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志望業種は――魔法少女で!  作者: 竹内緋色
第一唱 終わりの始まり 
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第二十羽 赤い転校生

第二十羽 赤い転校生


「コトちゃん。おはよう」

「おはよう。フキちゃん。なんだか今日は元気ね」

「私、いつも元気ない?」

「そういうことでもないんだけど」

 私はコトちゃんに声をかけます。今日から冬休みが終わって新学期が始まります。

「まだ寒いわね」

「でも、もうすぐ春が来るよ」

「そうね」

 コトちゃんは微笑みます。

「フキちゃん、みんなと暮らし始めてから明るくなったわね」

「そうかな?」

 自分ではあまり気がつきませんでした。

「もう、私は必要ないのかも……」

「え?」

「ううん。なんでもない」

「朝からお暑いわね」

「そうやってキワムさんにべったりの方が暑苦しく感じます」

 ミワちゃんは相変わらずキワムさんにべったりです。昨日の騒動のために少しの間我慢していただけで、これがミワちゃんの平常運転でした。

「なかなか言うようになったじゃない。ちょっと態度デカいわよ」

「ごめん」

 やはり、調子に乗り過ぎて……

「あのね、アンタ、ミワをバカにしてるの?」

「なんでそうなるんですか」

「別に謝らなくてもいいの。出会った頃みたいに遠慮の塊みたいな態度したら釜揚げにするんだから」

「釜茹で、の間違いよね。それと、ミワって真性のツンデレ?」

「真性なんて使わないでくれるかしら?年増。ちょっと間違いを訂正したことは許してあげるけど、ツンデレって言ったことは許さないから」

「どうしてツンデレだけに怒ってるんでしょう……」

「だって、ミワはおにいちゃんにだけデレデレなんだから。ミワはおにいちゃんのデレデレラガールズなの」

「寒いわ。親父ギャグ寒いわ」

「大丈夫ですよお姉さま。ボクはお姉さまだけのデレですから!」

「突然飛び込んできたな!あと、コロネちゃんがこっちだとボケようがなくてちょっぴり困っているぞ」

「本当ににぎやかになったね」

「そうだね」

 みんなで通う通学路になっても、私はコトちゃんと肩を並べて歩く通学路が好きでした。


「いやあ、最近このパターン多いわよね」

 呑気なソラさんの声が響きますが、そんな暇ではないのです。

「コルト……」

 黒い髪になっていますが、あれはコルトです。何気なくキワムさんの隣に立っています。

「さあ、自己紹介を」

「いや、お前もちょっとは突っ込んだ方がいいと思うけどな」

「キワムさん、魔女につっこまれてますよ」

 私はミワちゃんの方を見ますが、ミワちゃんはつまらなさそうな顔でコルトを見ています。

「ソラさん。いいんですか?」

「まあ、あの赤毛が何かしてこない限りはいいんじゃない?」

 今は赤毛じゃないとかそういうことはどうでもいいようです。

「ま、よろしくな」

 にたり、とコルトは笑いました。


 コルトはありきたりに隣の席に座ります。

「そこにいた子は?」

「ここに誰がいたのか覚えているのか?」

 私の前にはミワちゃんがいて、右隣にはコトちゃんがいます。そして左隣にはコルトが座っていました。

「どうして転校なんてできるの?」

「テメェは俺たちの何を知ってるんだ?俺たちが普通の小学生じゃねえってどうして思えるんだ?」

 そう聞かれて私は魔女について何も知らないということを思い知らされました。

「あなたたちは何者なの?どうしてワームと一緒にいるの?」

「俺たちとあいつらはただ単に利害関係が一致してるだけだ。それ以外に何もねえよ」

「何が目的なの?」

「それはそっくりそのままテメェに返してやるぜ。頭よわ子」

「そんな名前じゃないもん」

 ふっ、ととてもバカにしたように笑われます。

「ま、お前はお前の名前を後生大事に持っておくんだな」

「え?」

 それきりコルトは何も言いませんでした。


 お昼になりました。

「なんだ、テメェら。これから帰るってのに飯を食うのか?」

「この学校ではご飯を食べて下校することになっている」

「マヂか」

 キワムさんがこっそりとコルトに忍び寄って言いました。

「で、でもよ。俺は魔女だ。魔女はアウトローって決まってっからよ。俺は食わねえぜ」

 そんな時、お決まりのようにくぅうとコルトのお腹が鳴ります。

「べ、別に腹なんて減ってねえからな」

「コルト。私のお弁当あげるよ」

「なんだよ、その笑顔は。俺はアウトローなんだぜ」

「この後掃除もあるが、コルト。お前は朝食べてるのか?」

「食ってねえよ。なんだよ、お前ら」

「なんだ?どっかの駄魔女がいるぞ」

「テメェ、コロネ!今こそ雪辱を――」

 くぅうぅう。

「みんなで少しずつ分けてあげよう」

「テメェらを倒すために仕方なく食ってやるんだからな」

 そう言ってコルトは仕方がないと肩をすくめて座りました。

「……」

 差し出されたおかずを見てコルトは黙り込みます。

「テメェら、俺を虫にしてェのか」

「だって、ワームの親玉でしょ?」

「ただ単に苦手なものを差し出しやがっただけだろうが!」

「まあまあ」

 ちょっとみんな悪戯が過ぎたとちょっとだけ好きなものをコルトに差し出します。

「ご飯がねえのは不満だが、まあいい」

「コイツ、自分が食べさせてもらってるってことを分かってるのかしら」

 ミワちゃんは自分で言って自分で落ち込みます。

「なんでコイツが落ち込んでんだ?」

「ミワちゃん、妖精と契約してないから魔法少女としてお金をもらってないの」

「だから、このロリコンも合わせてボクたちのヒモなのさ」

 カッカッカッカとコルトは笑いだす。

「テメェらおもしれえじゃねえか」

「魔女も普通に笑うのね」

「ミワちゃん……」

「んだ?ケンカ売ってんのか」

 一気に険悪な雰囲気になってしまいます。

「別にミワは何も思ってないけど。アンタが好きなようにすればいいんじゃない」

「ったく、素直じゃねえな」

「どっちがですか」

「コロネちゃんが目立たないぞ!」

「あんたはちょっと黙ってなさいよ」

 ソラさんがコロネちゃんを宥めました。

「なんというか、だな。この弁当うまいぜ。シェフを呼べ」

「わたしだけど?」

「あん?これ、青髪が作ったのか」

 コルトがソラさんを睨みます。

「ほんと、変わってないわね」

「あん?俺のこと知ってんのか」

「さあ」

 コルトはバツが悪そうにしていました。


「どうして俺があいつらと一緒にいなきゃいけねえんだ?」

 コルトの問いにピースメイカーが答える。

「だって、その方が展開的に燃えるからよ」

「喧嘩売ってんのか、テメェ」

「やめとけ、コルト。お前ではピースメイカーに勝てん」

「分かってんだよ、黙ってろ。ウェッソン」

「残り少ない時間を楽しんできてもいいんじゃない?しっかりと復讐してきなさいな」


「なんで俺があいつらと……」

 コルトは木の上で下校する生徒たちを見ていた。

「魔女になったからにはもう戻れねえのは分かってんだけどよ」

 にゃー。

「にゃあ?」

 気がつくとコルトの傍には子猫がいる。

「んでこんなところにキャットがいるんだよ」

 コルトは頭を掻きむしる。

「ベタな感じで降りられなくなったのか」

 ベタな感じと言いますと、今回はかなりベタでしたよね。

「うるせえ。というか、似たようなことを十羽ほど前にやったばっかじゃねえか」

 ソラさんの回ですね。

「だから今一筆が乗らねえんだろ?」

 コルトは猫に手を伸ばす。猫は手を伸ばしてきたコルトを警戒して威嚇をする。

「まあ、そんな簡単に受け入れてはくれねえよな」

 現実を受け入れられないのは果たしてどちらなのか。コルトには分からなかった。

「コルト。そんなところで何してるの?」


 私はコルトに声をかけます。

「ほれ。最弱。受け取れ」

 コルトは私に何かを投げてきました。

「ねこ!?」

 私は慌てて猫をキャッチします。

「どうしてねこが。もしかして、コルトが助けたの?」

「そんなんじゃねえよ」

 コルトは一飛びで木から降ります。

「コルトは本当は優しいんだね」

 とても不器用だけどとても優しい子なのだと私はそう思いました。

「どうしてコルトは魔女なんてやってるの?ねぇ、一緒に――」

「一緒に何だってんだ?」

 コルトは目をかっぴらいて、とても恐ろしい顔をします。

「魔法少女にでもなれってのか?何も知らねえ甘ちゃんがよぉ」

 怒りをはらんだ言葉とともにコルトは呪いの言葉を吐きます。

「全てを壊せ。全てを我が物に。憎き者を駆逐せよ」

 コルトの立っていた地面から黒い霧のようなものが立ち込め、コルトの体を包みます。それらはみるみるうちにコルトの衣装を魔女の黒いドレスに変えていきました。

「俺は魔女だ。決してお前らとは逢い慣れねえ。それを証明してやる!」

 にたり、と口が裂けんばかりの奇妙な笑みをコルトは浮かべました。

「出でよ!ハザードワーム!」

 コルトは胸から黒いガラス玉のようなものを取り出します。それを地面に叩きつけて割りました。

 空が急に曇り、雷鳴が轟きます。その雷鳴とともに黒いワームが姿を現しました。

「一体、なんなの?」

 今まで見たことのあるワームとは一線を画していました。全体的に色艶のない黒色の体を持ち、大きさも今までのワームとは比べ物になりません。そして何より一番特徴的なのは頭部についた無数の髭のような触手です。でも、その触手を見ると、それは人の手が生えてきているように見えます。

 ただ、見ただけで吐き気を覚えるような、そんな化け物の姿がそこにありました。

「フキ!」

 みんなが駆けてきます。

「コルト。これがアンタのやりたいことなの?」

「ああ。俺はやりたいことをやるだけだ。願いを叶えるためには手段を選ばねえ」

「コルト。あなたは何がしたいの?」

「復讐だ」

 途端、ワームから大きな音が発せられます。

「大丈夫?フキ」

「ええ。みなさんは大丈夫なんですか?」

 どうも騒音に悩んでいるのは私だけのようです。

「みなさん!変身です」

 変身速度、0.001秒。前回初めて追加された設定です。大きなお友達にしか理由は分かりません。

「あれは多分今までのワームとは違います」

「そのくらい見れば分かるって」

 ソラさんはポンッと肩を叩きます。

「アンタも戦うってのならわたしが相手になるわよ」

「俺が戦うまでもねえよ」

 ワームに向かっていたコロネちゃんたちが吹き飛ばされます。

「流石ハザードワームってところか」

「ソラさん、あれのことを知ってるんですか?」

「まあね。わたしはあれが普通のワームだと思ってたくらいだから」

 その時ほどソラさんが熟女であると感じたことはありませんでした。

「フキ。ボケてる場合じゃないと思うけど」

 ソラさんはコルトに背を向け、ハザードワームと相見えます。

「まずは動きを止めないと」

 ソラさんは鎖を作り出してハザードワームに巻きつけようとしますが――

「!?」

 ハザードワームは簡単に鎖を砕いてしまいました。

「やっぱり、わたしだけでは力が――」

 そんな時、私達の耳にインカムが取り付けられます。

「みんな、聞こえてるか?」

「キワムさん!?」

 校舎の近くにキワムさんが立っていて私達の戦いを見ているようでした。このインカムは誰かが魔法で作ったものなのでしょう。

「奴は強い。連携して倒さないと被害は広がってしまう」

 ハザードワームが見えない人々がまだ近くにいる状態でした。

「ラストアタッカーはコロネ。コロネの魔砲ならハザードワームも焼き殺すことができるだろう。だが、コロネが最大級の魔砲を放つには時間がかかる。そして、チャンスは一回だ。チャンスを作るためには――」

「ワームを捕縛する」

 ソラさんが言います。

「でも、ソラの魔法じゃ到底無理よ。力が足りない」

 ミワちゃんの声が聞こえます。

「だから、フキの出番だ」

「私ですか?」

 役に立たない私に出番なんてあるはずはありません。何かの間違いだと思いました。

「フキ。お前の能力は強化系だ。それはあらゆる事物の概念を強化する。強化系の能力はもちろん自分自身にもかけられるが、他人の力を増幅させるのととても相性がいい」

「でも、私なんかに――」

「また、そんなことを言ってる。ちょっとは成長しなさいよ」

 ミワちゃんが言います。

「深く考えなくても物事何とかなるもんだぞ」

 と、コロネちゃん。

「フキの想いの力ならきっと大丈夫。ボクはフキを信じてる」

 とアオちゃん。

「ほら。みんなこう言ってるんだから、ここでやらないと魔法少女が廃るわよ」

 ソラさんは笑顔で言います。

「フキ。強く願うんだ。そうすれば必ず成功する」

「はい」

 私はキワムさんの言葉に重く返事をします。

「まず、ソラの魔法をフキが強化する。その強化された魔法をアオが操作してハザードワームを食い止める」

「はい」

「了解」

「命令するな」

 私はソラさんの肩に手を載せます。

「緊張してる?」

「はい」

「大丈夫。みんな緊張してる。でも、それぞれがぞれぞれを信じているから。一緒に過ごしてきた日々は無駄じゃないから」

 私は大きく深呼吸をしました。

「じゃあ、行くわよ」

 ソラさんが瞼を閉じてバトンを構えます。

 誰かの笑顔を守りたい。みんなが幸せでありますように。

 私は私の精一杯の願いを込めます。すると体から力だ溢れてきて、それが掌を伝わってソラさんに流れていくのを感じました。

「今だ!」

 ソラさんはステッキを振って鎖を作ります。それは先ほどの鎖とは比べ物にならないほど大きく強力なものでした。

「アオ!」

「はい!お姉さま」

 アオちゃんはバトンを振って鎖を蛇のように従わせ、するするとハザードワームに巻き付けていきます。

 ですが、ハザードワームもこちらの意図に気がついたのかくねくね身を動かして激しく抵抗し始めました。

「なんだか動きがいやらしいわね」

「ソラさん。そんなことを言っている暇じゃないと思うんですけど」

 私はソラさんから手を離し、アオちゃんの手を握ります。

「ありがとう。フキ」

 アオちゃんに力を注ぎ込みます。

「コロネ!あとどのくらい?」

「もうすぐだ!だが、こう暴れられては狙いが定まらない!」

 ソラさんとコロネちゃんが叫び合いながら連絡を取ります。インカムあるのに。

「その方が断然燃えるからよ。? その方が断然萌えるからよ」

「言い直さなくていいですから」

 ぎしりぎしりと鎖が軋みます。

「もうダメか」

「よし!パワー充填完了だ」

 すると、ミワちゃんが箒でハザードワームに突っ込んでいきます。

「ミワちゃん!」

「フキ!アオも、魔法を解除して。邪魔だから」

 私はミワちゃんが危険なことをするんじゃないかと不安になりましたが、魔法を使うのをやめました。

「ミワちゃん!信じてるから」

「フキに心配されるようじゃ、鷺宮の名が泣くわね」

 ミワちゃんはハザードワームに絡まっている鎖に手を触れました。

「お兄様。わたしだけを見ていてね!」

 すると、鎖は鉄の鎖は稲妻の龍と化し、ハザードワームを完全に封じ込めてしまいました。

「すごい――」

 これがミワちゃんの実力なのでした。

「だが、ヒロインはコロネちゃんだ!」

「こんな時まで何を張り合っているんですか」

 でも、それが私達である気がします。

コロネちゃんの発した魔砲はハザードワームを飲み込みました。すごい風圧が私達の頬に叩きつけられます。

「勝った――」

 みんなで力を合わせればできないことはないのだと私は実感しました。


「なんだ?テメェら」

 私達はコルトと向かい合っていました。私は一歩踏み出して言います。

「コルト。もうこんなことは止めて。コルトだってもうこんなことはしたくないんでしょう?」

「価値が決まったからってデカい面しに来たのか」

「違う。私はコルトと――」

「とち狂ってお友達になりに来たのかい?」

「そうだよ」

 するとコルトは狂ったように笑い出します。

「はっはっは。ここまで楽園脳なのには驚いたぜ。でもな、お前、人の話はよくよく聞いておいた方がいいぜ。俺はやりたいことをやっている。周りがどうなろうと気にしねえ。むしろ積極的に周りを巻き込もうとしている節があるよなぁ」

「でも、コルトはそんなことしたいと思ってない!」

「ったく、俺は昨日も言っただろう?押しつけがましいところは反省しろってな」

「でも……」

「それがお前の決めつけって言うんだよ」

「パイソン……」

「だからパイソン言うな!」

 そう捨て台詞を残してコルトは姿を消しました。

「ま、信じてたらいつか願いは叶うと思うから」

 そう言ってソラさんは私の頭を撫でてくれました。

 ちょっぴり目から涙がこぼれそうになったけれど、この涙はコルトが仲間になった時に残しておこうと、そう思いました。


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