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第六十二話 少女達の交錯

「もしかして、エメリナさんのお菓子が食べたいとか考えてますの?」


 シェリーは心底驚いた表情で言い、まじまじと私の顔を見つめた。そこには私の驚いた顔が映っていることだろう。



 当然だ。シェリーの言ったことは当たっていたのだ。


 私は実際にエメリナさんの取り寄せる銘菓のことを想像していた。


 しかしそうなると、ある疑惑が浮き上がってくる。



「……魔核を融合させたことで、私の意識がシェリーの方に流れているのでしょうか」


 シェリーの感じた胸騒ぎや感覚は、私が目覚めてから感じたものかもしれない。


 状況だけで推察すると、意識の共有が起きている可能性が考えられた。



 私の疑問にシェリーだけでなくジークも首を捻った。


「魔核の融合自体が史上初のことですから、何が起きてもおかしくはないでしょう。それに、魔核は第二の心臓とも言われていますので、可能性はあると私は考えます」



 ジークはそう言って腕を組んだ。


 その仕草を見て、不思議と胸が高鳴った。

 鼓動が少し早くなる感覚と共に、胸が熱くなる感覚がやってきた。


 横目でシェリーを確認すると、彼女はジークに見入っているのが見えた。



「……シェリー、もしかしてですが、ジークのこと、かっこいいって考えてますか?」


 私の質問にシェリーは大きく体を震わせた。同時に、私の脈が一気に揺れ動くのを感じた。



「ななな! そ、そんなこと、私考えてませんわ! リジーの思い過ごしでなくって?!」


 大げさに手を当てて笑うシェリーを見て確信した。彼女は嘘を言っている。離れていても彼女の鼓動をはっきりと感じた。



 間違いない。私とシェリーの間で意識の混濁が起きている。


 これが二人の魔核融合による影響なのだろう。それならいくつか確認しないといけませんね。

 結論にたどり着いた私は、未だに笑っているシェリーに言った。



「これから少し確認したいことがあるのですが、少し胸を見せてもらってもいいですか?」


 彼女は慌てて手をバタつかせていたが、急に止まって目をまん丸にした。


「はえっ! む、胸を? ど、どういうことですの?」



 私は落ち着いて彼女に説明した。二人の間で意識の共有が起きていること、これからどう対応するのか検証したいということ。


 初めは慌てていた彼女も、次第に真剣な表情になって頷いていった。


 意識を飛ばせば、話さずとも会話できることも可能で便利ではあった。

 だが、個人の趣味趣向のがダダ漏れになるのはよくない。


 その結論に至った私達は、互いの魔核の状態を調べて検証を始めたーー




「これでひとまずは意識が混ざらなくなりましたね」

「ええ、少々不憫ですが、これもお互いのためですわね」


 私達は互いに頷きあった。

 暫く検証して、ようやく意識の共有が起きない方法を見つけたのだ。


 それは一時的にシェリーの魔核の接続を切断することだった。


 というのも、再構築したシェリーの魔核は、私から魔力供給を受けて今も形を保っている。

 実は、その繋がりが互いの意識を共有する流路となっていたのだ。


 ただ、私からの魔力供給が完全に途絶え彼女の魔力が尽きると、その魔核は自然に瓦解することになる。


 そこで、ある程度纏めて魔力を渡し、少なくなってきたら再度供給する。

 そしてその間は魔核の接続を切る、と言う結論にたどり着いた。


 もちろん、それは私が生きている間の話だ。何かの拍子で私が死ぬことになれば、シェリーも道連れにしてしまうだろう。


 そのことを詫びると、シェリーは笑って言った。


「私はもとより死ぬはずだった身です。それに、貴女と共に死ねるのなら、何も怖くはありませんわ」


 シェリーはあっさりと受け入れた。

 即死の呪いを経験した彼女は少し図太くなったようで、多少のリスクは目を瞑ることもできるようだった。


 私達は文字通り運命を共にする関係になった。そこに余計な言葉は必要ない、とシェリーはとびきりの笑顔で言ってくれた。



「ありがとう、シェリー」


 今度は私の方からシェリーに抱きついた。彼女も何も言わずに腕を後ろに回す。



 正直不安で堪らなかった。助けたはいいが、それで彼女の生活がままならなくなり、非難されるのが怖かったのだ。


 それでもシェリーは笑っていた。何故かは分からなかったが、それだけで、何か許されたような気持ちになった。


 シェリーは私の一番の親友だ。こんな距離感も悪くないですねーー



 それからしばらく無言で抱き合っていると、ジークがそっと話しかけて来た。



「そろそろ夕食の時間です。こちらの部屋まで運んできますので、少々お待ち下さい。シェリー様もこちらでお召し上がりになりますか?」


 私から少し離れたシェリーは大きく頷いて返事した。少し頬が赤いのは言わないでおこう。


 外を見るとすっかり暗くなっていた。まるで、夢の中で見た景色のような……。



 その瞬間、全てを思い出した。

 死者の世界で、先生や殿下と話したこと。それからこの国で起きていること。


 キンレーン殿下はエイン王女の女中のフィオに操られていた。そのために護衛騎士達も支配下に置いていたーー


 驚くほどの情報が一気に駆け巡っても、私の頭は冷静にその全てを処理した。

 夢で見た内容、それは先程ジークに説明を受けた内容と一致している。



「あっ、リジー! どこいくんですのー!」


「陛下のところに行く用事ができました! シェリーはエメリナさんのところで待っていてください!」


 私はベッドから飛び起きて駆け出していた。

 陛下の意識があるなら伝えなければならない。そう考えると体が動き出していた。



 塔の階段を駆け下りている最中、寝巻き姿のままなのに気付いた。だがそれを気にしている場合ではなかった。



「リジー様、お体が冷えますのでこちらをどうぞ」



 後を追ってきたジークは厚手の羽織りを持ってきてくれた。


「ありがとう。それから、杖を持ってきてください。戦闘の可能性があります」

「っ! 承知しました!」


 受け取った羽織りに袖を通しながらジークに指令を出した。ジークは一瞬驚いたが、短く返事をするとそのまま戻っていった。

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