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第七十四話 歌人の剣

 アルドベルは魔法弾を撃って私を牽制しながら後退した。


 彼が元から逃げるつもりなのは分かりきっていたので、私は剣で全て弾きながら接近した。

 足止め用に魔法弾を撃ちこむ。しかし彼はそれを造作もなくかわした。その滑らかな動きに彼が相当戦いに慣れていることが分かった。


 だがそれでも逃げる速度は遅くなるものだ。


 その隙を逃さず、私は彼の脇に飛び込んで剣を振るった。背面を向いているアルドベルの脇腹を抉ろうとした剣は、彼が瞬時に振り抜いた剣に防がれる。


 金属のぶつかる音が響く。


 私の攻撃を受け流した彼は、切り返しに私の急所を狙った。それを紙一重で躱し、追撃されないように風魔法で彼を押しやった。

 彼は少しバランスを崩したようで、私が飛びのいても追ってこなかった。


 そこで一度息を吐き前方を見る。

 目の前のアルドベルは息を乱すことなく静かに剣を構えていた。


 先ほど話していた時の動揺は見られない。フィオ達のようにすぐに捕まえられると思っていたが、一筋縄ではいかないようだ。


 油断なく私の足元を見ているのは熟練の剣士であることを物語っている。



 ならばと、私は直線的な移動をやめて緩急をつけた移動で彼の動きを乱すことにした。


 小走りに近づいたと見せかけ、迎撃用の剣が振るわれる前に移動を止めて攻撃をかわす。そしてその振り抜いた軸足に蹴りを出す。


 足を払われた彼の顔が勢いよく地面に向かう。

 その首筋に向けて剣を振り下ろすが、彼を捉えることなく空を切った。



 常人の人間とは思えないほどの速さで体をよじり、そのまま勢いを殺さずに真横に跳んで行ったのだ。


 そして地面で軽く一回転した後は、何でもなかったかのように悠々と立ち上がった。


 それを見て私は長い息を吐いた。


 想像していたよりも彼の身のこなしが軽い。


 私の攻撃をここまで避けきる人間はまだ一人しかいない。それは私を一人前に鍛えてくれたストニアだけだ。



 ……誰も連れてこなかったのは正解だったかもしれない。他の王国兵達では足止めもできずに殺されていただろう。


 そう考えていると、アルドベルは口角を吊り上げながら徐に言った。


「そのなりで中々鋭い攻撃だ。さすがは国の英雄。僕の部下をあっさり捕まえたのも頷けるなっと」



 アルドベルは私の攻撃を弾きながら余裕の笑みを見せた。しかし、目だけは笑っておらず、油断なく私を見つめている。



「貴方も、私の攻撃を軽く避けるなんて想像してませんでした。その剣、どこで覚えましたか?」


 私は攻撃の手を一度止めて質問した。数度打ち合って気付いたのだ。彼の攻防の型は私のものとよく似ている。


 魔法剣士はそれぞれが戦闘の型というものを持っているものだ。



 弟子は師の戦い方を良く見て模倣する。そしてそれが馴染んでくると、自分なりの型が出来上がる。

 時折全く異なる戦い方になる人間もいるが、ほとんどは似たような型に落ち着くものなのだ。


 私の型は師であるストニアの戦い方を吸収したものだ。


 もちろん、彼女に教えを乞うたエイン王女や、王国の魔法剣士達も似たような戦い方をするが、私のものとは少しずつ異なっている。


 だが、目の前に立っているアルドベルは私の動きと寸分も狂わないほど似ていた。



「これは我流で覚えたよ。ま、一度見たことを見様見真似で模倣したものけどね」


 アルドベルは私の突きを弾き、後発で打ち込んだ魔法弾も全て避けた。


 その滑らかな動きは、ストニアと戦っているかのような光景を連想させる。彼がストニアと面識があるはずない。



「あなたは、まさかストニアさんから教えてもらったのですか?」


 疑念を払うべくアルドベルに質問をぶつけた。

 だが彼女の名を聞いた瞬間、彼は目を見開いた。


「僕の前で……その名を口にしないで欲しいな。はらわたが煮えくり返そうだよ!」


 突然の怒気を孕んだ声にたじろぐ。その間に彼は俊足とも呼べる速度で詰め寄ってきた。


 反応が遅れた私は、とっさに横に薙ぎ払われた剣を受け止める。今までで一番重い一撃に、魔力強化しているはずの私の腕が悲鳴をあげる。


 だがどうにか踏ん張って持ち堪えた。全力で私を切り飛ばそうとする姿が視界一杯に広がっている。


 私達は互いの息がかかる距離で見合った。

 間近で見る彼の目は鋭く、そのまま射殺さんばかりだった。先程までの爽やかな表情は見る影もない。



「貴方は何者ですか? 何をしようと言うのですか?」



 私は彼の剣を全力で弾いたところで聞いた。しかし、彼から答えはなく代わりに強力な魔法弾を撃ってきた。


 威力の底上げされた魔法弾は、直撃すれば私のマジックアーマーを破壊できる威力があった。

 弾くのは無理と瞬時に判断した私は、魔法弾を空へと転移させた。


 打ち上げられた魔法弾は、消えることなく空えと昇って行く。それを見上げていたアルドベルはすぐに視線を戻した。


「僕が何者か……か。それくらいなら教えてあげるよ」


 彼は不適に笑い、両手を空へと広げて言った、



「僕は誇り高いケニス小国の王子アルドベル。そして、この世界を破滅へと導く復讐者だよ」

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