いのかえコースケ?」
「たぶんそれで大丈夫だ。それくらいの力が、丁度いいと思うんだ」
「ふむ……。難しいのう人間の身体は」
「自分だって今は人間の身体なんだから、それ基準で考えてくれれば――――あぁいや、なんでもない! お前準拠で考えたらだめだ!」
ガワはヒトでも頑丈さが全然違うんだった。
危ない。また酷い目に遭うところだった。
「すりすりって感じて、撫でてくれればいいから。な?」
「うむ。それではちょっと体を移動させて……と」
「うぉ……」
これまたむっちりとした太腿の感触が。今度は足付近に。こいつ今日は体温高いから、なんか地肌に触れてるだけで気持ちいいなぁ。柔らかさが五割増しで伝わって来るって言うか……。
「それっ」
「んぉぉ……? おぉ……、撫で……撫でられている……」
「こういうのでいいのか?」
「おぉ……、まぁ……」
良かった。今度は普通の『撫で』だ。拍子抜けするくらい普通だ。
ぶっちゃけ気持ち良くもなんともないのだが、このまま続けてもらって、満足感を得てもらおう。それにこうして触れられてるだけでも、ベルの体温を感じられて嬉しくなってくるし――――ん?
「ちょっとずつ、振動を与えてみるかのう」
「ベルさん……⁉」
「うむ、ベルアインじゃ」
「お前その返し気に入ったのか⁉ ……え、なに⁉ 何のアレンジ加えてる⁉」
「なぁに、撫でじゃ。ただそこに、ちょっとした高速振動を追加してみた」
「なにやって……おぉぉッ⁉ おほっ、ほぉう⁉ おぉぉぉンン⁉」
これあれだ! 工事現場で地面耕すヤツだ!
こいつ、手先を高速で上げ下げするだけで、ランマーを再現しやがった⁉
「あがっ……! あがががががっ……⁉ べる、べるさんんんんんッッ……!」
「おっ、今度は気持ちよさそうじゃわい♪」
「おんぷじゃないよ、ぜんぜんだよよよよよよっっ⁉ あぁッ⁉ 腰が! 腰がなんか、体の正中線より前に押しやられてる気がするよ⁉ おぉぉぉぉン⁉」
「む、よいことか?」
「よくないわい⁉」
どこがパワーダウンなんだ⁉ むしろこれでパワーダウンなのか⁉ うちの嫁(の一人)ヤバくない⁉
「クァハハハ。我が主さまに満足してもろえたようで何よりじゃわい」
「お前には世界がどう見えているんだ……。明らかにお前の主さまは苦しんでいただろう……」
腰と肩をさすりながら身体を起こそうとする。
しかし身体を起き上げることは出来なかった。
「クァハ」
「……ん?」
ベルは再び、横たわった俺の背に体を預けてきて。先ほどまでの快活な声とは違った、――――妖艶な声で囁いた。
「今度は……ワシも満足させよ」
「お、おまえ……」
「クァハ♪」
くるると喉を鳴らす肉食獣。
ビスチェの質感と、その内側に詰まった柔らかさが、俺の煩悩を刺激する。
まったく。
リラックスしにきたはずなのに、どうしてこうなったのやら。
結局、疲れは回復し。
そして新たな疲れを蓄えて、俺の休憩時間は終わったのだった。
【読者の皆様へ】
現在毎日更新中!(毎朝8時ごろ更新)
次回の更新は、12月 28 日になります! お楽しみに!




