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志望業種は――魔法少女で!  作者: 竹内緋色
第二傷 魔弾の射手
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第1歌 re;

第二傷 魔弾の射手


第1歌 re;



 ソラさんが心をワームに食べられ、コルトが消失してから一週間。私は部屋から出られない状況になっていました。

 目の前で人が二人も消えてしまって、私はとても危険なことに手を染めてしまっていたことに気がつきました。

「どうして――」

 もう何回呟いたでしょうか。

「どうしてどうしてどうしてどうして――」

 答えなど出ません。私は必死に体を抱きしめて、恐怖を打ち消そうとします。でも、私をかばって心を食べられてしまったソラさんの顔が、あんなにも満足そうで。いっそ恨んだような顔をしてくれれば私は気が楽だったのかもしれません。

「どうして私なんかをかばったの……」

 ソラさんは絵が賞に受賞して、きっとキワムさんともお似合いのカップルで、私なんかより未来があったのに。どうして――

「フキ。いる?」

 扉をノックしてミワちゃんが言います。けれども私は答えません。貝のように黙ってやりすごそうとします。

「ねぇ、フキ。そろそろ出たらどう?」

 外に出る。

 外に出ると恐ろしい現実と向き合わなければならない。

 誰かがいなくなってしまうような、そんな恐ろしい現実に。

「ずっと逃げてばかりじゃどうにもならないわよ。別にずっとそうしていたいのならそうしていなさい。あんたはそれまでの人間だったってことだから。

「ミワちゃんは――」

 私は口を開きます。

「ミワちゃんは知ってたの?」

 ワームが心の花を食べるということ。そして、魔女が消失するということ。そして、なにより――

「ええ。知らなかったのはアンタだけよ。フキ」

 私は胸から何かが飛び出してしまいそうになるのを必死で堪えます。きっと私はこの胸の中のものを解き放ってしまうと普通ではいられなくなると私は感じました。

「どうして――どうして教えてくれなかったの?」

「教えられるわけないじゃない!」

 ミワちゃんが扉の向こうから怒鳴る声に私は身を縮めます。

「みんな、あんなに楽しそうだった!ひと時でも魔法少女の運命を忘れられていたの。そんなみんなに現実を思い知らせるような、そんな悪魔になれって言うの?」

「ごめん。ミワちゃん」

 頭の中がぼーっとなって、上手く考えがまとまりません。そのまま自分が物質のようになってしまいそうでした。

「だから、謝るな! アンタはそうやっていつも自分の思いを閉じ込める! それがダメだって言うのよ!」

「ミワちゃんに、ミワちゃんに何が分かるの?」

「分からないわよ」

 ミワちゃんもまた、涙声になっていました。

「ミワちゃん。キワムさんはどうなったの?」

 キワムさんはあの魔女のような黒い装束に変身した後、どこかに去っていきました。そして、まだ戻ってきていません。

「そんなの……ミワだって聞きたいわよ。アオだって帰ってこないし」

 だから、今、私の家にいるのはミワちゃんとコロネちゃんと私だけです。

「アンタがそこから出てこられないならそれでいい。でも、もし外に出て真実を受け入れられるのなら、真実を教えてあげてもいい。魔法少女に戻るか戻らないかに関わらず」

 ご飯、部屋の前に置いておくから、と言い残してミワちゃんは去っていきました。


「よう。フキ!」

 扉の外から声をかけてきたのはコロネちゃんでした。いつもならノックもせずに部屋に入ってきますが、どうも気を使っているようで部屋に入ってくる気配はありません。

「どうだ?元気か?」

 到底元気であるとは言えませんでした。

 私はこんな時でも元気がいっぱいのコロネちゃんが羨ましくてたまりません。

「コロネちゃんはどうしてそんなに元気なの?怖くないの?」

 もう何度も何度も頭の中で同じ光景を繰り返してきました。そして、最後には考えることをやめてしまうのです。

「怖くないわけないぞ」

 コロネちゃんにしては真面目な声で言います。

「ワタシだって、フキと似たようなものだ。特に覚悟もなく魔法少女になった。ソラが心を食べられたのはショックだった。目の前でコルトが消えてしまったのも信じられなかった」

「じゃあ、どうして――」

 そう、誰だってあの光景を見れば平気でいられるわけがありません。自分自身があんな目に遭うんじゃないかと思わないはずがないからです。

「それは、フキたちがいるから、だな!」

 コロネちゃんはしばし語りました。

「実はな、ワタシは日本人から生まれたんだ。どう見ても外国人だろ?ワタシの見た目は。でも、両親は両方とも日本人らしくてな。医者もなんでこんな子どもが産まれたのは分からなかったらしい」

「らしい……」

 コロネちゃんの言葉はまるで自分は関わっていないというようなニュアンスがありました。まるで他人事のような――

「だから、ワタシはすぐに親に捨てられた……らしい。実は一度しか親の顔を見ていないんだ。それも窓の外からそっとな」

「ごめんなさい、コロネちゃん。そんなことが――」

「いいや、いいんだ。こっちこそ済まないな!暗い話をして!」

「ううん。私は構わないから」

 きっとコロネちゃんはずっと自分の中で我慢してきたのだと思いました。私達に打ち明けたいのに打ち明けることができなかったのでしょう。

「ワタシはずっと孤児院で育った。声優になって、魔法少女になるまではな。このコロネって言うのも孤児院の人につけてもらったのが元になっているんだ。一度だけ、な、住所やらを調べて親に会いに行った。初めから遠めに見るだけだったけどな。その時、両親はワタシの妹と遊んでいた。その時、すっかり悟ったよ。ワタシにはどこにも居場所がないんだってな。誰とも居場所を作ろうとしなかったから、こんな滅茶苦茶な性格になった。大分メイワクをかけただろう?」

「そんなこと、ない!」

 コロネちゃんの言葉を聞いていると自分がちっぽけに思えてきました。コロネちゃんはこんなにも辛い現実を受け入れて頑張っているのに――

「でも、そんなワタシにも、ずっといたい場所ってのができた!だから、ワタシはそのために戦うぞ!」

 元気を出せよ、と言い残してコロネちゃんは去っていきました。


 昼間だというのにカーテンを閉め切って夜みたいな部屋の中に私はいました。

 すると、昼間なのか夜なのか分からなくなって、あまり食事をとってないせいか頭もぼーっとしてきて。

 私はぼんやりとする頭でいなくなった二人のことを考えました。

 キワムさんとアオちゃん。

 キワムさんはあの戦いの後から姿を見せませんでした。私のコンパクトで黒い姿になった後、消えるように、まるで初めからキワムさんなんて人間がいないかのようにわたしたちの目の前から消えてしまいました。

 コンパクトを奪われたとき、私の心はとても軽くなりました。全てから解き放たれて、もう戦わなくていいと分かって。

 でも、私は傍に居て欲しい人をなくしてしまいました。ずっと傍に居て、悲しい時や落ち込んだときに励ましてほしい人が。

 それでも、ミワちゃんは平気を装っています。きっと、キワムさんにべとべとだったミワちゃんですから、ショックも大きかったはずです。

 アオちゃんもまた、ソラさんを目の前で失ってショックだったでしょう。

 それも、私をかばってソラさんはワームに食べられてしまいました。大好きだったお姉さまを奪った私をアオちゃんは許してくれないでしょう。私はアオちゃんに会うのがとても恐ろしい。

『もう、いいんじゃないかな』

「え?」

 私には幻覚が見えているのでしょう。

 私の目のまえに、人を形どった光のようなものが現れました。まるでグリッターティガのようです。

『いつものごとく、読者置いてきぼりのネタね』

 グリッターはすごく俗世的なことを言いました。もうちょっと可愛ければティンカーベルと呼んでもよかったのですが。

「あなたは?」

『別にグリッターでもなんでもいいわよ。まあ、妖精の名前だけは勘弁してほしいかな』

「わかりました。グリさん」

『うん。おっけー。私はもう名も形もなきもの』

 そんな人が私に何の用でしょう。

『別にね、大した用じゃないの。ただ一言、もう、戦わなくてもいいんじゃないって』

「私は――!」

 ずっと我慢していた想いがこみ上げてくるのを感じます。自分が壊れないように必死で我慢してきたもの。

「私は戦ってなんかない!ずっと、ずっと逃げてる!」

 部屋に閉じこもって、何もしようとしないで。ずっとずっと私は逃げているのです。

『ううん。フキちゃんは立派に戦ってる。だって、ソラとコルトのことをずっと忘れないようにしてるでしょう?』

「忘れられるわけないじゃないですか」

 それさえ忘れてしまったら、私は申し訳なくて、申し訳なくて。

『でも、もういいんじゃないかな?人間は悲しみを忘れないと生きていけない。自分のせいで誰かが苦しみ続けるだなんて、二人も望んでない』

「それだけは――できません!」

 どこの誰だか分かりませんが、あの出来事を私は忘れたくないのです。私の中から二人の死をなかったことにしたくない。

『そう。フキちゃんが私の思った通りの子でちょっとホッとしたな。でも、そのままだと、二人が悲しむよ。今のフキちゃんを見てると。戦わなくてもいい。私達の願いはただ、フキちゃんが元気に過ごすことだから』

「あなたは一体――」

 まるで遠い昔にあったことがあるような気がしました。まだ12年しか生きてませんけど。

 話は終わったというようにグリさんは弾けて光の粒になって消えました。

 私が二人のことを忘れずに生きていても、私が生きることを止めてしまったらどうにもなりません。罪を償うなんてそんな重いことは成し遂げられませんけど、きっとこのままじゃいけない気がしてきました。

 私は恐るべき現実グレート・オールディスト・ワンと戦わなければなりません。戦わなくてもいいとグリさんやミワちゃんは言いました。けれど、もう私は十分逃げました。逃げて逃げて、そして、もう逃げることに疲れてしまったから。だから、今度は私の反撃の開始です。



 私の目の前には大きく重い扉がありました。質量とか現実的にはそういうことはありません。ただ、久々に外へ出るというのは私には少し緊張してしまうことでした。もしかしたら、全世界の人々の目が見えなくなってしまっているかもしれませんし、食人植物に人々が襲われているかもしれません。

「それでも、守りたい未来が、あるんです!」

 私は二回深呼吸をして、それでもやっぱり足りなくて、もう一度息を吸って吐きます。

「よし」

 ノブを握る手は震えて、汗がにじんでしまっています。

「メメタァ!」

 私は勢いよく扉を開きました――


 とはいえ、何かがある訳でもありません。

「みんなは――いない、のか」

 どうやら二人とも出かけているようです。別に部屋から出ることはありました。みんながいない時とか、誰もいない時を見計らってトイレに行ったりはしました。

「でも、シャワーくらいは入っておこう」

 私は久々のシャワーを浴びました。

「私はどうすればいいんだろう」

 勢いよく出ては見たものの、私はこれからどうすればいいのかよくわかりません。頭からあったかいシャワーを浴びながら、これからどうすればいいのかを考えます。

「どうするべきか、じゃなく、どうしたいかなんだと思う」

 私はどうしたいのか。きっとそれは他の人にとってはとっても簡単な願いなんだと思います。けれども、私にとってはとっても難しいことなのです。私は私が本当に何を望んでいるのか分からない。誰かの笑顔を守りたいはずの私がこうして部屋に閉じこもって怯えていたのですから。

「だから、小さな一歩ずつ、踏み出していこう」

 私はシャワーの蛇口を締めました。


 とても生活感の漂う家の中が気になりましたが、私は家を出ます。きちんと合いかぎで家の戸締りをしてくれていたことだけが救いでした。

「二人してどこに行ったんだろう」

 学校でしょうか。

 けれども、あの日以来、二人はあまり学校に行っているようには見えませんでした。私のせいでもあるのでしょうけど。

「さて、行きましょうか」

雪が解けてもまだまだ冬は長いです。そんな道を私は行きます。とはいえ、バスで移動するのですが。

 私が向かっているのはこの町と隣町との境目にある山です。その山の辺りにある白い施設が私の目的地でした。

 妙に人気のない敷地内を進んで、入り口に行きます。

「待ってたザウルス」

 私を迎えたのは、一匹の妖精でした。

「あなたは?」

「ライ、ザウルス」

 たくあんのような妖精は私にそう言いました。

「今日はライがこの施設を案内するザウルス」

 ライはわたしの肩に乗って案内を始めました。

「ここは心の花を食べられた人々が収容される場所ザウルス」

 つまりは、病院なのでした。

 空いている扉から病室を覗くと、多くの人々がいて、そのほとんどが少年少女でした。時々、歳の大きな人もいました。

「心の花を食べられると、心を失うザウルス」

「どうしてワームはそんなことを――」

 そして、どうして魔女はそんなワームに加担しているのでしょう。それはとても罪深き事であるのに。

「それは簡単ザウルス。ワームを倒せるのは魔法少女だけザウルス。だから、魔法少女になり得る存在の心を食べてしまえば全て解決ザウルス」

「そんなことのために――」

 私は虚ろな目をして虚空を睨んでばかりいる人々を見て言います。

「そんなこと、と本当に君は言えるのかい?」

「え?」

 私は妖精を見ますが、妖精は決して目を合わせようとはしませんでした。

「ワームにとって君たちは常に刃物を持った人間が歩いているのと同じようなものなんだ。そんな人がいたら君はどうする?」

「それは……警察に通報します」

 私達は歩きながら話します。病院の中は時間が止まったような空間でした。どこを歩いても同じ景色でしかありません。

「じゃあ、その警察は刃物を持った人をどうする?」

「逮捕します」

「そう。でも、近くにそんな人がいて、警察もいないような場所なら君はどうする?」

「それは……」

 どうしてその時言い淀んでしまったのか――

「その人とお話をして――」

「いい子ちゃんぶるんじゃないザウルス」

 私は妖精に叱られます。

「きっと君はその人に近づけさえしない。つまりはそういうことザウルス。ただ、恐ろしい力を持っているからというだけでこの世界では簡単に争いが起こるザウルス。それが国同士の戦いになったのが戦争なだけザウルス」

「あなたは、ワームの肩を持つんですか?」

 私には妖精がワームの行為を正当化しようとしているように聞こえました。

「そうじゃないザウルス。ライはこの世界の仕組みについて話しているザウルス」

 でも、と私は少し疑問を持ちます。

 武器を持っている人が武器を手放せばいいんじゃないか、と。

 ですが、もし、私が武器を持っている人で、周りの人々がワームであったなら、きっと私は怖くて、魔法とういう武器を使うことでしょう。争いを好まなくても、魔法少女の力は手放せないことでしょう。

「さあ、君の目的ザウルス」

 私は『ソラ』とだけ書かれた表札を見て、身を固くします。妖精は私の肩からするりと抜け出てしまいました。開いている病室の扉はノックする必要がなさそうでしたが、私は壁を叩いて声をかけます。

「ソラさん。入ります」

 私の声だけが無駄にこだましました。しばらくソラさんの反応をうかがっていましたが、

反応はありません。

 私はまた深く深呼吸をして、中に入りました。

 ソラさんはやはり、思った通りに、この病院の人々と変わらないように、目を虚ろにして宙を見つめています。ただ、少しの感情の起伏もなく、私が訪れているのにも気付いていないようです。

「ソラさん……」

 私の目からは温かい涙がぽろぽろと流れ出ました。

 私がソラさんの未来を奪ったんだ。

 そう思うと、どうしようもない現実が押し寄せてきて――

 私はソラさんを見ます。涙で目が曇っても、きっとソラさんから目を逸らしてはいけないから。もう、逃げるのはやめにしようと決めたから――

「ソラさん」

 私はソラさんに近づきます。そして、ソラさんのすっかり冷たくなった手を握ります。

「ごめんなさい。ソラさん。私が弱かったばかりに、誰も守れなくて――」

 私は思わずソラさんに抱きついていました。一週間のうちにソラさんの体はすっかり小さくなってしまったように思えました。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 私はソラさんにそんなことしか言えませんでした。

 ソラさんのために何かしなくてはいけないと分かっているのに。ただ謝っているばかりじゃ、どうしようもないのに。このままじゃ、ひきこもっていた時と同じだ……

 ぽんっ。

 私の頭に軽く衝撃が走ります。

 何事かと思って見上げると、ソラさんの手が私の頭に載っていました。

「ソラさん……?」

 ソラさんの顔は相変わらず無表情で何を考えているのか分かりません。まるでキワムさんみたいです。

「ソラさん!ソラさん!」

 それは奇跡のようなものだったのでしょう。それ以降ソラさんは何の反応も示さなくなりました。まるでとてもリアルなお人形のようになってしまっています。

 私はベッドに座っていたソラさんを布団に寝かせます。その時、ベッドの端にコンパクトが見えました。

「これは――」

 そのコンパクトを見た瞬間、私は病室の外に出ていました。

 そのコンパクトはソラさんのものではなく、私のものでした。

 私のコンパクトを今持っているのはキワムさんだからです。

 でも、キワムさんはどこにもいません。

 私は病室に戻り、コンパクトを手に取りました。

「ソラさんもキワムさんも私に戦えと言ってくれているんだ。怖いけど、でも、私は、私は夢を叶えたい!」

 ずっと笑顔のままの世界。その夢は破れてしまったけれど、これ以上悲しみを増やさないために私は戦います。

「ドリーム・コンパクト! ドリーム・スタート!」



 そのころ、ミワたちは苦戦を強いられていた。

「まあ、苦戦って程でもないけどね」

 ミワたちの前には一匹のハザードワームと、そして、もう一つ、厄介な影――

「アンタ!時間をあげるから、ミワに名乗りなさい。それだけの時間はあげるわ」

「ケケケ。そんなこと言ってる暇があんのかよ」

 ウザいうさぎだ。

「ほれ、行くぞ! スミス!」

「待ってよ。ウェッソン……」

 ミワたちの目の前でぶらぶら死体のように浮かんでいるのは一体の魔女だった。口を覆うほど大きなマスクをしていて、両手にはクマとうさぎのパペットをつけている。どうやら腹話術のつもりらしい。

 ちなみに、ウサギの方が何故だか態度がデカくてウザい。

「ちっ」

 ミワは華麗に魔女の攻撃を避ける。ミワのいた地面が突如として崩壊する。あんなの、当たったらひとたまりもない。

「概念崩壊か……」

 変質系の魔法は対象となる事物に概念を付与するものだ。つまり、飛べない豚に『飛べる』という概念を付与すれば、簡単に飛べるようになる。現実に影響を及ぼすことができる魔法の一つだ。だけど、持続時間はとても短い。

「目に見えないというのが難点ね」

 例えば、豚に『飛べる』という概念と『飛べない』という矛盾した概念を付与すればどうだろうか。魔法はその二つを忠実に再現しようとして、事物の概念を崩壊させてしまう。最強の盾と最強の矛はこの世に存在できない。どこかで世界は妥協していて、同じ強さの相反するものはこの世には存在しないのだ。それをこともあろう一つの物に背負わせるのだから、二つの概念を付与されたものは根底から崩壊する。つまり、この世界から消えてなくなってしまう。

「そっちはどうなの?コロネ」

 ミワはワームの相手をしていたコロネに話しかける。

「暴れくるうからな。最大級のドリーミングをしようと思っても、時間が足りないぞ!」

「そう……ね」

 二人だけでは魔女もワームも倒せない。特に、今度の魔女はこの前の魔女とは格が違う。そこに沈む執念がケタ違いだった。

「さて、逃げるか否か――」

 逃げなければ確実にやられるのは分かっていた。ワームを倒せるのは魔法少女しかいない。だから、もっと仲間を集めてワームに再び立ち向かうということもできる。そのための撤退だ。

「ミワがあいつらを引きつけるから、コロネは先に逃げなさい」

「おいおい。抜け駆けはいけねえな」

 コロネは鼻で笑う。

「これ以上仲間が少なくなるのはワタシも嫌なんだ。少なくとも、ミワ一人でいかせはしない」

 どうやら、ミワの考えはバレバレだったみたい。

「覚悟はいいわね」

 コロネがコクリと頷いたときだった。

「待ってください!」

 ずっと待ち望んでいた頼りないヒロインの登場だった。



「待ってください!」

 私は箒から飛び降りて、戦っているミワちゃんとコロネちゃんのもとに舞い降ります。

「なんだか衣装が変わってません?」

「一応2期だからな」

 私も二人もマイナーチェンジしていました。

「じゃあ、特別な能力とか出てくるんでしょうか!? 新しいカードに変わったり?」

「しないから、ちょっと空気読んでくれる?」

 まさか、ミワちゃんに諫められる時が来るとは思っても見ませんでした。

「あのね、フキ――」

「行きますよ!二人とも!」

 私は二人の肩に手を載せます。

「まずはワームを倒します!」

「させるか!」

 大きなマスクをした、これまた変わった魔女が攻撃しようとしてきます。

「コロネちゃん!」

「うむ!」

 コロネちゃんは壁を作り出します。

「そんな程度の壁、簡単に壊せるぜ!」

 ヒャッハー!とうさぎさんが言います。そして、簡単に壁を粉々にしてしまいましたが――

「なに!?」

 壁は何枚も何枚も連なってきて、魔女を押し込めます。

「大丈夫?コロネちゃん」

「ああ!」

「早く!ワームの動きを封じたから!」

 ミワちゃんの掛け声に私達はワームを睨みます。

「行くぞ!フキ!」

「はい!」

 私はコロネちゃんに向け、魔力を回します。

「いくぞ!天の裁きを受けよ! ジャッジメント!」

 コロネちゃんの放出した極大の魔砲はワームを飲み込み、消失させました。

「ふぅ。疲れたぞ!」

 コロネちゃんはその場にへたり込んでしまいました。

「大丈夫?コロネちゃん?」

「ああ。それより、フキ。ヒキコモリが治ってよかったな。ヒキコモリが治る薬をインドまで取りに行くつもりだったぞ!」

「ありがとう。コロネちゃん」

「べ、別にミワが食事を作ってあげたからフキが生きてるんだからね!感謝してもしなくてもミワはどっちでもいいんだけど」

「とっても回りくどいよ。ミワちゃん」

「な、なんなのよ!文句ある?」

 ううん、と私は頭を横に振ります。

「ありがとう。ミワちゃん」

 すると、ミワちゃんは恥ずかし気に顔を逸らします。

「恥ずかしがってなんてないんだから」

 私はふと新しい魔女が気になって探しますが、もうどこかに去っていった後のようです。

「さて。じゃあ、現実の真実を教えようかしら」


 さて。いくらの人が見ているのか分かりませんが、2章目突入です。少し鬱であることと、実家に帰っているということで、更新は遅くなります。まあ、今までが異常なまでに書き進めていただけな気がします。はい。

 カクヨムの方では行間を開けたバージョンや本編の2年前の話をしていたりします。そちらもどのくらいの人が読んでくださっているのかはわかりませんが。

 この暑い日の中、無理をせずに、ご自愛ください。


 では、失礼いたします。

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