表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
志望業種は――魔法少女で!  作者: 竹内緋色
the 3rd show
61/90

10th contact ぎもん

10th contact ぎもん



 男の胸には深々と剣が刺さっていた。心臓を一突きしたので、碌に話せないはずだった。

「それほどの力をもってして、君はなにをなそうというんだい?」

 男の口から真っ赤な血が一筋流れる。けれども、その顔は普通の時と変わらないであろう笑顔だった。

「わたしはただ、復讐をするために戦っている。そのためなら、人殺しだって厭わない」

「そうか。君にはそれほどまでに成し遂げたい何かに出会ったんだね。それはきっと、君にとってとっても大事な日々――」

 わたしは思い切り男の胸から短剣を引き抜いた。ぶしゃり、と奇妙な音を立てて、傷口から赤い血液が飛び出す。バケツをひっくり返したような量に少々驚いてしまった。

 霧状になって降りかかる血液がわたしの頬を濡らす。

 わたしは生まれて初めて人を殺したようだ。

 けれども、何とも思わない。取り返しのつかないことをした、とか思ってもいいはずなのに。

「そうですわね。わたくしは初めから狂っていたのでしょう」

 死体などには用はないので、わたしはそのままその場を去った。


「おい、マリ。返事をしろ!」

 戦姫が強制的に解除される。一度戦鬼を使ってしまうと一定時間は変身が不可能となってしまう。私は必死で走りながら、ウォッチで連絡を取る。

「おい!マリ!マリ!」

 最悪の結末が頭をよぎる。もし、戦闘中であっても何かしらの連絡は取れるはずだ。何の連絡もないということはつまり――

「このまま私が行ったところで何になるのか」

 変身できない私がマリの窮地に駆け付けたところで何もできないに違いない。

「けれど――!」

 私はリナに連絡をする。

「リナ。マリはどうなっている」

 リナには状況を見計らってどちらかのバックアップに入ってもらうはずだった。私の戦鬼は一対一の結界なので、リナにはマリのバックアップを優先するように言っていた。

「マリと連絡が取れない。どうなっているんだ」

「すいません。わたくしがちょっとしたトラブルに巻き込まれまして。わたくしも向かっているところですわ」

 ウォッチで二人の居場所を確認する。リナの方がマリと近い。

「急いでくれ。リナ。マリが危ないかもしれない。それに、私は戦鬼を使用して、早く向かえない」

「わたくしも戦鬼を使って早くは向かえませんが、あと数分で到着します」

 リナほどの能力を持っている魔法少女が戦鬼を使わなければならないトラブルとは一体何なのだろうかと私は疑問に思う。別の魔女の介入か。ともかく今はリナが無事であると知れただけで安心だった。

「おい、マリ。大丈夫――か?」

 マリのもとに駆け付け、リナの腕の中でピクリとも動かないマリを私は見た。

「うっ。うぅう――」

 死んでしまう。大切な人が、私の目の前から、消えて、しまう――

「うぅあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」

 夜空お姉ちゃんのことが頭の中に過る。私はまた、失う。誰も救えない――

「落ち着いて。セラ。まだマリは息がありますわ。今、救護の要請をしています」

 私は荒ぶる心臓の鼓動を、深呼吸することで無理矢理落ち着ける。でも、苦しい。

「なあ、リナ」

「なんですか?」

 私は血に濡れたリナの体を見る。血に濡れているのはマリの方かと思ったが、よく観察すると、マリの衣服には血がにじんでいなかった。

「お前、けがをしたのか?」

 そうでないことはよく分かっていた。何故なら、リナの服にかかっている血液はどう考えても致死量に達しているからだ。白かったドレス調の服が染め上げられたかのように真っ赤だった。

「いいえ。人を一人殺しましたの」

 笑顔で言うリナに私はゾッとする。何一つとして悪いことをしたとも思っていない姿に嫌悪感がこみ上げる。

 戦姫を纏っている時のリナの凶暴性からすると、戦鬼となった場合どれほど残酷な存在になるかは私にも分からなかった。けれど、戦姫の呪縛から解き放たれた今でも、後悔や怯えがない様子を見ると――

 コイツは悪魔なのか。

 そう思わざるを得なかった。

「殲滅部隊のみなさん!応援に参りました!」

 3名ほどの魔法少女が箒に乗って私たちのもとに降り立つ。

「マリをよろしく頼む」

「はい!」

 魔法少女たちは魔法で布を作り出し、マリを器用に包む。そして、三人でマリを運び始めた。近くの大型病院であると、逃亡者の仲間がいたあの病院に運ばれるのだろう。

 ウォッチに通信が入る。

 魔法天使幹からだった。

『逃亡者と接触したようだね』

「マリとセラが接触しましたわ」

 答える気力もない私の代わりにリナが魔法天使に返答する。

『そうか。それで、どうなった』

「魔女と戦闘したマリは倒れ、魔法少女と戦った私は、魔法少女を見逃がしました」

 言った途端、目から涙がこぼれる。私が手加減などせず、戦鬼なしで魔法少女を倒していればこんなことにはならなかった。マリがケガをすることもなかった。

「わたくしは邪魔ものの対応をしていて援護できませんでした」

『その邪魔ものとやらは?』

「処分しました」

 悪寒に私は体を震わせてしまう。そんな簡単に人を殺したと言えるものなのか。

『そうか。ご苦労だった。君たちが戦鬼を使って戦ったほどだから、向こうも痛手を受けているだろう。後は魔法少女たちに任せるんだ。今の君たちはほとんど1日変身できないだろう。それに、新しい作戦もある。一度、落ちあおう。場所は――』

「了解ですわ」

 魔法天使は通信を切った。

「どうして、そんなに無情でいられるんだ」

 言葉を発するたびに体から力が抜けて行くようだった。

「あなたも、大切な誰かを失っているのでしょう?なら、願いのためには他人の命だって奪わなければならないことが分かっているはずですわ。それすら分かっていないというのなら、あなたは本当に甘ちゃんだったのね」

「お前は一体何のために戦うんだ」

 リナは鼻で笑う。

「復讐のためですわ。師匠が師匠なら、弟子も弟子ということですのね」

 一瞬、思考が止まる。リナの言ったことがだんだんと理解できるようになっていくと、私の思考は絶望一色で塗りつぶされていった。

「どういうことだ……それはどういうことなんだ。リナ」

「絶望の淵に立たされて、あなたがどうするかはあなたが決めることですわ。ただ、はっきりと言えることは、これから先、もっと人を殺さなければならない場面が多くありますわ。自分の願いのために誰かを犠牲にしなければならない。その苦痛に耐えられないようなら、今のうちに夢を諦めた方がいいとわたくしは思いますわ」

 リナは私を置いて、先に進んでいく。けれど、私はその場から動けなかった。

 雪が降ってきた。

 まだ、春は来ない。

 そして、もしかしたら、もう二度と春はやってこないかもしれない。

 そう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ