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志望業種は――魔法少女で!  作者: 竹内緋色
the 3rd show
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5th contact どりょく しょうり 

5th contact どりょく しょうり 



 私は朝早く道場に出かけた。家の近くにある道場である。

「おはようございます。師範」

「おはよう。セラちゃん」

 道場には細めの男性がいる。何をしているのか分からないくらいぼーっとした男性だった。その男性こそ、私のなぎなたの師匠であり、道場の師範である。本名は知らない。

「帰ってたんだね」

「はい。顔を見せようかと」

 私は道場の壁に立てかけてあったなぎなたを手に取る。

「お手合わせをお願いします」

「だから、僕は君とは戦わないって言ってるじゃないか。うん。もうどんな条件だって飲まないからね」

 だが、それは非常に困ることだった。私の姉の夜空は師範を一度倒している。なら、師範を倒せていない私はまだ姉の足元にも及んでいないということだ。

「道場は好きに使っていいよ。最近武道をやろうって子も少ないから、どうも暇でね。ただでさえ、6歳児に負けたという風評が残っているくらいだから」

「事実じゃないですか」

 夜空お姉ちゃんは6歳の時に師範を倒したという。だからこそ、なおさら私は師範を倒さなくてはいけない。

「まあ、あの時は動揺していたんだよ。色々とね」

 師範は一度も手合わせをしてくれたことはないので、私は一人でなぎなたを振るう。

 雑念を振り払おうとしているのに、湧いてくるのは雑念ばかりだった。

 ワームを倒そうとしていた魔法少女。そして、魔女。どうして二人は協力しているのか。

 そんなこと考えるまでもない。魔法少女が裏切ったのだ。そして、世界を滅びに導こうとしている。けれど――私には二人の関係がそんな風には見えなかった。まるで家族のように互いを信頼しきっているような、そんな印象を私は受けてしまった。

「そんな、バカな――」

 そんなバカな話がある訳ない。私は雑念を振り払おうと勢いよくなぎなたを振るった。勢いがつき過ぎ、なぎなたの先が揺れる。

「乱れているね」

 道場の床に座り目を細めながら師範は言った。師範はいつも目を細めているのでいつも通りと言えばいつも通りなのだが。

「なにか悩み事でもあるのかな?セラちゃん」

「いえ――別に」

 私はこれを悩み事だと思いたくなかった。ただ、一時の気の迷いだと、そう思いたかったのだ。

「それならいいんだけど。でも、もし、今後の人生で迷い悩むことがあるんだったら、いっそのこと、思い切って、迷い悩んでしまう方がいいと僕は思うよ」

「それはどういうことですか?」

 私は思わずなぎなたを振るう腕を止めて師範を見る。

 相変わらずの柔和な笑顔だった。

「ほら。よく、フォースとともにあらんことを、って言うじゃない。でも、あれって僕はただの逃げなんだと思うんだ。ただ、問題から目を背けてる。迷いを断ち切るなんて言うこともあるけど、その迷いを断ち切るためには迷い悩んだ挙句の答えが必要なんだと思う」

「考えるな、感じろ、じゃないんですか?」

「そうともいうかなー!」

 師範は頭をぽりぽりと掻いて言った。

「ともかく、セラちゃんはまだまだ人生長いんだから、ゆっくりと考えて行けばいいと思うよ」

「ありがとうございます」

 私の思考は混沌の中に埋もれていく。一体どうすればいいのか。答えは見つからない。

「おい、セラ。おるか?」

「マリか?」

 道場の外から声がかかり、私は面を上げる。道場の外からマリとリナが様子をうかがっていた。

「おや?セラちゃんのおともだちかな?」

「どうも」

「セラちゃんがお世話になってますわ」

「いやぁ、こちらこそ、お世話になってます。あ、いや、決してそういう話じゃないからね!警察だけはどうかゆるして!」

「これまたキャラの濃いおっさんやなぁ」

「それにしても、セラちゃんにおともだちができるだなんて。もうおじさんうれしいよ」

「あんま話聞かんおっちゃんやなぁ。まあ、セラにともだちがおらんって話はちょっと興味あるなぁ」

 マリは意味ありげな顔で私を見る。

「べ、別になんでもない!それより、何か用があって来たのだろう?」

「そうですわ。管制室から情報が入っていたのですけれど」

「そうだったのか……すまない。稽古に集中していてな」

 私は急いでウォッチのもとに急ぐ。バッグの中に入れていたのだ。

「すいません。師範。出て行きますので」

「またいつでもいらっしゃい」

 師範は私の背中にそう投げかけた。


『そそぎ灘商店街の防犯カメラに魔法少女フキ、魔女ピースメイカーらしき姿を発見』

「ったく、ここらにいるのは分かっとるっちゅーのに」

「この町に包囲網を絞り込むつもりだろうな」

「ちゅーかや、この町にようけ魔法少女おるんやったらウチら必要なくない?」

 私たちはウォッチの通信を確認していた。

「だが、かつて逃亡者たちは11名の魔法少女を一気に片づけた」

「けれど、それはわたくしたちみたいに訓練されていない魔法少女でしょう?まあ、その一件や魔法の性質を考えてわたくしたちの戦姫は編み出されたのでしょうけど」

「つまりは、最後はウチらでフィニッシュってことか。なかなか大変やなあ」

 マリは面倒くさそうに言った。

「けんど、結局どこにおるんかは分からんわけやろ?もう寒い中歩くんは嫌や!」

 下手くそなメロディーに合わせてマリは文句を言う。

「文句を言うな。地道な作業がものを言うんだ」

「そんな熱血刑事、今の時代はやらんで」

「じゃあ、何が流行ると言うんだ」

「そんなん知らんわな。あれや。ウチは人情ものとか好きやで」

「ほとんど同じジャンルだと思いますわ」

 だが、私もこう何日も寒空の下何時間も歩くのは身体的に辛いと感じ始めていた。特に私たちはまだ子どもで、体力はまだまだ伸びしろがあるものの、身体が大人へと変わっていく時期なので時折体調が不安定となる。体調が不安定な状況で戦闘に入れば大きな事故が起こる可能性もある。

「だが、早く逃亡者を見つけなければ――」

「せやな。じゃあ、今日は休みってことで!」

「なぜそうなる!」

 私は唾を飛ばしながらマリに言う。

「だって、今日は日曜日やん」

「投稿日が毎週日曜日になったことをいいことに、毎日が日曜日設定で通すつもりか!」

「なんやえらいツッコミやな」

「自虐かもしれませんわ」

「ともあれ、却下だ」

 はあ、とマリは溜息を吐く。

「この民主主義な世の中ではな、兵隊さんだって休日を貰えるんやで。一日くらいええやん?」

「世の中には休日返上という言葉もあるぞ」

「ブラックの権化か!ウチは仮面ライダー見るでな!投稿される頃は何編やってるんやろ。ウィザードか鎧武やろか」

 私はリナを見る。リナもまた期待した目で私を見つめている。

「仕方がない。休日くらいは認めよう。なにか追加情報があってからでも遅くはないだろうし。だが、全員がすぐに駆け付けられるように一緒に行動することとする。いいな?」

「なんや。一緒に遊びたいんやったらそう言えばいいのに。ほな、ゲーセン行こか!」

「本当に遊ぶことばかりだな!」

 だが、私たちはまだ小学生なのだ。遊びたい盛りだろう。

 私が真面目過ぎるだけなのかもしれない。

「せやせや。セラが真面目なだけや」

「心の声を読むな!」


「とはいえ、遊ぶところなど知らないぞ。ここはゆっくりと家で過ごしてだな――」

「んな陰気なこと言っとらんと、どっかいくで。せやな。ゲーセンにでも行こか。リナもそれでええやろ?」

「ええ。是非ともわたくしの腕を見てもらいたいですわ」

「ほぉ、いいよるやん。ええで。やっちゃろ」

「はぁ、仕方がないか」

 私はあまりゲームセンターなどにも行かず、そもそもに人の多い場所は基本的に苦手だった。

「さて。そうと決まれば場所を検索や」

 マリはウォッチの機能を使いゲームセンターの場所を検索した。

「そんな機能があったのか」

「まあ、販促用やな」

「でも、おもちゃにさえならないのですから、カブト×―グと同じ運命なのでは?」

「それは言うたらあかんで。ナニワでは誰もその話題に触れへん」

「日本橋の間違いだろう」

 ウォッチの検索機能でゲームセンターの場所を探し出した。

「ここがゲームセンター?」

 マリが探し出した場所は地下へと続く不気味な階段のある場所だった。ゲームセンターらしく前にUFOキャッチャーやゲームのポスターさえない。むしろ、派手な化粧のパンクバンドのポスターばかりが貼られていた。

「ライブハウスの間違いじゃないか?というか、どうどうと麻薬の取引をしてそうな場所だが」

「でも、作者は意外とパンクは好きみたいですわ。なんだか平凡な愛のことを歌ってるよりは世界を風刺するような歌が好きみたいですし」

「意外とパンクも愛とか叫んじゃってると思うぞ。それと、風刺系は本当にまれだ」

「なにをごちゃごちゃいっとんねん。ほら、いくで」

「おい、待てよ」

 私は慌ててマリを止める。

「こんな危ないところ、子どもだけでいけるわけないだろう」

「意外とこういう店がマニアックなもんおいとったりするんや。それに――」

 マリは私を上目遣いで見上げる。

「あぶのうなったら、セラが助けてくれるやろ?」

「そんなの……」

 私はそっぽを向く。

「自分で何とかしろ。自分で火中に入っておきながら私が助ける意味が分からん」

「ほんま、そこは少年ジャンプよろしくの、背中は任せろ、やろ?」

「ここ最近のジャンプはどれだけ熱くなれているのか分かりませんけど」

「ワンピースが終わるまでは何とかなるやろ。ま、今のうちに新しい何かを連立しておかんとほんまに終わってまうけどな!連載終了後の大先生の作品もこけるしな」

 そう言ってマリはさっさと下に降りて行ってしまう。

「時には信じることも必要だと思いますわよ?」

 リナははにかんでマリについていく。

「別に信頼していないわけじゃないさ」

 ただ、ふとこれまでのマリの素行を思い出すと、不安にはなってくる。

「ええい!私がいないと結局ダメじゃないか!」

 私は体を固くしながらも決意を固め、地下への階段を降り始めた。


「ここがゲームセンターか?」

 どうして普通にトゲトゲ肩パットを着込んでいる!世紀末か!化粧は80年代の未来の世紀末そっくりだ。というか、もう、自分が何を言っているのかさえ分からない!

「まあ、ハポネルツェ・ファンタシアですわ」

「違う!日本人は道中肩がぶつかったくらいで土下座はしないし、トゲトゲ肩パットだって着装しない!」

「でも、作者はことあるごとに土下座してますわ」

「将来が有望だな!営業志望!」

 ただ、未だに就職先が決まってないんだがな。

「なあ、おっちゃん。ここはどんなゲームがあるんや?」

「ああん?」

 ゲームカウンターらしき場所で雑誌を広げていた筋骨隆々とした男にマリは尋ねる。ページをめくるたび男のたくましい筋肉がぴくぴくと震えた。

「格ゲーがほとんどだ。あとはもうほとんど見かけねえアーケードもの。安心しな。競馬や麻雀ものはねぇ」

 じゃあ、この世紀末のヒャッハーたちは何をしているのか、と見ると、なんだか幼児が持っていそうなアーケードゲームのカードを持っている。

「一番人気はプリパラだ」

「時代的にそうなるんやな」

「残念ながら、FGOや艦これ、ボンバーガールが並ぶのはまだまだ先だ」

「ここに並んだゲームは人気がなくなるジンクスでもあるのか」

「まだプリチェンやないころか。作者の行きつけのゲーセンはデパートなんやけど、そこのプリチェンがすごく目立ったところになってもうてな。前はすごう隠れたところにあったのに」

「今さらながら、外伝ネタじゃないのか」

 ともあれ、私たちは格ゲーとやらの台に向かう。

「襲われたりしないだろうな」

「大丈夫や。なにせ、あのおっちゃんが読んどった雑誌はファミ通や。ええやつやで」

「いや、悪い人間も読むだろ、ファミ通」

 マリとリナは台に着く。リナは自信ありげに腕まくりをしていた。

「ほぉ、腕に自信ありとはなかなか言い寄るみたいやな」

 どこにその要素がある。

 私は周りのヒャッハーたちが気になり、それどころではない。

「腕の真ん中あたりに筋が通っとるやろ。二の腕のあるあたりから、指の先までな。それが格ゲー筋や」

 胡散臭いことこの上ない。

「でも、ウチの格ゲー筋はリナの10倍は上をいっとるで」

 マリは腕まくりをして、腕に力を込める。すると、確かに、腕の中心に深く線が現れた。

「うぉおぉ!」

 いつの間にか集まっていた世紀末たちが唸り声を上げている。

「あの高橋名人やマックスむらいが到達した神域にこの歳で到達するとは――」

 いや、高橋名人もマックスむらいも格ゲー関係あらへん。

「この勝負、俺たちはラグナロクを目にする――」

 世界終わってもうとるやないかい!


「格ゲー筋がなんだって?」

「くっ。なんでや!リナがウチより格上やったんは分かる。手も足もでえへんかった。回避からの移動を狙ったカウンター、どうやってコマンドうっとるんか分からん捌き。どれをとっても負けるんは仕方ないとおもた。でもな!なんで初心者のセラに負けるねん!」

 確かに、最初、私がマリとゲームをした時は操作などを覚えられず、技のコマンドなどと言われると頭がパンクしそうになった。何度かは負けた。しかし、徐々に勝てるようになっていき、とうとうマリが手も足も出ないというところまで完膚なきまでに叩きのめした。

「流石、零戦機を初めて使いこなした魔法少女ですわね」

「まさか、お前があの伝説の――」

「いや、そんなに持ち上げるものでもないだろう。というか、お前たちの方がどういうものかよく知っているだろう」

 戦姫プロトタイプ、零戦機。プロトタイプ最強のように言われている昨今からするととてつもないものを想像してしまうかもしれないが、実際は戦闘能力が皆無な実験機だった。まだ、しっかりとした戦姫が完成していない時にデータ採取用に使用させられたものだった。実験用なので強大な力はなく、ただただ使い辛いというだけの代物。何もかもがマニュアル仕様であり、一から自分に合わせて魔法のコマンドをチューニングしたりタイミングや出力を調整しなければならなかった。恐らく、使用者の最も戦いやすい戦い方ができる、白紙の魔法少女みたいなものなのだろう。しかし、使いこなすには適応力とかなりの時間が必要だった。

「なんで技使わずに勝てるねん。というか、どうやったらウチの必殺技かわせるねん」

「そういう風に作られているからだろう」

 戦姫はプロトタイプから得られたデータをもとに真逆の方向性を突き詰めた魔法少女だった。つまり、全てがほとんどオート化しているのだ。能力を限定、固定し、それだけを極めさせる。故に発展性や成長性は見込めない。だが、それで十分なのだ。ただ、殺すためだけにある兵器は――

「くっ。次までに新技を編み出すで!」

「ふん。楽しみに待っているぞ」

「くそっ。一猪口前にライバル面しよって!次こそは負けへんで!」

 悔しがってはいるものの、マリはどこか楽しそうだった。勝っても負けてもゲームを楽しんでいた。私はそんなマリの姿を見てゲームをしてみたいと思ったのだ。

 ある意味、これも才能なのかと気付かされる。

「いいものを見せてもらった」

 いかついカウンターの男が私たちを見下ろしている。私は警戒し、身を固くする。

「またいつでも遊びに来るといい。それと、関西弁のお嬢ちゃん」

「マリや」

 私はそんなに簡単に個人情報を流してもいいのかと危ぶむ。

「マリちゃん。あんたは弱いわけじゃない。単に相手が悪かった。うっぷん晴らしなら、そこらのモヒカンが最適だぜ?」

「残念やけどな、おっちゃん」

 にたり、とマリは笑う。

「ウチは弱いもんには興味があらへん。常に上を目指し続ける男やからな。女やけど。それに――」

 マリは両腕を私とリナの肩に乗せる。

「両手に花やからな!」

「ふっ。いい心がけだ。君たちはどこまでも強くなっていくだろう。そのための意思を失わなければな」

 そう言ってカウンターの男は去っていく。

「何だったんだ?」

「ギザなだけやろ」

 マリは満足そうにゲームセンターを出て行った。


「ふぅ。今日は満足したわ。次どこ行く?」

「さっきの流れ的にもう帰るんじゃないのか?」

「バカやなぁ、セラは。もうじきウチらはジュケンセンソーとやらに駆り出されるんやで。なら、思いっきり楽しまんと」

「もう受験は終わっているだろう。それに――」

 私たちに普通の生活が待っているだろうか。逃亡者を捕まえ、世界の危機を防げば、も元の生活に戻れるのだろうか。今のように普通の女の子のままでいられるのだろうか――

 マリは深い溜息を吐く。ため息が白い吐息となって寒空に消える。

「また真面目なこと考えとったんやろ。あんましな、先のことを考えても仕方ないで。先のことなんて誰にも分からへん。そうやったら、先のことを考えるんが馬鹿々々しくなるやろ?やから、何か起ったら何か起った時に考えれば――」

 マリの口がピクリとも動かないので私はリナと顔を見合わせる。そして、マリの視線の先を見つめる。

 私とリナも思わず開いた口が塞がらない状態に陥ってしまった。

 商店街を二人の子どもが歩いていた。

 一人は印象的な黄色いスーツに赤い蝶ネクタイ。

 そしてもう一人はアフロヘアに茶色いサングラス。

「ダンディ×野にダソ×マソやないけ」

「いや、多分あれはピ×太郎を真似たんじゃないか?」

 チャラチャラした服だし。多分、いい鬘がなかったのだろう。

「なるほど。ハポネルツェ・コメディアンヌの変装なのですね」

「容赦なく変装とか言ったな」

「それよりも色々とツッコミどころがあり過ぎてあれなんだが。すまない、二人とも。私の頬を抓ってくれるか?」

 私の頬をマリとリナが両側から引っ張る。マリは容赦なく抓ってきたのでお返しに抓ってやった。

「なんでウチだけやられんとあかんねん」

「リナは可愛いからな」

「まあ!」

「ウチだって可愛いからな!」

「自分で言うのか」

「悪いか!」

 ともあれ、夢ではないようだった。

「夢でないならより質が悪いんだ」

 そもそも変装という線は考えていたし、いつか逃亡者も往来を歩くだろうとは思っていた。けれど、何故よりにもよって目立つような芸能人の変装なんだ!宴会芸から抜け出してきたのか!忘年会シーズンも終わっている!

「というか、時代的に大丈夫ですの?」

「もう、そこは気にせん方がええと思うで」

 だって、ハヤテのごとく!なんて少しも気にはしていなかったからな。

『商店街を不審な二人組が――』

「はい、了解」

 私たちはすぐに通信を切る。

「まったくもって馬鹿々々しい」


 私たちは不審人物を囲む。

「な、何なんですか!?」

 ピ×太郎がそう言う。

「それはこっちのセリフなんだが……まあ、いい。また会ったな。逃亡者」

 私は鼻で笑う。

「なるほど。まさか、バレるなんてね」

 ダンディが答えた。

「いや、バレないと思う方がおかしいですよ!みなさん、すっごく凝視してましたよ!?」

「あらあら。それはフキちゃんがくぁわいいからよ?」

「惚気はよそでやれ」

 そもそもに目の前に敵がいるというのにどうしてそこまで漫才を繰り広げられるのかが不思議だった。

「まあ、本当に惚気なんだけど」

「それより、私たち、囲まれてるよ?コトちゃん」

「そうね。どうしようかしら」

 私たちは面倒なので魔法少女に変身する。

「なら、私たちも変身するほかにないのね」

 逃亡者たちも魔女と魔法少女に変身した。

「ただ、やっぱり、ううん、そう言うことなんでしょうね」

「何が言いたい」

 私たちは魔女に武器を向ける。魔女はふんわりと宙に浮かび、私たちを見下ろしている。

「三人か……フキちゃん。手伝ってくれる?」

「うん!」

 魔法少女はさらなる変身を遂げる。白いシャツに黒のスカートといういでたちだった。

「タイプ・ソーサラー――」

 私が腰を低くして突撃をかけようとした瞬間、私の背後から風を巻き起こして逃亡者に向かうものがいた。

「リナ!?」

 リナは両手に双剣を構え、逃亡者たちに切りかかろうとしていた。

「ちっ。マリ。行くぞ!」

「そんなに怒鳴らんでもインカムで聞こえるっちゅーの!」

 私とマリも逃亡者たちに向かって行く。初動はマリの方が早い。

「なんというか、本当に面倒」

 魔女はリナの双剣を受け止めるべく歪な双剣を具現化する。

「押し切れ!リナ!」

「うるさい!わたしに命令するな!」

 リナの叫びに私は虚を突かれる。まるで全てを拒絶するかのような荒々しい口調だった。いつものリナの口調とは程遠い。

 魔女はリナの双剣を受け止める。

 私たちの装備、戦姫はあらゆる点においてどんな魔法少女にも戦略的に上を行く。だが、もし、私たちが後れを取るといえば、通常の魔法少女の汎用性においてである。つまり、私たち戦姫がパワータイプなら、通常の魔法少女はテクニックで攻めるタイプだった。ゆえに、ひょんなことから形成を逆転されることがある。

「具現化系、変化系に強化系を使っている訳ね。でも、一点集中させないという時点で強化系の強みを失っているわ」

 ふふっ、と魔女は微笑む。

 その瞬間、魔女の持っていた双剣は爆発した。破裂音とともにリナは宙に投げ出される。リナは華麗に一回転して地面に着陸する。

「おい、リナ。相手は二人だ。こちらも協力しなければ、ヤツを倒せん」

「うるさい。わたしに命令するな!」

「どうしたんだ!リナ!」

 リナは獣のような唸り声をあげる。リナの目はずっと魔女の姿を見据えていた。それ以外は眼中にないといった風に。

「殺す、殺す、殺す!」

 リナの持っていた双剣は姿を変える。先ほどより小さくなり、大きなナイフといったサイズにまで組変わる。

「前に出過ぎれば――」

 そう私が言った瞬間にはリナはすでに魔女の懐まで潜り込んでいた。

「くっ」

 魔女は自分の前に壁を作り、かろうじてリナの進行を止めようとしたが――

 その壁はリナの双剣を前に、時間稼ぎにもならない。

「――!」

 リナは魔女の胸に深々とナイフを突き刺そうとし――

 直後、リナを魔砲が襲った。リナは魔法少女の放った魔砲に気がつき、空中を高く飛ぶ。その姿はまるで野生の猿のようだった。

(少なくとも、普通の人間の姿ではない――)

「暴走……か」

「お前は何を冷静にボケてるんだ!」

 私は思わずマリの頭を叩いてしまう。

「なあ、セラ。3型ってのはむこうの国で組み立てられたんやろ?もしかしたら、ウチらと違う風に作られとるんかもしれん」

「まさか――あのシステムを強制的に使わされているというのか――」

 そうなれば、リナの性格が豹変してしまったことにも納得がいく。だが、それは通常の戦姫に変身するたび、異常なまでの身体の負荷がかかることを意味する。

「マリ!この場はリナの援護をする。そして、隙を見て私がリナを回収する」

「それでええんかいな」

 魔女は無数の細かい魔砲をリナに浴びせる。リナは速度を活かし全ての魔砲を避けていた。しかし、それでも限りがあるだろう。

「ウチらの任務はあの二人を捕まえることや。今はチャンスやろう。ウチらの弱点はよう魔法天使から教わっとる。傾向を立てられたら次はない。一撃必殺やないと、よりリスクを負ってしまう」

 リナ一人に二人が対応せざるを得ない今の状況であれば、隙を見て捕獲することができるだろう。

 そうすれば、世界は救われる。

 一人の少女を犠牲にして。

 世界は救われる。

「そんな世界、嫌だ」

 私は薙刀を強く握りしめる。

「私が望むのは、みんながいて、みんなが笑っている世界だ。その世界にリナがいなくなるのなんて、嫌だ!」

 私はリナを守ろうと魔砲の中に飛び込もうとした。あと数センチで魔砲の海に飛び込むという時になって――

「退け。アホ!」

 マリから通信があり、私は後ろさえ見ずに横に回避行動をとった。

 私の体が一度地面を転がった時である。

 魔砲が全て氷づいていた。マリの魔法である。

「これは変化系?でも、あり得ない。変化系と変化系は最も打ち消しあう。なら、変質、とも考えられない。どうしてなの?」

 魔女は目に見えている光景が信じられないという顔をしていた。

「今だ!」

 私は凍り付いた魔砲の上をかける。加速度を驚異的に加速させる氷と変化系の魔法は相性がいい。

 だが、リナは私よりも早く氷の上を駆けて魔女のもとへと向かって行く。

(移動を全て変化系に切り替えたか。それでも驚異的な加速力だ)

 リナの3型は私の一式やマリの二式とは違い、変化系と強化系の二系統の魔法によって移動速度を得ている。瞬発力である強化系と加速力で勝る変化系のとハイブリッドだ。それにより、先ほどまでの驚異的なスピードが発揮される。

だが、魔法少女も見ているだけではなく、リナの方へと襲いかかる。

「コトちゃんは私が守ります!」

(魔砲を拳に纏ったパンチ――私の薙刀の刃と同じような組成って、おい――)

 魔法少女は光る拳をリナに叩きつけた。いいや、叩きつけようとした。だが、リナはくるりと体を回転させて魔法少女の攻撃をかわした。そして、とどめに回転したまま蹴りを魔法少女に加える。

「はわわわわっ――」

 蹴り飛ばされた魔法少女は空を翔ける。というか、跳ぶ。そして、飛んでいく先は――

「なんでこうなるんだ!」

 私の目の前だった。

「退いてください!」

「私のセリフだ!」

 そして、私たちは盛大にぶつかる。

「いててててて」

「なんや?このチビザルは」

 マリは魔法少女に向けて銃を構えている。

「えっと、私は魔法少女フキと言います」

「だれも自己紹介なんかせえゆうてへん」

 ふと、これは逃亡者の一人を捕まえたということにならないだろうかと思った。

「なあ、セラ。どうする?炎の中に包んで動けへんようにするんもええし、氷漬けってのも悪くないやろ」

「そうだな。だが……」

 魔女とリナはまだ戦っていた。時おり回避のためかリナは無理矢理体をねじらせ、魔女に切り込みを入れようとする。武道をやっていれば、それがどれだけ無理な動きなのかがよく分かる。それを何度も行っているのだ。

 魔女はそんなセラの斬撃を受け止める。具現化した剣はすぐに真っ二つになる。もとより防御の要として扱っているわけではないようだった。軌道を逸らしたのち、すぐに新しい剣を作り出し、またも防御に転ずる。

 魔女はリナに対し、防戦一方だ。このまま魔女を攻めれば私たちは確実に勝利する。

 だが――

「フキと言ったか」

「はい」

 フキもまた、私たちと同じようにリナと魔女との戦いを見ていた。

「このままこちらの魔法少女が戦えばどうなると思う」

「多分、体がちぎれちゃいそうです」

「おい、セラ!」

「仕方ないだろう!」

 魔女を倒せばリナは動きを止めるかもしれない。しかし、止まらなかった場合、私たちの手には負えなくなる。今は魔女を倒す絶好の機会でもあり、また、リナの動きを止める絶好の機会でもあった。問題はどちらかしか選べないという、ただそれだけの、当たり前すぎること――

「私たちは仲間を助ける。そのために一時的に力を貸せ。魔法少女」

 フキは力強く頷く。

「私はどうすればいいんですか?」

「魔女とともにリナを圧し続けろ。その隙に私たちはリナを離脱させる。だが、慣れ合うなよ。今回だけ、協力するんだ」

「ねえ、私たち、本当に戦わないといけないのかな」

 そんな言葉、投げかけないで欲しい。

 そんなこと、私一人で判断できるわけない。

「そら無理やな。ウチらは敵や。一度敵同士になってもたら、もう戦うしかあらへんのや。それが戦争。そんでウチらはどうもその戦争の真っただ中に放り込まれたみたいや。まあ、戦争やのに勝つことより仲間のことを考えるアホばっかやけど、ウチはそう言うん好きや」

 にたり、とマリはフキに笑いかける。

「そんじゃ、一世一代の大仕事、参りましょか!」




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