第六十三話 王の再会
国王の居室は四つある塔の一角、その最上階にある。
私の部屋も塔の最上階なので、国王の元まではそれなりの距離がある。
私は荒い息を吐きながら階段を登っていた。いつもよりずっと疲れる。
三日も寝込んでい体が鈍っているから当たり前だ。
しかし、今はそんなことは言っている場合ではない。敵が、まだ国内にいるかもしれないのだ。急がなければ逃げられてしまうかもしれない。
「はぁ、はぁ……」
肩で息押しながら階段を登り切ると、通路の先に国王の居室が見えた。
両手を膝に当てて、疲れた体を少しだけ休めた。さすがに息も絶え絶えに突入する訳にはいかない。
「リジー様? よかった、お目覚めになられたのですね!」
前方から声がして顔だけあげると、ジェットが小走りで駆け寄って来ていた。
どうやら部屋の外で待機していたようだった。
「私は大丈夫です。それより、今は陛下に急ぎ伝えることがあります」
「……かしこまりました。こちらへ」
ジェットは少し返答に詰まったが案内してくれた。
「国王陛下、リジー・スクロウ様がお見えになられましたので、お通しいたします」
しばらくするとエイン王女の声が返って来た。
「分かった。開けてくれ」
ジェットに案内されて中に入ると、質素な部屋が目に飛び込んで来た。応接用の机と椅子。壁際には分厚い本が詰め込まれた本棚が一つあるだけだった。
以前寝ぼけて入ったことはあったが、その時のことはよく覚えていない。だが、国王の部屋でこんなに何もないのには驚かされた。
元々が軍人気質な王であるため必要最低限のものだけを置いているのだろうか。
薄ら考えながらジェットの案内に従って進んだ。
部屋の奥に進むと、ベッドに国王が腰掛けているのが目に入った。以前見た時よりも十歳は老けたようにやせ細っている。
彼の近くにはエイン王女も腰掛けていた。
「リジーか、目が覚めたんだなって、その格好は……一体、どうしたんだ?」
彼女は私の寝間着に羽織姿をまじまじと見ながら問いかけた。
国王に寝間着姿で会いに来る部下もいないだろう。報告より先に非礼を詫びたが、国王は軽く笑って許してくれた。
「いや、よい。そなたに詫びねばならんのはわしの方だからな」
そう言うと陛下は頭を下げた。
「戦争を被害なく鎮め国を救ってくれたこと、厚く感謝する」
顔を上げた陛下は鋭い目で私を見つめた。体は弱ってはいるが、威厳は衰えてはいないようだった。
私は畏って礼をする。
王子にはかなり無礼を働いてしまったので、償いも込めていつもより丁寧に返した。
「さて、挨拶もそこまでにして要件を聞こう」
国王は柔らかい表情で私を見ていたが、すぐに威厳ある顔つきに戻った。
「目覚めてすぐ、着替える間も惜しんでやって来たんじゃ。何か急がねばならないことがある。そうであろう?」
陛下の察しが良くて助かった。私は内心そっと息をはいて語り始めた。
「はい、実はーー」
私は夢で王子に会ったこと、神ハイドの力のことを伝えた。三人とも最初は驚いていたが、現実に起きていることと辻褄が合うこともあって真剣に耳を傾けた。
「まさかフィオが! いや、しかし……」
一通り説明を終えると、王女は自分の女中が黒幕だと聞いて絶句したように言った。
「信じ難い話だ。が、恐ろしく現実と合致している。それに、神ハイドの力が本物であれば、それは疑いようのない事実だ」
陛下も難しい顔をして唸った。
私も未だに半信半疑でいる。だが、それは余りにも現実に即しており、夢と切り捨てることはできなかった。
「私は夢で会ったキンレーン様を信じます。しかし、疑念が残るのも最もです。ですので、一度フィオさんと話す必要があると思います」
疑わしいなら調べるしかない。私の提言に陛下は頷いた。
「うむ、それが妥当じゃな。ジェットよ、フィオを呼んでくれぬか?」
私達の話を聞いていたジェットは一礼をすると部屋から出て行った。
これで夢の真偽が分かるだろう。そう考え、待つ間に体を休めることにした。
しかし、事態は悪い方に向かっているようだった。
暫くすると、ジェットが息急き切って一人で戻ってきたのだ。
「陛下! フィオが自室におりません! それどころか、彼女の荷物が全て消えております!」
「なんだと!」
「なに!」
陛下と王女は同時に反応した。陛下の目に鋭い光が宿った。
「すぐに兵を出せ! 厳戒態勢の中外出した名目で捜索せよ!」
陛下は怒りを孕んだ声でジェットに命令を飛ばした。




